第5話「もしかしたらは、殆ど起こらない。だけど、稀に起こる事もある。」

  あれから、数日が経ったが、一向に誘う気配はなく、遠足の日まで残り3日となった。大沢は、美菜子・雀の仲良し2人組と。井園は、陽キャの酒井・平塚のグループに入る形で、それぞれ3人1組を達成した。今日は、グループでどこを回るか話し合っていた。


  くそっ。後3日しかない。どうしたら大沢と一緒になれるんだ?俺のわがままのせいで陽キャ2人の楽しみを奪いたくないし、嫌われてるのは分かってるけど、大沢と一緒に回りたい。一体どうすれば。


  まずいよ。あの2人、井園君嫌ってるから、あのグループを誘って一緒に回ろなんて言えない。どうしよう。


  そんな2人に、恋愛の神様は味方をしたのか、酒井と、雀が、2人の均衡を崩す一言を放つ。


「俺、雀ちゃんが好きなんだよね。だからさ、あの班と一緒に回りたいなって。」


  ありがとうごさいます。神様、仏様、酒井様。このご恩は一生忘れません。


「私、平塚君が好きなの。だから、あの班と一緒に回ってもいいかな?」

「 ありがとうごさいます。雀様。一生友達だよ。」


  早速、酒井は、雀の所に行き、交渉を始めた。


「あのさぁ、俺達と一緒に回らね?」

「いいよ!勿論だよ。(たしか、そっちに平塚君が居たはず。これは願ってもないチャンスよ。)」

「おう。それじゃ、一緒に決めるか。(っしゃぁ!雀ちゃん。もしかして、俺に気があるのか!)」


  両者の想いは違えど、無事、一緒になる事が出来た大沢と井園。しかし、問題はここからだった。


「私、観覧車に乗りたい。」


 そう言い出したのは大沢だ。大沢は、もしも、一緒になった時のプランを予め用意していたのだ。


  観覧車で井園君と二人っきり。そして、手を繋いで、ジェットコースターに乗って、後は、お化け屋敷で彼に抱きつく。少し、勇気がいるけど大丈夫。嫌われてるなら、好きにさせるだけ。私なら出来る!


 おいおい。マジかよ。観覧車かよ。絶対無理だ。いくら大沢の頼みといえど無理だ。


「おっ。いいね。じゃあ、アタシ、美沙と乗る。いいでしょ?」

「え?うん。良いよ。」


 美菜子は、嬉しそうに大沢に抱きつく。


「だったら、俺達も乗らね?雀ちゃん。どう?」

「いや、私は⋯⋯。」

「どうせなら、翔も乗らね?」

「僕は遠慮しとくよ。高いところ苦手だから。」

「そっか。それなら仕方ないか。んじゃ、2人で乗る?」

「ぅぅん。別にいいけど。」


 こうして、井園はハブられたまま話は進んでいき、大沢どころか、誰とも回ること無く話し合いは終了した。


 結局、井園君と回れなかった。はぁ、何でこうなるかなぁ。


 大沢は、思わず深いため息をつく。


「何ため息ついてんの?そんなんじゃ幸せは逃げていくよ。」


 雀は、項垂れてる大沢の頭部を人差し指でつんつんしながら話す。

 

「既に逃げてますよ〜だ。」

「何不貞腐れてんの?一緒に回りたい人でもいたの?」

「うぅぅ。いたよぉぉ。いたけどぉぉ。」

「大方予想はつくね。井園だろ?」

「え?なんで分かったの?」


 大沢は思わず顔を上げる。


「うぉぉ。いきなり顔を上げるな。ビックリするわ。てか、自分で言ってたじゃん。気になるって。それに、すぐに顔に出るから分かりやすいんだよ。美菜子だって気づいてるよ。だから、今日みたいに、一緒にさせないように先手を打ってたの。」

「え?何で?何で井園君と一緒に居たらダメなの?」

「それは美菜子に聞きな。ていうか、正直言って、アイツ嫌いだね。」


 雀から、思いもよらぬ悪口が溢れ出す。


「もう済んだ過去を未だにぶり返して、批判して、前に進もうとしない。だから、嫌いなんだよ。アイツは人の恋路を応援できないのかねぇ。」

「でも、雀も賛同してたじゃん。」


「私だって、これ以上、井園君を悪く言いたくないよ。アイツだって、前に進もうと努力してる。それを皆知ってるから、言わなくなったのに、アイツはそれさえも否定する。井園には悪いけど、井園を悪く言わないと、今度は美菜子が孤立するじゃん。アレでも一応友達だからさ、友達がそうなるのは嫌いなわけ。卑怯なのは分かってる。それでも、美菜子が前に進むまで、私はこのままでいるつもり。」

「雀も大変だねぇ。」

「誰かさんのせいでな。まっ、2人だけの時間を作れるように頑張るから。そんな気にしなくていいよ。」

「ありがとう。雀。」


  一方、美菜子は、井園を廊下に呼び出していた。


「何か用?」

「あのさ、遠足の日。休んでくれない?」

「何で?」

「みんな優しいから言わないけどさ、アンタが居るだけで周りの空気は最悪なの。分かる?少しは、うちらの空気を読んでくれない?」

「もし、遠足の日に来たら?」

「あ?もしかして行く気なの?」

「うん。」

「さっきも言ったよね?空気読めって。もし、来ても大沢の近くには絶対に来るなよ。少しでも近づいたら殺す。」


  こうして、人生初の殺害予告をされた楽しい遠足が始まるのだった。


第5話「もしかしたらは、殆ど起こらない。だけど、稀に起こる事もある。」~完~

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る