第4話
その晩、シアンたちはミヌを一緒の馬に乗せて黄の領地に向かい、到着してまもなく一帯に爆薬を地面の中に埋め込んでいった。民衆が取り付け終わると各位置にいる人たちが手をあげてサインを送り、最後にシアンが振りかざした瞬間、領地の一帯が一斉に着火すると爆破されていき地響きとともに地層が傾いていき黄の領地は瞬時にして埋め尽くされていった。
跡形もなく無の状態になった領地を崖の上から見渡してミヌは涙をこらえて息を詰めた。傍にいたシアンの家臣であるウヌがミヌに近寄って手で肩を添えてきた。
「大丈夫か?」
「はい。これで、僕たちの住処は無くなってしまったんですね」
「しばらくは翠の領地で身を潜めるしかない。またソジンたちが来た時にはお前も防御できるようにこれから武術も身につけておきなさい」
その後翠の領地へ戻り、小屋へ着くとスアが出迎えてくれて身に着けていた衣服を着替えるように言ってきたのでカーテンの中に入って着替えていると、ジュノが開けてきたので二人がじゃれ合っているとそれを見たシアンが笑っていた。
「お前たちは本当に仲が良いな」
「お父さんがね兄弟仲良くしていれば良いことがあるよって言ってくれたんだ」
「でも、着替えている時に来たら困るよ。邪魔しないで」
「二人ともこっちに来なさい」
「これ何?」
「ヤギの乳よ。温めたから飲みなさい」
「ありがとう」
「それを飲んだらもう寝なさい。明日も早いからね」
翌朝、ミヌとジュノはスアと一緒にオリーブ畑へ行き、かすかに見える海から吹てくる潮風の匂いに包まれながら収穫をしていった。かご一杯に摘んだ実を見て嬉しそうに皆で会話しているとある少女が近づいてきた。
「あなたたちが黄の領地から来た人?」
その少女はジアといい、長い黒髪を
「ここの土地もかなり広いわね」
「はい、五千坪くらいはあります」
「ご、五千?!……って何に例えたらいいのお兄ちゃん?」
「だいたい黄の領地の二分の一くらいだよ。僕らの住んでいたところも他の領地より狭かったからね」
道なりに進んでいくと林の中に入っていき急な坂を登って岩場に出ていくと、その眼下には海が見えていた。
「あの岬の手前あたりのところが黄の領地。あなたたちの住んでいたところよ。ここから見てもわかるように、砂地で埋め尽くされてしまったのね」
ミヌはその景色に家族や仲間たちの事を思い出していた。初めて農地で田植えをしたこと、父やその仲間から乗馬を教えてくれたこと、ジュノが産まれた時に民衆から贈り物などをもらって一緒に喜んでくれたこと。数えきれない思い出がそこにはあったが今となってはもう二度と戻れなくなってしまった。
「もう少ししたらあの土地も蒼の領地の人たちが占領するという話も出ているらしいわ」
「僕らの事をどこまで追い詰める気だろう?」
「元々黄の領地の先住民が蒼の領地を開墾したところでもあったの。争う事もあったらしいけど、ここ百年の間は皆穏やかに暮らすことを望んでいたのに、リーダーがソジンになってから皆の立場が逆転して内部でも紛争が起きているみたい」
「そこにいる女性や年配者、子どもたちが領地から脱走をしようとしていても常に見張られているからどこにも逃げれない現状がある」
「あいつ、独裁者にでもなろうとしているのか?」
「それはわからない。ただ、この国が蒼の領地で支配下に置かれたら私達の暮らしも危機に迫られてしまう」
「他の領地はどうなっているんだろう?」
「情報源が伝わりにくくなっているから何とも言えない。朱や白虎の領地はまだ占領下にされていないはずよ」
「独裁社会なんて怖くてたまらない。誰もそんなことを望んでいないのに……」
「家族から聞いた話だけど、もしも紛争が絶えなくなったらあなた達も戦場に出る可能性もある。私達も捕らえられてしまうことだってありえるわ」
「そうならないようにシアンたちが私達を守ってくれているのだから、ミヌやジュノも彼らから色々教わらなければらならないことも増えてくるね」
「僕、戦地に出るなんて嫌だ」
「ジュノ。家族や仲間を守るために出なければならないんだ。僕も怖いけど領地を守るためならみんなで一緒に戦いたい」
「いつか、武力のない時代が来るようにしなければならない。二人とも、教わったことを実につけて強くなりなさい」
「はい」
自宅に戻りシアンが帳簿をつけているのを終えるまで待っていると彼は訊いてきた。
「二人とも、話があるって何だい?」
「シアン。僕らに武術を教えて欲しい」
「そうだな……教えるとなると竹刀での打ち合いになる。今までやったことはあるか?」
「ないんだ。乗馬ならお父さんから教えてもらったよ」
「そうか。それならユルさんのところへ一緒に行こうか?」
「ユルさんってどんな人?」
「牛飼いの人なんだが武術も優れている。明日俺が聞いてくるから家で待っていてくれ」
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