第20話 ●金萌 朔也 様 暗澹たる泥中からを読んでお別れしちゃいました。
◎今回の読書会作品
金萌 朔也 様
暗澹たる泥中から (小説家になろう)
◎今回の読書会参加者
・加納友美
動物と話しが出来る大学一年生。
どんな状況や作品にも、なりきりスキル発動により対応可能。
・エリマキトカゲのエリマキッチ。
古き流行を愛するエリマキトカゲ。解説役。
・モモンガのモモッチ。
全ての感情表現がアハハハ!と言う笑いのモモンガ。一時、友美さんの家で暮らしていたが飼い主さんの所に戻った。
ガチャ
「え?」
(またエリマキッチ?)
読書会が開催される私の部屋。
ここ最近、連続で解説役としてエリマキッチが参加している事に驚愕しています。
テーブルの上には、襟巻きをたたんでいる為、どうみても巨大なトカゲにしか見えないエリマキッチがこちらを見ています。
「友美ちゃん。今回の金萌様の作品は、いわゆるタイムリープをする女の子、大学生の主人公エルさんの物語だ。そして現代を舞台にしているが、種族の概念が存在するローファンタジー要素を含んだ作品でもあるんだ」
「あ、うん。そうだね……??あれ?モモッチ?どうしたの?」
モモンガのモモッチは、のり塩味のポテロングをバリバリと食べながら号泣して顔を濡らしています。
「アハハハ!エルさんが!エルさんが!自殺しちゃうの!助けてあげて!お願い!アハハハ!アハーーー!」
床にくっ伏して号泣するモモッチ。
「…………」
(全ての感情表現がアハハハ!だから仕方ないけど……)
「モモンガさんが泣くのは無理もない。この作品はいきなり序章のゼロ話からクライマックスだ。ネタバレは避けたいから詳しくは語れないが、エルさんの自殺描写で幕を開ける」
「そうだね!衝撃的だったよね。なんか私もエルさんと一緒に苦しくなっちゃった……」
バサッ!
「うわっ!びっくりした!エ、エリマキッチ!ど、どうしたの?急に襟巻き全開に広げて?」
「友美ちゃん、なぜモモンガさんが号泣し、君が自ら命を経ちたくなったかわかるか?」
「え?」
(いや、別に私自殺したくなった訳じゃないよ?)
「アハハハ!私から言わせて!エリマキのトカゲさん!あのね。すごく心理描写が緻密なの!アハハハ!」
「モモンガさんの言う通りだ。この作品一番の特徴は、主人公エルさんの一人称の語り手による、作者様のこれでもかと言う緻密な文章力が織りなす、心理描写の数々なんだ」
「確かに凄いよね!」
「まずは心理描写にスポットを当てよう。友美ちゃん、そもそも心理描写と言うのはなんだかわかるかい?」
「え?う〜ん……登場人物が何を考えているかを表現する事?……かな?」
「チッチッチッ。違うな」
「…………」
エリマキッチは、チッチッチッと言うセリフに合わせて襟巻きをバサッバサッバサッと前後に動かしました。
(え?その襟巻きって、ウチワみたいに自由自在に動かせたの?)
「心理描写と言うのは、例えば悲しみ、嬉しい、楽しい、苦しい、怒り、恐怖、嫌い、恥ずかしい、ムラムラ興奮、草をムシった、絶望した、驚き、悔やみ、感度じゃなかった感動、安堵、我慢、諦めた、幸せだなぁ~、不機嫌などの、情景として目に見えない登場人物の心情を意識して分析し、読者に文中に表現、訴える事だ」
「…………」
(ちょっと待って?また、関係ないのと下ネタ混ざってない?)
