第2話

襲撃された翌朝、ミヌとジュノは隣接するゲルに住むアルトという欧州との混血の人物の元を訪ね、両親がいなくなったことを告げると彼の子どもも殺害されたと言ってきた。


「一体誰の仕業なんですか?」

「恐らくだが蒼の領地に住むリーダーたちの企てだろう」

「どうして僕らの領地を襲ってきたの?」

「黄の領地は長年にわたって農地として栄えてきた場所であるとは反対に、蒼の領地は清流の豊富さで他の領地からも源流を行き渡らせていっていた。しかし、近年になってここの砂丘の砂が増えてきたこともあり、渇水も増えてきた」

「それで、ここを壊滅させれば他の領地の水不足もなくなる……だから僕らを襲ってきた?」

「ああ。だがおかしいんだ。黄の領地にはまだ渇水しないように地下水から水をくみ上げて畑にも使えるように水源には問題ないはずなんだ」

「リーダーが単独で侵略を計画したとか?」

「それもありえるかもな。他の領地から比べるとここの人口は減っている。なくせば蒼の領地の領土が広がるからそれを手に入れたいのかもしれない」

「ねえ、僕たちが他の人たちに声をかけて蒼の領地に入ってリーダーに会いことは出来ない?」

「何をするんだ?」

「説得させるんだ。まだここには人が住んでいるんだし蒼の領地にも農産物も提供しているんだよ?壊滅したら彼らだって困るはずなのに……」

「昨日の晩のように襲ってきたことだし、簡単に敵う相手ではない。ミヌ、私達も生活があるんだ」

「もしまたここが襲われたらどうするんだよ?次はないかもしれないんだよ?そうなる前に和解したい。お母さんも連れ戻したいんだ」

「まいったな……まあまずは民衆を集結させて討論するしかないな」


その後ミヌとジュノは自分たちの畑に行き、土地の半分ほど荒らされた状態を見ては愕然とした。その傍にいる他の畑を管理している農民も様変わりした一帯を見渡しては悲しみに暮れていた。

ゲルに戻り父が使っていた地図を取り出して蒼の領地までの距離を測り馬でどのくらいでたどり着けるのかを考えていた。そうしていると隣のゲルに住む人ややってきて彼らを夕食を共に取ろうかと声をかけてきたので、その人物のゲルへと入っていった。


「ご両親がいない分あなたたちで料理もまともに作ることが大変でしょう。しばらくは私がつくってあげるから、困ったことがあったら来てもいいよ」


彼女の名はソウと言い五十代の女性で猟銃士として一人で暮らしている。


「ソウさん、僕らのお母さんが蒼の領地に連れられて行ったんだ。どうしよう、今頃どこに何をされているのかが怖くて堪らないよ」

「お腹に赤ちゃんがいる。もうすぐで産まれてくる予定なんだ。何かあったらどうしよう……」


ソウの作った蒸し餃子ができあがりその鍋から皿に盛りつけて二人に出すと彼女はある話をしてきた。


「まだあなたたちは幼いし領地を侵略するなんて危険すぎる。大人たちでさえ命を落としかねないし、いかんせあの蒼のリーダーが何をしでかすかわからないよ」

「このまま黙っていろっていうしかないの?」

「ミヌ。今すぐに動くことはしない方がいい。もしかしたらお母さんも戻せるかもしれない」

「どういうこと?」

「次の週に蒼の領地に猟銃用の部品の手入れをしに行く。その時にあちこち私が人を当たってみようと思うんだ」

「じゃあ僕たちも一緒に行っていい?」

「行くだけならいい。ただし下手に動いたらすぐ捕まるから大人しくついてくるように行くんだ。それでいいかい?」

「わかった。ジュノ、はぐれないようにしてね」

「うん」


それから数日が経ち三人は隣接する蒼の領地へと馬に乗ってやってきて、銃を扱う小屋に着くと家主が彼女を歓迎してくれた。


「あれ、君にこんな大きな子どもがいたのかい?」

「この子たちは私の知り合いの子。どうしてもついていきたいと言ってきたから一緒に来たんだ。部品は直っている?」

「ええ。今出すからちょっと待っていてくれ」


屋内には十数本の猟銃が飾られていてミヌとジュノは興味津々に眺めていた。ジュノが手を伸ばそうとした時家主が触らないでくれと注意をしジュノは少々委縮していた。


「お待たせ。だいぶ脆くなっていたから新しいのに替えておいたよ」

「ありがとう。……これでいいかな?」

「ああ丁度いただくよ」

「それと一つ聞きたい。最近ここの領地のリーダーが黄の領地を襲撃しに来た。何か詳しいことは聞いているかい?」

「ああ。なにやら企てていることがあるらしくて、近いうちに黄の領地の長の首を狙っているといううわさが飛び交っているんだ」

「じゃあ私達も襲われる可能性のある?」

「恐らくな。私から提案なんだが、その前にみどりの領地にかくまってもらうように話をつけてみたらどうだ?」

「翠の領地か。あそこはここよりも距離が離れている。移動するにも早いうちに全員が動かないと危ないな」

「僕たちお母さんを探しているんだ。ここに来ているみたいなんだけど何か聞いていますか?」

「いやわからん。情報が届いていなくて申し訳ない。君たちもまた襲撃されるかもしれないから、ソウと一緒に逃げるようにした方がいい」


それから何軒か母の行方を尋ねてみていったが手がかりになる事はなかった。日も暮れた頃に黄の領地へと戻りゲルに入ると何通かの手紙が届いていた。その中には父の親に当たる祖父母からの便りがあり、みんな元気かという内容の文が綴られてあった。

ミヌはすぐに筆をとり先日あった襲撃の事を知らせ母もいないことを書いて封を閉じ、彼は目から涙を流して泣いていた。

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