凋落4
フライドポテトを味わいつつ空の青さを確かめる。晴天が
食べ物を食べながら食べ物のことを勘考している自分にハッとして微苦笑が顔を
多分、好きな人達と食事をするのが楽しいからだ。普通の家族みたいに旅行やピクニックをして、何も気にせず
けれども、
病死した母を救う術は本当になかったのか? 妹と僕が縫い繋がれる前に、本当に逃げられなかったのか。そんな
奥歯を擦り合わせて
僕だけが
己に言い聞かせていたら、目の前でユニスの袖が
「わっ、なに!?」
「なにって、メイさんが怖い顔して固まってるから呼んでたんですよ。魚のフライに骨でも入ってました?」
「入ってない。美味しいよ」
「ふむふむ、ではお一つ下さい。あーん」
「手枷してないんだから自分で取って食べなよ……っというか、列車に乗ってからずっと手枷外してない? 大丈夫なの?」
ユニスは他人との接触にトラウマを抱えており、いつもなら自分を守るために拘束具で両腕を覆っている。
「大丈夫じゃないですけど大丈夫です」
「つまりどういうこと?」
「……メイさんやエドウィンやマスターがいる間は、外してても大丈夫な気がする、と言いますか……。大丈夫、になっていかないと、いけないような気もして、少しずつ手枷を着けない時間を伸ばしてみたり──っなかなか美味しいですねこの魚!」
真剣な話の流れを
「……なんだ?」
エドウィンの独り言は珍しく、僕もユニスも彼を窺ってしまう。彼の
食堂車よりも奥の車両で、子供が
「なにか、あったのかな……赤ん坊の泣き声とも違う感じがするし……」
「……不審者が現れたとか、殺人事件みたいなことが起きていなければいいが」
「そういえば私がぶつかった男の人が言ってましたね。鼓膜が破れそうなほど子供がわーわー泣いてたって。よっぽど泣き虫の子が乗っているとか、虐待されてるとか、お金持ちの人が、奴隷でも連れてるとか」
彼女の
「もしそうだとしても、その子供はお前じゃない。今のお前は奴隷なんかじゃないし虐げられてもいない。俺もメイもマスターも、お前が嫌がることはしないし、もし嫌なことや欲しいものがあったらなんでも言っていい。とりあえず今は……そのケーキを食べきるんだな」
「ユニス、大丈夫だよ。僕は君を守りたいって、言ったでしょ。その気持ちは変わらない。何かあっても、僕もエドウィンも君を守るから。君を一人ぼっちで泣かせたりなんかしないからね」
こくん、と、小さな頭が頷く。ゆっくりと面を上げたユニスが打見したのはエドウィンのいる方向。彼のティーカップの隣を、
「チョコケーキ、食べたいです。エドウィン、取って」
「ああ。……ユニス、ほら」
ユニスを
「た、食べさせてなんて言ってません! そんな恥ずかしいことよく出来ますね!?」
「……悪い、子供相手だとつい……」
「五歳しか変わらないんですから子供扱いしないで──」
「うわぁあああ!?」
窓硝子を割りそうなほどの
「立てますか」
「え、あっ、あ……」
「……メイ、ユニス。彼女を安全なところに避難させてくれ」
エドウィンはこちらに背を向けると、傍にあったテーブルの上からナイフを手に取っていた。戦闘用のナイフを所持していなかったからか、食器で代用するつもりのようだった。僕達が
「エドウィンはどうするんですか!? 私も残ります!」
「残ってどうする。武器がなければ戦えないだろ。一度コンパートメントに戻って──」
虚ろにどこかを見つめていた少年が、僕達を
「エドウィン、すぐ戻るよ。ユニスも早く!」
「わ、かってます!」
少年の
のんびりしていられない。空気を切る速さで
「食堂車に行っちゃダメだ! 人が殺されてる! 危ないから逃げてください!」
死人が出ていると聞いた彼らは、この先にどれほどの
一人一人の声など聞き取れないほど
「この人を安全なところまでお願いします」
「あ、ああ。君も早く避難しなさい! ──エリック達は犯人の確保に向かってくれ!」
二人の乗務員が彼の指示で食堂車へ向かおうとする。乗客にもしものことがあっても守れるよう訓練を受けているのかもしれないが、それでも魔女を相手にするのは死にに行くようなものだ。乗客のように
「っ待ってください危ないんです!」
「大丈夫だよお嬢さん、私達は乗客の皆さんを守らないといけないからね」
「そ、れは、そうだけど……! あんなの相手にしたら貴方達が死んじゃうって!」
彼らの命はすぐに散ってしまう
いっそのこと、食堂車に近付けば殺すと
「お嬢さん、心配してくれてありがとう。君も早く奥の車両まで避難を」
「そんなところで何をしているんだ! 列車の乗務員ってのは客も守れないのかい!? 早く犯人を捕らえないか!」
「す、すみません。今から向かうところで……」
「そっちじゃない、向こうだ! 奥の車両で人が撃たれて、犯人が人質を取ってる! 早く行ってくれ!」
「え? けど皆さん前方車両から逃げてこられて──」
乗務員の男性の声を遮ったのは、少女の悲鳴と数度の銃声。食堂車に向かおうとしていた彼らは顔を見合わせ、オッサンに頭を下げてから後方車両へ走り出した。オッサンは息を一つ吐いてから
「これで大丈夫だ。私達はエドウィンに加勢しに行こう」
「大丈夫って、時間稼ぎにしかならない……! だって今の悲鳴と銃声ってユニスだろ⁉ 不審者がいないと分かればすぐこっちに戻ってくる!」
「時間稼ぎで良いんですよメイさん。早くそっちの車両に移ってください」
僕たち以外誰もいなくなった車両に現れたのはユニスだ。乗務員が素通りするよう、どこかの
「はぁ……メイさんってば、なに私に見惚れてるんです?」
「え、違うけど……」
「分かってますけど! 冷静に否定できるのなら冷静に判断して早く隣の車両に移動しなさい! さっきの乗務員が戻ってくる前に前方車両と後方車両を切り離しますから!」
説明されてようやく彼女らの作戦を理解する。先に前の車両へ移っていたオッサンに続いて僕も急いで移動する。ユニスが僕の隣へ踊り
「ユニス、すごい……!」
「ぶ、無事切り離せてよかったのですが……ちょっと、魔力を込めすぎました……耳鳴りが……」
「後は私とメイちゃんとエドウィンに任せてくれればいいさ。ユニスは安全なところで待っていて」
労おうとしてか、頭を撫でようとしたオッサンから勢いよく身を引くユニス。普段通りの様子で、整った
「触らないでください!」
「ああ、済まないね……いや、帽子の上からならエドウィンには触れさせてるじゃないか⁉」
「たっ……確かに服の上からなら耐えられますけど! 嫌なものは嫌なんです! いいから早くエドウィンのところへ行きますよ! 私も一応近くで待機しますので!」
僕達を足早に追い越したユニスの、聖水みたいな
足早に食堂車へ踏み入れば、
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