「そして、その心理描写で大事な事の一つに直接的表現をしないと言うのがあるんだ」
「どう言う事?」
「例えば以下の例文を見て欲しい」
◎友美ちゃんは自分の胸を鏡で見て、あまりの小ささに悲しくなった。
◎友美ちゃんは自分の胸を鏡で見て、あまりの小ささにこの世の終わりで心臓を握り潰された絶望に陥った。
「…………」
(ちょっと…………)
「わかりにくかったかな?これではどうだい?」
◎友美ちゃんはナタデココを食べて喜んだ。
◎友美ちゃんはナタデココを食べて至福の昇天をした。
私はセリフ棒読みスキル【棒姫】を緊急発動。
「うん。直接的ね。わかった。すごいね。ためになるね」
「こう言った、間接的表現と時には直接的表現を敢えて行い、それらを織り混ぜて、畳みかける様にエルさんの心理や心情を比喩表現も用いながらしっかりと読者に伝えているんだ。もちろん、こう言った心理描写と言うのは、元々の文章力が高くないと、ただ羅列した物になってしまう。しかし、作者様は違う。緻密さとリアリティをしっかりと組み立てて文章で表現しているんだ。本当にすごい方だと思う!」
「確かに文章は、作品の世界観がダークな感じのせいもあるけど、圧巻だよね?」
「ああ。否が応でもエルさんに感情移入してしまう。僕も読んでて苦しくなったり、微笑んだり、ドキドキしたりと感情が忙しく動いたよ。昔流行った生キャラメルや食べるラー油を初めて食した時と同じ気持ちになったよ」
「…………」
(エリマキッチ……あなた虫しか食べないでしょ?生キャラメルと食べるラー油って言いたかっただけでしょ?)
「アハハハ!友美ちゃん!なんでなんで?!アハハハ!アハー!アハハアハハアーハハー」
モモッチは再び号泣。
「…………」
(なんか号泣し過ぎて、アハハハと悲しみがわけわかんない感じになってるよ?)
「モモンガさんが読んでるのは、第二章の三話だ。この回は僕も驚愕したよ!この作品の結末を見届けたいと思った瞬間のまさに神回だ!」
「そうだね!私もなんでなんで?って思ったよ……」
「アハハハ!まだこの作品は完結していないわね!アハハハ!アーー!」
(モモッチ…………また号泣……)
「そうなんだ。この作品はまだ始まったばかりなんだ。実はこの読書会では、第二話で紹介させて頂く予定だったんだが、その当時は第一章までしか進んでいなかった。僕は文章や表現の多彩さから、実はただならぬ雰囲気を感じてな。友美ちゃんには内緒で、スマホを借りて作者様に連絡を取ったんだ」
「え?そうなの?!」
「そこで、第二章の終わりまで待っていたと言う経緯があるんだ。そして、それは僕の予想通りだった……。圧巻の心理風景描写は、昨今のなろう小説と言われる作品の台頭もあり、人を選んでしまう可能性もあるかと思うが、僕は誰がなんと言おうと、高く評価している、とても素晴らしい作品だ!同じ作家読者の方にはぜひ読んで欲しい、勉強になる作品なんだ」
「うん!そうだね!」
「それはそうと、この読書会では色々語らせてもらったが、明日から僕は沖縄の動物園に行く事になったんだ。だから、しばらく参加……いや、友美ちゃんともお別れだ」
「え?なんで?」
「僕は今、君のおじさんの動物園にいるが、あまり人気がないようなんだ。これは仕方ない事だから、同情はいらないよ」
「アハハハ!なんでなんで?エリマキのトカゲさんもう会えないの?嫌よ!アハハハ!」
(モモッチ……)
「動物園と言うのも、マンネリでは駄目なんだ。全てとは言わないが、常に新しい動物を回転させる……そしてお客様に喜んでもらう。動物園の運営にとっては必要な事なんだ」
「エリマキッチ……」
「アハハハ!エリマキのトカゲさん……」
(モモッチ…泣いてるけどやっぱり違和感あるよ?)
「特に僕達みたいな爬虫類は、ペットとしても飼育される事が多くなって、希少性も薄れてしまったからな。まあ……新たな新天地で襟巻きを広げて、また日本中にエリマキトカゲブームを起こす様に頑張ってくるさ。それが僕の夢なんだ」
「…………」
私とモモッチは、ブームの復権と言う夢に向い、前向きにどこまでもガニ股で走り続けるエリマキッチの様子に涙を流していました。
「でも、ここまで待った甲斐があったぞ。この作品を最後に紹介出来て良かった。おっと、素晴らしい文章に気を取られて内容に関して言及してなかったが、タイムリープ物として深まる謎、憑依と言うローファンタジー設定がどんな展開を引き起こすのか、作品としても、先が気になる魅力的な作品だから、行く末を見届けて行こう!」
「うん!わかった!エリマキッチも頑張ってね!」
「ああ!もちろんだ!」
その後、私達は皆とこの作品の今後についてあれやこれやと朝まで語り明かしました。
作者 金萌 朔也 様
今回はありがとうございました。
今回の作品はこちらからどうぞ! https://ncode.syosetu.com/n9027if/
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