第12話 世界樹

「でも、魔大陸にも世界樹ユグドラシルはあるんだろ?」

世界樹ユグドラシルは六つの大陸全てにあるよ。第一柱である大元はアトランティス大陸の真ん中にある。その高さはこの星の成層圏を越え、宇宙にまで届いている。

 余りに巨大なもんで、第二柱も居て第一柱を補佐しているな。あとはいろんな形態であるぞ。他には地下のダンジョンの最下層にあるものや、深海に生えてるなんてのもあるんだ』


 ラタトスクが得意気に、フフンッと鼻を鳴らす。

 対して石動イスルギは呆れた様に呟いた。


「宇宙にまでって軌道エレベーターかよ・・・・・・。それに深海ってもうそれ樹木じゃないよね。」

『あと魔大陸のヤツはちょっと変わっててな。魔大陸の何処に生えてるのかもハッキリしないんだよ。引きこもりというか、他の世界樹ユグドラシル達とは連絡取れるんだけど、アイツだけなかなか連絡取れないんだよね。だから、現状はよくわからないんだ。枯れてないといいけど』

「うわー魔大陸には近づかないようにしたいね。やっぱ、ラタトスク達はそれぞれの大陸を管理しているわけ? 神が住まうとか言ってたっけ」


 ラタトスクの笑みが深まり、得意げにテーブルの周りを歩き出す。


『アトランティス大陸の第一柱は神に仕える者として信仰されているね。神とはこの世界を創りたもうた創造神様だよ。第一柱の頂上に住まうと言われている。人族だけでなく亜人達も「世界教」の信者となってこの星中に神殿を造っているよ。ちなみにここもその一つだけどね』

「じゃあ、各大陸の世界樹ユグドラシルは神の使いとして崇められているということ?」

『いや、ダンジョンや海底にあるのは行くこと自体が無理だし、魔大陸は言うまでもないな。それに私達は記録や知性を司るものだから、重大事の方策を決めたりする時の相談役というような感じだと思ってくれればいい』


 そう答えるラタトスクの衣装が、先程まで白いワンピースの様なドレスだったのが、いつの間にかマントを羽織り片眼鏡モノクルを嵌めた魔法教師風に変わっているのに石動は気が付いた。

 コイツ、形から入るタイプか、と思う石動。


「では相談役さまに早速教えてほしいんだけど、さっき動物と魔物を分けるのは魔法が使えるかどうか、って言ったよね。この世界の人間たちも魔法が使えるのか?」

「いや、人間はほとんど魔法は使える者はいないな。稀に突然変異で魔力持ちの魔法使いみたいなのが生まれてくるけど、魔物に比べれば非常に弱い初期魔法しか使えないんだ。

 なぜなら、魔石を持っていないから魔力量が少ないからね。獣人も同じ理由で使えない』


 石動はこの世界は転生ものの定番である「剣と魔法の世界」なのかと思っていたが、ほとんど魔法が使えない世界だと聞いて驚く。


「そういえばロサは回復魔法を使っていたぞ!」

『亜人はちょっとだけ魔力を使えるんだよ。だから先祖が魔人だったっていう風評があって、人間から差別されたりしているが、それは根拠のないデマなんだ。

 何故使えるかは種族的な特徴と言う他ない。でも亜人も魔石を持っていないからその魔力量は少ないんだ。だから、ちょっと火を付けたり、水を出したり、怪我を治したりするのが精いっぱいかな。

 とてもじゃないけど、魔力で攻撃とかドカーンと火の玉を出すとかできないよ』


 廚二病なら"ファイヤーボール!"とかにあこがれるのだろう。それより石動は魔法で攻撃されることがあるのかを知りたかった。


「魔人なら魔法を使えるんだ?」

『昔は使えたから今も使えるんじゃないかな、というのが正しいかも。ここ2000年ほど魔人は姿を見せていないから分からないんだ。

 でも魔人の特徴として魔石を持って生まれるから魔法が使えるのは間違いないと思う。

 もう魔人は滅んだって説もあるし、魔大陸の奥深くに潜んでいるという者もいる。どちらも確かめていないから何とも言えないけど、昔、魔人は魔物より強い魔法を使っていたのは確かだね』

「ふ~ん、では魔石が無い自分も魔法は使えないんだな・・・・・・」

『ちなみに私は問題なく使えるぞ? 魔石は持っていないが、世界樹の魔力を使えるからね』


 ラタトスクは右掌を上に向けるとポッと火の玉を出し、左掌も同じ様に今度は水の玉を出して見せ、如何だとばかりのドヤ顔を向ける。

 石動も段々とラタトスクの性格が分かってきたので、“おおっ!”と驚いて見せ、心からの拍手を送ってやる。

 

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