第5話
数日が経った日シアンはミヌとジュノを連れてユルのところにやってきた。しばらく待っていると牛舎からユルの姿が見えて近寄ると彼は百八十五センチの大柄の体格のいい人物だった。
「やあ、君たちがミヌとジュノか。剣術を教えて欲しいと?」
「はい。いつか僕たちも戦いに出られるように強くなりたいんです」
「そうか。じゃあ早速なんだがシアン、俺と打ち合いに付き合ってくれ」
「ああいいよ」
二人はその場でしゃがみ込み、シアンとユルの打ち合いを眺めていた。先攻にシアンが竹刀で突いていくとユルは軽やかに打ってきた竹刀を交わしていき、勢いよくシアンが振りかざすとユルは脇腹を突いてきた。
続けてミヌが竹刀を持ちユルに向かって打っていくと、まだ力が弱いためか簡単には相手の竹刀を交わすことができず、胴の部分を打っていこうとしたが翻ひるがえすようにあっという間に竹刀を地面に落とされた。
「もう少し竹刀を強く握るんだ。相手の面に向かって突進するように前に出ろ」
「はい!」
何度か打ち合いをしていったがミヌはそのたびに地面に身体を打ち続けられていた。それを見たシアンがもうやめるように止めたがミヌは諦めたくないと言い両手で竹刀を持ちユルに向かって突いていこうとしたがユルが彼の竹刀を掴みかかり打ち合いをやめた。
「嫌だ!もっとやりたいよ!」
「ここまでにしておきなさい。また別の日に教えるから今日は身体を休めるんだ」
その後ジュノも一緒に打ち合いをしていき、構え方はいいが逃げ腰になるところがあるのでもっと相手に寄るようにとユルは指導していった。打ち合いがひと通り終わり小屋の中で休んでいると、ユルは三人に土産物として手造りのチーズを渡してくれた。
「こんな高価なもの、いいのか?」
「構わない。スアさんにもよろしく伝えてくれ」
「ありがとうございます」
「二人とも、最後までめげずに頑張ったな。この調子でまた次回も一緒にやっていこう」
「はい!」
一ヵ月後、寝静まった領地に遠くの方から馬を率いるある軍隊が押し寄せてきた。シアンは家来たちを集めて松明を抱えて軍隊に駆け寄っていくと、一人の女性らしき人物が馬から降りて兜を取り外すと、見覚えのある容姿に気づいて刀を下ろした。
「朱の領地のソヨン殿ではないか。こんな夜中にどうしたんだ?」
「急に来てすまない。さきほど蒼のリーダーのソジン氏が我々のところに来て黄の領地のシアン殿を討つために同盟を組まないかと申し出てきたんだ」
「なんだって?」
「一体何の狙いがあってそのようなことを申してきた?」
「翠の領地を占領下に置き国一帯を独占しようとする動きを見せてきているんだ。反対をしたのだが、従わなければ私の首をも狙っていて、一刻を争う姿勢を見せてきている」
「馬鹿な話だ。都の陛下に知られたら俺たちの行き場所もなくなってしまうぞ」
「それが……陛下がソジンに味方をしているらしい。どう交渉したのかは定かではないが、彼らの動きは勢いを増してきているのは確かだ」
「とうとう占領下を進めてくるのか。我々も兵を集めなければならないな」
「そこでなのだが、シアン。私達朱の領地とここの領地の民兵と手を組みソジンたちの勢力を沈めるよう仕向けていかないか?」
「そちらの領地の兵はどのくらいの規模がある?」
「ざっと一万だ」
「俺達の手で集めたとしても七千くらいはいけるかというくらいだな」
「それだけいるのならいい。蒼の領地も一万くらいだというらしいからどうにかなるだろう」
「ソジンの兵士も強化をしているみたいだから油断はできん。明日の朝すぐに兵を集めて会議を行なおう」
「ソヨン殿、今晩はこちらに泊りなさい。皆も会議に参加していただきたい」
「ああ、そうしてもらうよ」
「さあ馬を向こうの小屋に寄せるから、みんなついて来てくれ」
翌朝、シアンはソヨンの率いる家臣たちとともに集会場に来て作戦会議に取りかかった。蒼の領地の兵力を考えると大人たちだけでは数が足りないので十代の青年兵の募集もかけることを試みようとし、民衆は市場などに張り出してある志願兵の項目を読み不安を煽りながらも、領地を守備するために青年たちは次々と名乗り出てきた。
その後ある程度の民兵が揃ったところで、シアンやユル、ソウを中心として民兵らに演習を行うよう指導していった。その様子を遠くから見ている子どもたちのなかにミヌとジュノもいて、ミヌは自分も志願したいと考えていた。彼は、その場から走り出し、シアンの元へやってきては民兵として出させてほしいと訊いたが、すぐに反対した。
「どうして?僕もユルからたくさん武術を学んでいるんだ」
「今の状態ではすぐに敵にやられてしまう。お前は民兵の子どもたちを守るようにしてほしい」
「お願いします!僕もこの演習に交えて欲しい」
「ミヌ、こっちに来なさい」
「……何?」
「お前たち兄弟に託したいことがある」
「それは何?」
「スアのお腹のなかに赤子がいるんだ」
「本当?」
「ああ。だから彼女をはじめとする女性や老人、子どもたちをお前が中心になって守ってやって欲しいんだ」
「もし敵がせめてきたら、僕が守っていいの?」
「そうだ。俺たちがいない間に侵略してくる者もいることを想定して、残っている民衆でこの領地を守って欲しい。約束できるか?」
「わかったよ。その代わりなんだけど、僕のお母さんを連れてくることはできそう?」
「やってみるがかなり難しいぞ。ソジンの住まいかどこかにかくまわれる可能性もある」
「シアンならできるよ。領地の長だもの。真の勇者そのものだしさ」
「俺も合わせて兵士とともに戦ってくる。お互いに生き残れるよう約束をしよう」
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