エレティコスの翼
桑鶴七緒
第1話
その日はとてつもない突風が吹き荒れていて、彼らの住む
目を覚ました父と母のスヒョンは居宅の柱や布で覆われた壁を重複するように補正して壊れないように手をかけていった。
長男のミヌはすさまじい風の音に気がついて眠たい目を開けてこすりながら母に問いかけた。
「お家大丈夫?」
「大丈夫よ。お父さんが手直ししてくれたから布団に入っていなさい」
天柱が揺れるのを見守りながら布団に入り、それを見た母が頭を撫でで彼を安心させようと宥めていた。すると、末っ子のジュノが起きてきて少しぐずりながら母に抱きついていた。
「二人とも、もうすぐで夜が明けようとしている。もう少しだけ耐えたらこの風も収まるからとにかく眠りにつきなさい」
ミヌとジュノはその声に素直に応じて再び眠りについていき、やがて風の音が次第にゆっくりと帆を立てるように落ち着いてきた。
日の出が明けた頃父はゲルの外に出て周りの音に耳を立てて辺りを見張るように眺めた後、家族を起こして農地に行くように促すと、ジュノは大きくあくびをして皆が笑っていた。
居住地から一キロ離れたところにある小麦の畑にやってくると昨夜の暴風でなぎ倒されていたので、畑に入り稲を起こす作業に当たっていった。
「スヒョン。あまり無理をしなくていいからそこで休んでいなさい」
母のお腹のなかには赤子がいる。あと数ヶ月したら産まれてくる予定だ。ミヌは父とジュノと一緒に作業を終えて母の元に行くとあらかじめ持ってきていた五穀米のパンにハムやチーズを挟んだものを食べて、母のお腹をさすりながら早く産まれてきてくれと言うと、中にいる赤子が足で蹴ってきたのを知ると、父はミヌに似た元気な子が産まれそうだと話していた。西日が傾き始めた頃、ゲルに戻ってきて、ミヌは母と夕飯の支度を始めた。
「今日は何?」
「この間いただいた豚の鍋よ。お父さんがさばいてくれたものだから皆できちんと食べましょうね」
母が鉄鍋をかまどの上に置き着火させて沸騰するとそこへ豚の各部位や野菜を入れてひと煮立ちさせていった。彼女が鍋と持とうとしたら父が危ないので自分が持っていくと言い囲炉裏の台に鍋を置き、ふたをあけると色とりどりに具材が煮込まれてあった。父が食前にお祈りを始めた。
「主よ、私達の生を与えていただきありがとうございます。この上ない恵みと今日の日を感謝して皆でいただきます。……さあ食べよう」
「いただきます」
「今日はなんだかお酒の匂いがする。何か入れた?」
「お隣さんにいただいた酒粕を入れたのよ。少しだけお砂糖も入れてあるから食べやすくしておいたわ」
「……うん、温まる。僕、モツの部分がコリコリしていて食べれないと思ったけど、今日はそんなに臭くない。食べれるよ」
「それは良かった。野菜もたくさん入れてあるからちゃんと食べるんだよ」
夕食を済ませ後片付けの手伝いを終えると、勉強台のところに座り翌日の学校の宿題に取りかかった。頭をひねらせていると父が傍に来て解けない部分を伝えて一緒に見てくれた。
そうしているうちに就寝の時間が来たので先に眠っているジュノの隣に敷いてある布団の中に入り眠りについた。
低い雲が暗闇を立ち込めるかのよう広がる丑の刻、草原の向こうから無数はいるであろう馬を走らせる
その頃ゲルの中にいたミヌはジュノを起こして扉から外の様子と見てみると、血を流して倒れている民衆が目に入り、彼も銃を持ち外に出ようとするとジュノが母の姿がないといい、二人で外に出ていくと荒れ狂う人々が誰がに襲われている光景が目に焼き付いていった。
ジュノの前に倒れている人が足を掴みかかってきて何かを言っているので耳を傾けてみると、「この領地に悪魔が来ている、早く逃げろ」といいその人は即死した。
ジュノは足がすくみその場で尻もちをつき、ミヌは彼を抱えては立ち上がるように促した。
「兄ちゃん、お母さんは?」
「わからない。お父さんもどこにいるのかもわからないんだよ。いいから立ち上がって。誰かが来そうだから逃げないといけない」
すると、数メール離れたところから誰かの悲鳴が上がりミヌが目を凝らしながら近づいていくと、銃を構えていた父が巨身の男に刀で身体を切りつけられ、それに耐えて再び銃を鳴らそうとしたら首をひと刺しされて彼はその場で倒れた。
「父さん……お、お父さん!」
ミヌは駆け寄り父の身体を揺すったがすでに息を引き取っていた。そばにいた馬の足元から見上げてみると、男が彼に刀を向けて冷淡な目をしながら威嚇をしてきた。
震えながらミヌは男に母親はどこに行ったかと訊くと知らないと答え、その仲間たちが集まると同時に領地から去って行った。
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