第3話

二日後、領地の長であるシアンのところに男性の民衆が集まり作戦会議を開いた。皆は真っ先に蒼のリーダーの首を獲ることを目的として他の民衆を守ることを提案した。その中にはソウも加わり襲撃している間に彼女を筆頭に領地から離れることも意見として述べていった。


「次の彼らの企ても何を仕掛けてくるかわからない」

「このままだと我々も刺殺される。大人がいなくなっては取り残されるのは子どもたちだ。シアン、どうかご決断を」

「民衆全員の移動は一撃される恐れもある。仕方がないが、翠の領地には女と子どもたちにだけ行ってもらうように頼むしかない」

「じゃあ男たちは全員で蒼のリーダーに襲撃すると?」

「それしかないな。もう手立てがないんだ。その中でも生き残った者は同じく翠の領地に行ってもらう事にする。そこには黄の領地にいた民衆が今もいるから宛てがある」

「俺達のできる力を出し切ってみんなを守ろう」


その夕刻、まず先に女性と子どもたちを集めさせて荷支度ができるとソウが馬で先頭に立ち皆を率いて領地から出ていくと、次にゲルの中では男性の民衆が銃や刀、弓などを装備して亥の刻になると、一斉に馬にまたがって蒼の領地へと向かっていった。男性たちが領地についた頃には一帯も静まり返っていてそれを見計らい、矢先に火がついた矢を射ると、領地の民衆が家から逃げて飛び出してきた。

騒音が鳴るなか領地へと入りリーダーの居るところはどこだと脅しながら占領していくと、敵地に辿り着いたシアンたちは要塞から声をあげていた。


「我々は黄の領地の民衆だ。リーダーはどこにいる?!」


彼らは塞がれた扉をこじ開けると、一気に攻めていき中へ入っていくと蒼の領地の民衆が垣根の隙間から一斉に矢や銃を放ち、数人、また数人と撃たれていき、残されたシアンたちは持っていた武器を地面に置いた。


「こちらからの攻撃はしない。だが我々の領地を襲ったことについては皆が怒り心頭だ。事情を聴きたい、誰か出てきてくれ!」


そうすると一人の男が甲冑かっちゅうを身に着けて現れた。


「そなたは……ソジンか?」

「シアン、久しぶりだな。ここに俺がいることがよく見抜けたな」

「リーダーってまさか、お前か?」

「そうだ。このように無残な事になってしまったのもお前……シアンのせいではあるまいか?」

「率直に聞く。なぜ我々の領地を襲ってきたんだ?何の目的がある?」

「この国に対して黄の領地はすでに腐敗の地になったのと同じ。襲撃をしたところでただ野垂れ死ぬだけだ。さっさと自分たちの領地に戻るがいい」

「もう二度と襲う事をしないと約束できるか?」

「それは俺の気分次第だ。ここで降参してくれれば考えてやることもできなくもない」

「くっそ……」

「あまり刺激する様な事はしない方がいい。ここで屍が増えても我々が焼き払うだけ。どう攻撃しても何の利益にもならん。さっさと帰れ!」


ソジンは無表情のままシアンたちを見つめて持っていた旗を手前に出すと彼の家来が彼らを取り押さえ門の外へ追い出されていった。無念のままシアンたちはその足で森林にかくまっている馬のところに来てまたがると翠の領地へと向かっていった。

シアンたちは領地に到着すると、その地に住む人々に歓迎され、馬から降りては負傷している民衆の手当てをするように頼んだ。小屋に案内されるとミヌが居て彼はシアンに駆け寄り抱きついた。


「シアン!無事で良かった。……なんか、行った時よりも人の数が少ないね」

「蒼のリーダーに会えたんだが、そこで一気に襲撃されたんだ」

「なんて酷い奴だ。ねぇ、彼は何が言っていた?お母さんは?」

「余計に命取りをするようなことはするなと言われた。あの時言おうとすればとっくに俺の首も刎ねていただろう。スヒョンさんも見つからなかった。だが、あの要塞でかくまっていることには違いないだろ」

「赤ちゃん、大丈夫かな……?」

「きっと赤子には手はつけまい。ただスヒョンさんの命はどうなるか……」

「許せない。僕一人でもいいから彼に会いに行きたい」

「それはよせ。……とにかくお前はジュノを守るんだ。二人しかいない家族。今はここの領地で静かに暮らす方がいいさ」


ミヌは大人たちの言葉を飲み込むしかなかったが、この時から彼の野心は計り知れないほどに燃えていき、ソジンへの復讐を強く抱くようになっていった。

その一年後ミヌは十三歳、ジュノは十歳になり翠の領地での生活にも慣れてきた頃、オリーブ畑の作業の手伝いをして小屋に戻ってきたある日に、シアンの妻のスアと市場へ買い出しに出かけて再び戻ってくると、ある民がシアンの元へやってきて黄の領地がまたもやソジンの侵略により攻撃を受けたと話してきた。


「時が来たようだな」


目を瞑りながら静かに語るシアンはその者とともに、住んでいた領地を陥没させて埋めることを実行しようと決意した。


「埋める?!どうして?僕らはもうあそこには戻れないの?」

「ミヌ。これ以上はさすがに俺も手が付けられない。ソジンのはかりごとが拡大していきそうな予感もする。皆のために良い暮らしを考えるとその手段を取るしかないんだ。わかってくれ」

「今頃きっとお母さんも赤ちゃんが生まれて元気にしている頃だ。そうだよね、そのためにもやるしかないんだよね?」

「そうだ。お前たち兄弟のためにも実行する。ミヌも一緒に来て見届けて欲しいんだ。できそうか?」

「うん、行くよ。連れて行って」

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