第4話「1日は短い。」

  皆さんは、学校に行くのが退屈だと思った事はありますか?私はありません。むしろ、もうちょっと居たいと思った事もあります。特に授業中は、そう思うことが多々あります。他の生徒は眠ったり、お喋りしてますが、私は、勿体ないと思います。同じ時間、同じ空間を大切なあの人と共に共有できる数少ないチャンスだからです。私は、勝手にこれを擬似同棲と呼んでいます。少しおかしな子と思われても仕方ありません。それぐらい私は、井園君が気になるのです。彼が私の事を好きかどうかはまだ分かりませんが、私は彼を好ましく思っています。


「この問題。井園解いてくれ。」


 あっ。井園君が前に出る。彼の勇姿をこの目に焼き付けないと。でも、その前に板書を終わらせないと。って、シャーペンの芯が出ない。まずい。


 隣の席の林は、大沢のシャーペンの芯が出ないことに気づく。


「もしかして、シャーペンの芯が出ないの?良かったらこれ使って。」


 林は、0.5のシャー芯を渡す。


「林さん。ありがとう。でも、このシャーペン0.3なの。ごめんね。予備で鉛筆あるからそれを使うわ。」


 大沢は、買ってから1度も使ってない鉛筆を取り出し、削り始めた。


「井園。正解だ。皆拍手。」


 急いで削らないと。彼の勇姿を見れない。こんな事になるなら、昨日削っておくべきだった。


「次の問題。小早川。解いてみろ。」


 え?井園君は?って、もう書き終わってるじゃない。せっかくのチャンスがぁ。


 やがて、放課後になり、それぞれそれぞれ自分の部活に向かう。大沢は、美術室へと向かった。


「失礼します。」


 大沢は、グラウンドが見える窓際に必ず座る。ここなら、井園がよく見えるからだ。鞄から描きかけの絵を取り出し、続きを描き始める。


「おっ。大沢さん。今日もここか?」


 美術部部長の畑中が話しかけてきた。大沢は、筆を止め、畑中の方を見る。


「はい。ここがベストポジションなんで。」

「ふーん。愛しの人を見るのにベストポジションだもんな。ここは。」


 畑中はニヤつきながら窓の下を除く。思わず大沢は赤面する。


「おっ。今日もやってるな。あいつ、何で美術部辞めたんだろうな?うちの学校は、部活強制参加じゃないから、別にいいんだけど。」


 私は、その理由を聞こうとは思わない。彼には彼なりの理由があって、辞めたのだろう。私が知りたいのは、過去ではなく現在。過去ばかり気にしては、今の彼と向き合うことは出来ない。でも、やっぱり気になるかも。前言撤回。やっぱり聞こう。


「ちょっと、消しゴム借りるね。」


 畑中は筆箱から消しゴムを取り出し、井園目掛けて投げた。消しゴムは、見事命中し、井園は、こちらを向いた。


「おーい。井園君。そこに消しゴム落ちてない?」

「畑中先輩。もしかして、これですか?」

「ごめんごめん。ちょっとふざけてたら、落ちちゃって。ちょっと、こっちまで持ってきてくれる?」


 え?井園君。こっちに来るの?やばいやばい。この絵を見られたら絶対引かれる。何とかして誤魔化さないと。


「それじゃ、ごゆっくり。後、井園君が来たら、着替えますって、言っておいて。」


 畑中は、そう言い残し、美術準備室へ入った。


 えぇ。急にそんな事言われても。どうしよう。まずは鞄に閉まって、でも、美術部なのに机の上に何も無いのはおかしいよね?こうなったら伏せるしかない。


「失礼します。」


 数分後に、井園は、教室に入ってきた。


 井園君来ちゃったよ。えっと、何て話しかければいいんだろう?てか、ニヤけが止まらないんだけど。こんな顔、気持ち悪くて見せられないよ。


 大沢は、気づかれないように、井園に視線を向ける。井園は、教室を出ようとしていた。思わず大沢は、


「畑中先輩なら、美術準備室に居るよ。でも、今着替えてるみたいだから、着替えが終わるまで、待ってたら?」

「じゃぁ、待ってます。」


 どうしよう。私、話しちゃった。遂に井園君とお話できた。嬉しい!もうこれって、チャンスだよね?アピールしなくっちゃ。まずは、会話を。って言っても何話せばいいんだろう。分かんないよ。とりあえず先輩の疑問を遠回しに聞いてみよう。


「井園君。何で美術部に来なかったの?中等部の時、美術部だったじゃん。」

「ちょっと中等部の頃。色々ありまして。」

「でも、今は高等部だよ?いつまで過去を引きずってんの?」


 やった。遂に井園君とお話できた。


  思わず大沢は笑みをこぼす。大沢にとって、井園と会話出来たことは、それほどまでに嬉しかったのだろう。


「ごめんごめん。井園君。待たせちゃったね。」


  美術準備室から、体操服を着た畑中が姿を現す。


「いやぁ。体育の補習あるのすっかり忘れてた。」

「あっ。これ。消しゴムです。」


  井園は消しゴムを渡す。


「おう。サンキューな。」

「それじゃ、失礼します。」


「あのさ、井園君。」


 井園は、聞こえなかったのか、教室を出てしまった。


 私と居るの嫌なのかなぁ?一度も名前を呼んでくれなかったし、そもそもそも私って気づいてたのかなぁ?


「はぁ。」


 大沢は、思わずため息をつく。それを見た畑中は、何か言いたげな様子で大沢を見る。


「どうしたんですか?畑中部長。」

「お前らコミ障か!」


 突然のツッコミに、大沢は困惑する。


「何が、着替えが終わるまで、待ってたら?だ。他に誘い文句無かったのか?それに、会話の少なさよ。税金で引かれたあとの給料ぐらい少ねぇじゃねぇか。後、お前ら、一度も顔を見てねぇよな?何だ?恥ずかしいのか?照れてんのか?ったく。そんなんじゃ、いつまで経っても進展しねぇぞ。」

「だって、怖いじゃないですか。いざ話すとなると。」

「分かる!ホントそれ。」


 こんなんで井園君誘えるのかなぁ?てか、やっぱり、私に興味が無いのでは?この先不安しかない。あぁ〜どうしよう。


第4話「1日は短い。」~完~

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