第22話 訓練場

 翌日、いつものモーニングルーティンをこなした石動イスルギは、腰に昨日親方に貰った小剣を差しマジックバックを斜め掛けにして、肩には木銃を抱えて神殿騎士団の訓練場に向かっていた。


 木銃とは銃剣道で使用する短めの銃床を持った小銃の形をした木刀のことで、元の世界では五尺五寸、166センチメートルの物を自衛隊でも使用していた。これは日本陸軍の三十八式小銃に三十年式銃剣を装着した長さが166センチメートルだった為という説もある。

 石動もその長さで慣れているので、昨日出来上がった銃剣を装着して166センチメートルになるように木銃を調整して削り出した。


 ちなみにその素材はラタトスクがいらなくなった世界樹の枝を特別に分けてくれたものだ。

 加工したのち仕上げにラタトスクが魔力を通すと、ミスリル製の剣でも跳ね返す程の固さになると自慢気に小一時間ほど語られたのは余計だったけれど。

 本来の銃剣道で使用する木銃の先端はケガしないようにタンポゴムが填められているが、石動が肩にかけた木銃の先には着剣装置で装着した金属製の鞘に入った銃剣が装着してある。


 マジックバッグは訓練に行き始めたころ、ラタトスクからプレゼントされた。

 

『失くしたらいけないから、元の世界から持ってきたものをこれに仕舞っておくと良いよ。まだまだ容量はあるから、こっちで買った必要な装備なんかも入れたら便利だし』

 と言われたのでありがたく雪山猟で背負っていたリュックやレミントンライフルを始め、こちらでは目立つ前世界で着ていた服などを仕舞ってある。


 その他にも持つと嵩張るものが簡単に出し入れでき、容量も家一軒分は入るらしいので重宝している。


 この世界には少ない容量の物は高価だが出回っているけど、石動が貰ったほどの容量は非常に高価で貴重なため、余り見せびらかしたりしないことや絶対に大切にするよう、ラタトスクから何度も念を押されていた。



 歩いていると程なく広大な訓練場が見えてくる。

 広いのは弓矢の射場が300メートルほど取られているためだ。

 世界樹の太い根をバックストップとして活用していて、100、200、300メートルに的が設置してある。


 エルフ達の使用するロングボウは長さが150~180センチメートルはあり、引く力も強くてどの弓も張力55~90Kgw以上と半端なく、石動の力ではまともに引くことすら出来なかった程だ。


 エルフ達に憐みの眼で慰められた石動は、発奮して鍛冶にのめり込み、直ぐに一丁のクロスボウを完成させる。


 1980年代に映画にも登場したバーネット社製コマンド・クロスボウを再現したもので、それは弓もコンパクトな鉄製で50Kgwを実現していながら、銃床部分を折り曲げて梃子の原理を使うことで大きな力を入れなくても弦を引けるものだ。


 滑車を使ったコンパウンドボウでも良かったのだが、メンテナンスや調整の難しいコンパウンドボウより、低い姿勢でもコッキング出来ることやアクションのカッコ良さと自分も前世界で所持していたため構造が分かっていたことからコマンドの方を作ってしまった。


 スコープが無いのが残念だけど、ピープサイトを付けることで、何とか200メートルまでなら標的に命中させることが出来るようになった石動は"人間にしてはやる"とエルフ達を驚かせた。


 ただ、エルフの弓の腕はラノベの物語で読むよりも素晴らしく、一秒間に3連射して必中する強者や、400メートルの遠射でも軽々と的を捕らえて外さない名人がゴロゴロいて、流石という他なかった。

 石動にとって、ますます "ライフルが無いと対抗できない! " と思わされた経験だった。

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