第5話 探索
背中のリュックを下ろして調べてみる。
完全防水のリュックだが、中身は大丈夫か心配だ。
先ず、防水ポーチに入っているスマホを取り出し、起動させてみた。
Gショック並みに丈夫という謳い文句に惹かれて購入した携帯は、問題問題なく動くもののアンテナも立たず4Gにもならないし、インターネットにも接続できない。念のため、先輩に電話やメールをしてみたが通じなかった。
ただ、メモリーに保存してある、
バッテリーは60%程だが、アウトドア用のソーラーチャージ式モバイルバッテリーを持っているので、何とかなるだろう。
ただ、救援を求められないとしたら、自力で何とか下山するしかない。いつの間にか日も陰ってきているので、野営の準備も急がないといけないし、腕の傷の手当てもしないと不味い。
まずはリュックからファーストエイドキットとして消毒薬等の薬や抗生物質、包帯・絆創膏等をまとめて入れたタッパーウェアを取り出す。
蒸し暑くて汗ばみ始めたこともあり、そろそろと上着を脱ぎ、アンダーウェアを捲って左腕のキズを露出させる。
10センチほどの爪で裂かれた傷が2本走っていた。
血管は切れていないようだし、そこまで深い傷ではないが、熊の爪は細菌の巣窟なので、まずペットボトルの水で傷口を洗い、消毒薬を吹き付けた。
併せて抗生物質の軟膏を塗り、化膿しないよう手当てした後ガーゼで押さえ、テープで固定してからネット包帯をまいた。
後頭部の手当ても済ませて立ち上がると、暗くなる前に野営する場所を探さねば、と独り言ちる。
足元を見るとブーツにスノーシューを付けたままだったので、ここでは必要なさそうだから取り外して専用バックに収納し、リュックの横に折畳スノーストックも畳んで共に括り付ける。
ゴアテックスの上着も折り畳んでリュックに仕舞う。スーパーメリノウールのアンダーウェアやスパッツも脱いで仕舞っておいた。
上半身は長袖シャツのみとなり蒸し暑さがだいぶ軽減できたが、ズボンは防寒用のままなので蒸れそうだが仕方がない。
リュックからカーキ色の自衛隊タオルを出してニット帽の代わりに頭に巻く。
準備が出来たら、まずは周囲の偵察からだ。
手にしたライフルのボルトを引いてみる。
スムーズに作動することに安心して、アモポウチから.308ウインチェスターカートリッジを取り出して弾倉に4発詰め、カートリッジを上から押さえながらボルトを戻して、薬室は空の状態でボルトを閉じる。
アモポウチの中を見て、残弾を確認するとあと12発あった。
「(全部であと16発か・・・。これだけあれば心強い)」
いつもは日帰り猟なら10発も持って行かないのだが、何故か昨日はいつもの倍の弾を入れたんだよな・・・。
虫が知らせたんだろうか?
頭を振って不吉な思いを振り払うと、顔を上げて森の中へと足を踏み出した。
森の中の植生は、石動にとって今まで見たことが無いものだった。
少なくとも冬の北海道の森ではないことは確かで、白樺も青松もない。東富士演習場等の本州で見る樹木とも違って、杉に似ているが葉が広葉樹だったりするような直径2メートル以上高さ50メートルもの大樹が聳え立つようにして立ち並び、森を形成しているのだ。
下生えの草も深いところでは人の背よりも茂っており、たまに見たことも無い毒々しい花が咲いていたりして、レンジャー訓練などで野草の知識があるはずの石動も何の花なのか見当も付かない。
動物や鳥の気配も感じられる。
獣道らしきものを見つけた時、大型の獣の足跡を見つけて緊張した。
野犬にしては大きいが、熊ではない。大型のオオカミ?
いや、日本ではオオカミは絶滅してるしな・・・野犬か。
いずれにせよ、充分注意する必要がありそうだ。
しばらく進むと、沢に出て川幅1メートルほどの小川が流れているのを見つけた。
川の水に手を入れると、冷たく澄んでいる。
後で煮沸消毒することにして、空いたペットボトルに水を汲んでおく。
河原は岩場となっていて、キャンプ地としては足場が悪いのと、先程見かけた足跡の主が水場にやってくる可能性を考えて、ここではなく川から少し離れた安全な場所を探すことにした。
警戒しながら、大きな木の根やとげのある草などに苦労しつつ進んでいると、不意に争う気配と物音を感じて、その場にしゃがみ込む。
「10時方向か・・・・・・」
じっとして耳を澄ましていると、獣の吠える声に交じって人らしき声もするようだ。
石動は急いで様子を見に行くことにした。
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