第13話 渡り人

機嫌が良くなったラタトスクは、得意気に続けた。


『では次にこのミルガルズ大陸の説明をしよう。大陸のほぼ真ん中辺りに5,000メートル級の山々が連なる山脈があって、そこを境に大雑把に言うと上が帝国勢力圏、下が王国の勢力圏と分かれてる。

 もちろん、それそれに所属しない中小の国々があって、例えばこの回りの森一帯はエルフ族が治めてる。山脈から流れ込んで森を通る大河の下流に主に人族が支配する王国がある感じかな。

 あとは各地にいろんな種族の地方豪族や山の中のドワーフの国などの小国が点在して、興亡を繰り返してるんだ。割と弱肉強食の戦国時代がここ百年ほど続いているよ』

「百年って長いなぁ。今の話だと帝国と王国の争いに皆が巻き込まれてる感じ?」

『まぁ、豪族が群雄割拠してあちこちで争ってるけど、ツトムが言う通り帝国と王国の闘いがいくさとしては一番大きいかなぁ』


 ラタトスクの説明を聞いていると、やはり中世ヨーロッパか日本で言えば戦国時代に似ていると石動イスルギは感じた。


「帝国と王国はどっちが強いんだ?」

『ほぼ互角だから戦乱が長引いてるとも言えるね。帝国は規模も大きく人口も多い。亜人や獣人も暮らし、獣人のみの部隊もあるから戦闘力は高いのだが、皇帝の統率力に問題がある。

 初代皇帝はカリスマ性と武力・胆力を備え持った人物で、帝国をまとめ上げ版図拡大した傑物だったが、ろくな後継者がいなかった。

 醜い跡目争いの末、先代皇帝になったのが猜疑心の強い小心者でな。現皇帝はその息子でプライドだけ高い俗物だ。家臣や貴族たちの不満は高まっている』

 

 遠い目をした石動は、他人事として相槌を打つ。


「どこの世界も後継者争いは大変だなー。」

『フフッ、セリフに感情が籠っていないなツトム。ちなみに帝国と違って王国は人族至上主義の国だから人族同士の結束は強いが亜人達には地獄だな。

 前王は骨肉の争いや粛清の嵐を潜り抜けたしたたか者で、権謀術数を好む残酷な男だったよ。人望はなかったけど戦には強いから、家臣もそれなりに一騎当千の者を取り立てたりして皆従っていたんだ。

 どんどん周りの小国も切り従えていくんで、このままだと帝国とのパワーバランスが崩れるかもと思ってたら、最近前王は息子のクーデターによって殺されてしまったんだ。

 今はその息子が王となり国をまとめている最中だけど、旧家臣たちも現王を支持している様だから、従えるだけの力はあるんだろうな』


 石動は、正直各国の詳細な兵士の数や武装内容、過去の戦績やそれぞれの国がとった戦略戦術などを聞いて分析してみたかったが我慢した。

 一番聞きたい質問をまだ聞いていなかったからだ。


「ざっくりしたこの辺りの状況は分かった。では肝心の『渡り人』とは何なんだ? 」

『何だと聞かれると返答に困るな。「渡り人」は何百年に一度の頻度で突然現れる不思議な存在だ。

 ツトムの様に明らかにこの世界の者とは違う装いをしていることが多く、聞いたこともない言葉を話す。 

 ちなみにこの世界は皆、共通語を話すからすぐに分かるんだ。他の大陸での出現例もないことはないが、不思議とこの森での出現率が高い。

 私の個人的な推測だが、この森のどこかとツトムの世界が交わるときに次元の狭間が生じ、その時その場にいた者が「渡り人」となるのではないかと考えている』

「ええっ、じゃ自分はその次元の狭間とやらに巻き込まれたということ?!」

『う~ん、巻き込まれたというのはそうとも言い切れないんだよな~』


 ラタトスクはう~んと考え込むように首を捻りながら石動を意味ありげに見つめる。


『今までの「渡り人」は全てその時代の節目に現れて、それぞれが極めて重要な働きを果たしている。

 例えば200年前の時は貨幣経済という概念が持ち込まれ今では全世界に普及しているし、その前は農業革命が起こった。

 そう考えると「渡り人」は、時代の変換期に役目を持って選ばれて送り込まれてくる重要人物なのではないかとも思えるんだ。だから「渡り人」を見つけたら大切に保護して連れてくるよう徹底されている』


 ラタトスクは笑みを消して、ジッと石動を真顔で見つめ、静かに尋ねた。


『だからツトム、君はどんな役割を担って、この世界に来たんだい?』

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