第26話 9月19日

 久しぶりに夢を見なかった。こんなに熟睡したのはいつぶりだろう。よく眠れたという割には俺の心は重苦しいままだった。

 

 教室でも、校外でも、俺とシゲは別々に行動するようになった。休み時間、教室の片隅から笑い声が聞こえてきた。ふと目をやると、シゲが数人の女子と話している。今までのシゲは無口で、ぶっきらぼうで女子と話す事なんてなかった。女子の中には井原椿の姿もある。

 もともと長身でイケメンのシゲだ。女子たちは楽しそうにシゲに話しかけていた。何だよ、今までは俺がいなきゃ女子とまともに会話すらできなかったのに。

 俺はひたすら面白くなかった。もう更姫なんてどうでもよくなってきた。よく考えればただの夢じゃないか。バカバカしい。ポケットに手を入れるとライターがあった。みっちゃんと約束した花火、できそうもないな。


「江口君、ボッチなんだ。上田君と喧嘩したの?」

 昼食前、藤川瑠璃が嬉しそうに話しかけて来た。

「俺は孤独を愛するんだ」

「へぇ、一緒にお昼食べない?」

 話を聞いていなかったのか。俺は孤独を愛するんだぞ。藤川瑠璃はがたがたと机を動かして俺の机にくっつけた。周囲の人間がひそひそと言いながら、俺たちを見ている。藤川は全く気にならないというように、リュックの中から弁当箱を取り出した。こいつ、メンタル強いな。自分勝手なんだけど、そう言うところはすごいなと素直に感心する。俺も彼女に倣い、スポーツバックから弁当箱を取り出して机の上に置いた。


 昼休みも、下校もボッチで俺は家に帰った。

 前夜久しぶりに熟睡したせいか、その夜、俺はなかな眠れなかった。ずっとセーブしたままになっていた『戦国の野望』をやり始める。

 いつもとは気分を変えて、マイナーな武将を選び、ゲームを始めた。四国の河野にするか。まずは長曾我部を攻めて、配下に置けば、毛利を攻めた時に上手くいくかも。いや、やっぱりやめて武田信玄だ。年代を変えて、まだ弱小だった武田で天下を取ろう。それとも徳川にするか。あれこれと操作するが、どうもしっくりいかない。やっぱりやめた。ゲームの気分じゃないな。

 コントローラーを放り投げて、布団に突っ伏した。一体、俺は何がしたいんだ。



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