第23話 アクィラ

 弓の射場で練習している者達を横目に歩き続けると、直径100メートル程の板塀に囲われた広場が見えてくる。

 ここが剣や槍の訓練場で、フルプレートを着て訓練用の刃引きして両手剣で打ちあう者や、軽快な革鎧に金属の胸当てをして長槍で向き合う者など様々な格好の騎士たちが稽古をしていた。


 ここ半年で思い知らされたのは、この郷のエルフ達の強さだ。


 石動イスルギも陸上自衛隊では第一空挺団という言わばエリート部隊に所属していたし、海外での演習などにも参加して特殊部隊の隊員たちとも交流した経験もある。

 そんな経験の中から自分でもそれなりには戦闘能力が高い方だと思っていた。


 ところがここのエルフ達は華奢な身体つきにも関わらず、特に神殿騎士達の強さはアメリカ海軍のSEAL’Sやイギリス陸軍のSASの隊員たちが子供に見える程凄まじかった。


 銃器こそないが、その他の刀剣や槍を使った格闘や集団戦闘での戦闘能力に石動は圧倒されるしかなかった。

 徒手空拳での格闘術やナイフでの近接格闘は、石動の自衛隊格闘術や合気道の経験を生かして多少は戦えたが、石動が引くことも出来なかった強弓を軽々引く膂力で振り回す剣や槍のスピードは目も留まらない。

 ましてや戦場を駆けるスピードや隠密能力には全くついて行けず、スタミナもあの細身の体のどこに? と思わされるほどタフだった。


 石動に " これがこの世界の標準なら銃が無いと対等に戦えない" と痛感させたのは、この訓練場での経験からなのだ。


 訓練場の板塀の中に入ると、それに気づいた1人のエルフが笑顔で近づいてきて声をかける。


「ツトム、待っていたぞ。今日もたっぷりしごいてやる」


 声をかけてきたのは、この世界に来た日にロサと共に森の中で遭遇したエルフチームのリーダーであるアクィラだった。


 なんでもアクィラは神殿騎士団の副団長で、あの日はたまたま森の哨戒任務にあたっていたらしい。

 しかも、後で聞いて驚いたのは、ロサの兄であることだった。


 どうやらあの日以来、ロサが命の恩人である石動に近づいて何かと世話を焼くのが気に入らないようで、訓練と称しては石動をコテンパンにするのを楽しんでいる節がある。

 うっかり石動がロサにそのことを零すとスゴイ勢いで謝られ、アクィラにもロサからキツイお仕置きがあったようだが本人は全く懲りていない。

 そんなシスコンの兄を持って、ロサ自身は有難迷惑に思っている様だが。


 アクィラは周りをキョロキョロと見渡しながら歩み寄り、両手で石動の肩をガシッと掴んだ。


「今日はロサとは一緒ではないのだな?」


 顔は微笑んでいるが目は全く笑っていない。肩に置かれた手の指が万力まんりきの様にギリギリと締め付けてくる。


「いつも一緒ではないって前にも言いましたよね? そんなわけないじゃないですか」


 石動は肩に食い込んでくる腕を剝がそうと、全身の力を込めてアクィラの手首を持ち上げようとするがビクともしない。


「なにっ! キサマ、ロサが居ると迷惑だとでもいうのか!」

「そんなことは言ってないでしょメンドクサイなこの人。いつもロサには感謝してますって!」

「感謝など当たり前だ! む? ロサを呼び捨てしたか? いい度胸だなおい」

「もうどうしろというのこれ。初対面の時のクールなイメージが台無しだよ・・・・」


 

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