凋落5
(三)
メイとユニスの気配がなくなったのを
少年の唸り声はすすり泣く
彼が攻撃してくる素振りはない。
「……魔女かと思ったが、そうじゃないのか……? お前──」
「ぁああああああ!」
咄嗟に身構える。開戦を示す
否、そんなことはもうどうでもいい。迷いを
宙へ身を投げ出した彼の
双眼を見開く。魔力を注いだ視覚は
眼前に飛び込んできた彼の
「く、そ……ッ!」
しまった、と動きを止めた
「ぅぅうううああああああ!」
人並外れた
切り
彼の爪という
さながら鳥が
降り出した
時計に耳を澄ます。一。突き除けた彼を
「くっ……!」
「うう……うあああああ!」
彼は俺の腹部を片腕で
「ッ、ぁ……ぐ、……」
「わぁああああ!」
魔女特有の
濡れた絵画みたいな目の前で、
「もう、黙ってろ……。すぐ、楽にしてやるから」
トドメを刺す
「──やめてくれ!!」
俺を引き止めたのは
足を負傷しているのか靴音を擦って
「お前……どういう、つもりだ」
「この子が悪いのは分かってる。この子が危険なのも分かってるんだ! けど、薬を打てば大人しくなる……今日は、薬が切れるのが何故かいつもより早かっただけなんだ……!」
「なに、わけのわからないことを……」
薄れる意識のせいで彼の言葉が
口ぶりから察するに、少年が無辜の乗客を
「これは、その少年が引き起こした惨劇だぞ。危険……だなんてものじゃない」
「わかってるさ!」
「その少年は魔女だろ。魔女を鎮める薬を、持っているってことは……お前、魔女の研究員か」
「魔女……? 私はそんなもの知らない! この子は大事な息子なんだ! まだ傷付けようとするのなら君を撃」
「──やめろ!」
メイが振り向いたかと思えば、その目顔が
「エドウィン、ひどい怪我じゃないか……! 早く手当てを! ッあぁでも、どういう状況か分からないけど魔女も仕留めないと……! オッサン!」
「分かってるよ、メイちゃんは魔女をよろしくね」
踏み散らされた血の音がやけに大きく聞こえた。肩で息をしながら俯くと、思いのほか血痕が
「座って。流れた血を出来る限り君に《吸収》させる」
「マスター、俺はいいから、あの男性を……」
「君が優先だよ、エドウィン。そのままじゃ死ぬ。手首もあとで繋げようか」
俺が座ったのを確認すると、マスターは左手で傷口を
彼の言う通り、このままだと死ぬ。気にしないよう目を
マスターの手つきには
「内臓から治していくから、痛むよ」
「分かってる。……、ッ……」
傷口に沈み、肺腑を目指す彼の手に嘔吐く。痛覚を
臓物を焦がす痛みが
「何してるんだ⁉」
「っ……メイ……?」
「君はまだ動いちゃダメだ。メイちゃん! どうした!?」
「っちょっと! おいおじさん! 死ぬなよ……!」
「──メイさん、どうしたんですか⁉ 戦闘は終わったんです?!」
「ユニス! どうしよう、この人死んじゃうよ……!」
「どうしようって……その状態じゃ、もうどうにもなりません!」
二人の声だけを聴きながらマスターを急かすよう彼の袖に皺を刻む。ユニスは戦闘に巻き込まれない
「メイちゃん、どういう状況だったのか教えてくれ」
マスターに問いかけられると、メイは彼に対するいつもの棘を仕舞い込んで、
「わからないよ、魔女を殺そうとしたらいきなり飛び出して来たんだ。そうしたら魔女に首を噛み切られたみたいで……! 急いで魔女は殺したけど、この人の傷が酷くて、もう意識がない。駄目だ……」
伝播してくる
口を挟まず
しばらくの
「……エドウィン、治ったよ。手も繋げたいんだが、どこに落として来たんだい?」
「ああ……」
力無く視点を落とすと傷口は綺麗に塞がっていた。だが体力も魔力も回復しておらず、
座り込むメイの前で
彼が魔女を連れて何をしようとしていたのか、彼の
事件の
「エドウィン、無理はしないで。ごめん……この人を死なせてしまって」
「お前のせいじゃない。……とりあえず、その男性が何故魔女を連れていたのか分からないから所持品を調べた方がいい。それと、前方車両に生存者がいるか確認しに行かないとな……いない可能性のほうが高いが……」
男性は荷物をコンパートメントに置いたままなのか拳銃以外なにも手にしていない。ジャケットなどを漁れば何か出てくるかもしれないが、それだけでは『誰が何の目的で少年を魔女にして父親に渡したのか』に関して
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