第9話 神殿
リーダー格のエルフが合図すると、巨大な門が開きだす。
また手を引かれて、門の中に進んだ
そこはちょっとした街だった。
門から幅20メートルほどの石畳の道が真直ぐに数百メートルも続いており、正面に神殿の様なものが荘厳な雰囲気を湛えて建っているのが見える。
その両脇には、巨木をくり抜いた様な何階層もある建物がズラリと並んでおり、その見慣れない外観を除けばまるで東京丸の内のオフィス街の様だった。
建物の一階部分は商店やレストランといった店舗になっているようで、通りを引っ切り無しに通る荷馬車をはじめとしたエルフの人々が行きかう賑やかな様子を見て、なんとなく持っていた「エルフは森の隠者」といったイメージが崩れるのを石動は感じていた。
"さっき通り抜けたのは結界ってやつなのか? それにしてもエルフといえば大木の上に家があって、木々の間を空中につり橋のような通路があってというのがマンガでの定番だったよな・・・・・・。木造とはいえこんな高層建築まであるとは"
物珍しいのでキョロキョロしながら手を引かれていくと、遂には神殿が近づいてきた。
ここで、またまた石動は息を飲む羽目になる。
門からではわからなかったが、神殿は直径百メートルほどにもなる巨大な樹木の根っこ付近をくり抜いて建てられていたのだ。
唖然として見上げても、その樹の頂点は繁る枝や葉が邪魔して、どれほどの高さにあるか分からない。
以前、テレビで見たエジプトのルクソール神殿の光景を連想した。
又は、映画インディジョーンズにも出てきたヨルダンのペトラ遺跡。
樹木なのか岸壁なのかの違いはあるが、それらを何十倍にもした規模で行っていると言うとてつもなさに、石動は言葉が無かった。
いつの間にか連絡が入っていたのか、神官らしきエルフが神殿の入り口で衛兵を数人従えて待っていた。
リーダーのエルフとロサが神官と言葉を交わし、神官がうなづく。
3人が振り返って石動を見る。ロサが微笑みながら近づいて話しかけてきた。
「ツトム、&%#>&%&+*>@#<+~=$#&*」
相変わらず何を言っているか分からないが、神官を指さして何やら"大丈夫だよ"と安心するよう言ってくれているような表情だった。
そしてロサが石動の手を取り、神官のほうへ手を引いていく。
神官の近くまで行くと、今度は神官から自分についてくるように手招きされた。
ロサとエルフリーダーはこれ以上は入れないようだが、罠ではなさそうだ。
もっとも、エルフ側に石動を殺す意思があるなら、もうとっくに殺されているだろう。
石動は二人にありがとうの意味を込めて自衛隊式の最敬礼をし、笑顔をロサに向けてから神官の後に続いて歩き出した。
神殿の中に入ると空気がヒンヤリと冷気を帯びる。
ギリシャ建築の様に荘厳な柱が立ち並び、それぞれに松明かと思ったらユラユラと光る石が照明としてはめ込まれていた。
いまさらながら大樹をくり抜いているはずなのに、床も壁も樹の質感というより大理石のような硬質な感じがあることに気付く。
大広間を横目に通り過ぎ、幾つかの扉を潜って、いよいよ突き当りのドアを開けると下に降りる階段が現れた。
これまで神官に続く石動の回りを衛兵が数人で取り囲んでいたが、ここからは神官と石動、そして衛兵長のみしか入れないようだ。
三人で階段を降り始めたが、思ったより長く続く階段で先が見えない。
何度か踊場を折り返し、いい加減疲れてきたところで大きな両開きの扉の前に着いた。
巨大なガーゴイルの石像が両脇に並び、睨みを利かせている。
神官がブツブツと真言を唱えながら扉に触れると、ゆっくりと扉が光り出し、人ひとりが通れるくらいに開きだす。
神官が中に入れ、と身振りで示す。神官も衛兵もこれ以上は進めないようだ。
石動も覚悟を決め、肩にかけたライフルを構えたいのを堪え"そういえば武装解除されなかったな? "と思いながら扉の中に進む。
中に入ると、空気が一変し真っ白な空間に背凭れの高い椅子が向かい合わせに二脚あるのみだった。その一つに白い髪を腰まで伸ばし、白い肌に白い生地のドレスを纏った少女が座っている。
白い少女は石動を見るとニコッと笑みを浮かべ、話しかけてきた。
『やあ! ようこそわが家へ。渡り人を迎えるのも久しぶりだ。こっちに来て座らないか』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます