第142話 これからの話
聖世紀1211年夏 王都 ガナル邸客間
王宮の外でアベルたちと合流した大賢者と星の聖女はアベルたちと話をして
クリシアとラムをルマンドのドラゴニュートの待つ部屋に送ってから
黒龍と一緒に王都のガナル邸に転移することにした。
「邪魔するよ。」
ダリアスがそう言うとアベルと大賢者パブロフの三人の姿がガナル邸の応接室に現れた。
近くにいたメイド数人がびっくりして尻餅をついているのをアベルが起こしてあげている。
バエルはこの報告には全く興味が無くアベルの指輪に帰って寝ているようだ。
「アベルちゃん」
イベルマより早くラーシャに抱きしめられもみくちゃにされるアベル。
ガナルはアベルの頭を撫でている。
兄のベルクとギルメサイアは星の聖女と大賢者とアベルの組み合わせにびっくりしている。
イベルマは静かにアベルに言う。
「アベル。あなたは今回は戦闘は無しと言いましたが、魔石記録は見ましたわ。あなた一歩間違えば完全に死んでましたよ。偶然プルソンやバエルの作戦が成功したとして40点ぐらいですね。」
それを聴いたベルクはイベルマに抗議する。
「いや、母上。5歳にしては出来過ぎですよ。僕には出来ませんよ。僕は我が弟のアベルに120点あげますよ。」
ベルクの声を久しぶり聴いたアベルがラーシャの拘束から離れてベルクに抱きつく。
ベルクが優しくアベルを抱きしめて頭を優しく撫でる。
黒龍はアベルとシルビアの戦いの記録魔石を見ている。
ガナルは心配しすぎて不機嫌なイベルマを宥めるように
「まぁ、アベルは怪我もせずにこうして帰ってきたんだから良いじゃないか。」
イベルマはそんなことはわかっているがあまりにもアベルを心配していた為
出た言葉だった。
「だってこの子はヴァンパイアの恐ろしさを知らないで戦っていたのですよ。」
アベルは珍しくイベルマに意見する。
「いいえ、母上。お言葉ですが、潜入する前に大賢者やお婆様やプルソンやバエルからいろいろヴァンバイアについて学びました。僕も何も考えず戦うほどバカじゃありませんよ。」
ガナルとラーシャとダリアスが意見するアベルの成長をニコニコしながら見いている。
イベルマがアベルの言葉に小さくため息をついて答える。
「はぁ・・・ハイハイ、なら良いのですが。それで黒龍さん、国境はどうだったのですか?」
アベルの後ろにいた黒龍が一歩前に出てイベルマに答える。
「はい、国境を警護していた兵士は全員が護符による強力な魅了にかかっておりました。これがその護符です。」
そう言うと黒龍は龍の宝物庫から一枚の護符を出してテーブルの上に置いた。
大賢者がじっくりと見つめてみんなに触れないように注意した。
「呪物ですから気軽に触ってはいけませんよ。これはヴァンパイアによる血の護符ですね。しかもこの血は剣王様の血を使っていますな。元々、アルバニの兵士たちにあった剣王への忠誠心を利用するためにわざわざ剣王の血を使ったみたいですな。」
イベルマが黒龍に感謝する。
「黒龍さん、ありがとうございます。アベルの為に国境でドラゴニュートさん達と陽動作戦をしていただいて。」
黒龍は頭を下げるイベルマにあわてて答える。
「いえいえ、私はリトルドラゴンの従魔ですから。」
アベルがすかさず黒龍に訂正する。
「違うよ。黒龍先生だよ。」
黒龍が笑顔でアベルの頭を優しく撫でる。
そのやり取りを見ていたギルメサイアが申し訳なさそうに涙を流す。
横にいるベルクがハンカチをそっと差し出す。
ギルメサイアがハンカチを受け取り涙を拭いている。
「アベルさん、黒龍さん、私のために危ないことをさせてしまって本当にすいません。」
アベルは女の子を泣かしてしまったことに慌てて何も出来ない。
その慌てるアベルの様子を見て微笑みながらダリアスが話し始める。
「盛り上がっておるところすまんがのう。お主が第一王姫ギルメサイアかいのう。わしは星の聖女ダリアスじゃ。この隣が大賢者パブロフじゃ。」
ギルメサイアは涙目でダリアスを見つめると王姫の顔にキリッと戻る。
ダリアスが続ける。
「いやいや、問題が取り返しのつかないようになる前の早い段階でお前さんをジルード家が保護して、ワシらはアルバニを調査できてよかったんじゃよ。」
大賢者もアベルの頭を撫でながらギルメサイアに言葉を続ける。
「そうだね。ギルメサイア姫もこうして無事に生きているからね。生きていれば必ずアルバニを取り返して父上母上の無念を晴らすことができますよ。我々は全力でお力をお貸ししますよ。」
大賢者の言葉にギルメサイアがまた泣きながら感謝と謝罪をする。
「大賢者様、星の聖者様、光の聖者様、水の聖者様、本当にありがとうございます。そしてアベルさんや黒龍さんに危ないことをさせて本当に申し訳ありません。」
泣き崩れるギルメサイアをラーシャが優しく抱きしめる。
その隣でベルクが心配そうにギルメサイアを見ている。
そんな空気の中、プルソンがいきなり話し始める。
「いつまでも泣いている場合じゃありませんよ。泣いてるだけでは何も出来ませんよ。」
アベルはプルソンの言葉に空気読めよと思っているが
そんな事お構いなくプルソンが続ける。
「大事なのはこれからの話です。私が感じた未来では、シルビアが復活するのには一週間ぐらいはかかります。そこで第二王妃アレシアは行方不明のギルメサイアを死んだとして明日あたりに正式発表します。そして喪に服すとして一週間の間は王宮の外部からの出入りを封鎖します。その間にシルビア復活の時間を稼いで復活したら戴冠式を盛大に行うでしょう。そこでアルバニ王国をヴァンパイアの国として宣言してそれと同時に他国への侵略宣言がされるでしょう。」
アベルはプルソンの言葉に驚きながら言葉にする。
「そうなってくるとアルバニ王国だけの問題じゃないんだね。」
ダリアスが大きく頷いてアベルに答える。
「そうじゃ。だからワシとパブロフが調べておったんじゃ。しかし、時間が一週間しか無いからのう。ガナルには悪いがお前の息子ナジーバの馬鹿王はこの問題に対処する力も知恵も全くないからのう。その取り巻きの貴族どもも騎士団も全く機能せんからのう。それでそうなるとこの国で頼れるのはジルードだけじゃ。すまんがユミルバのナデルにヴァンパイアの件を頼めんかのう。あやつならヴァンパイアに余裕じゃろ。イベルマよ、すまんが上手くナデルに頼んでみてくれるかのう。」
イベルマはナデルに相談もしていないのにすぐ答える。
「ええ、わかりましたわ先生。ヴァンパイアとの対決はナデルにキッチリやらせますわ。」
ダリアスがイベルマにニコニコして頷いている。
アベルは1人でナデルにそんなことができるのか疑っている。
「ねえねえ、お婆様、本当に父上で大丈夫なんですか?」
ベルクもアベルに続けて
「私も父上がそこまで強いとは知りませんでした。」
大賢者がアベルとベルクの言葉に驚いて答える。
「ベルク君、アベル君、君たちはいつも事務仕事に追われるナデルしか見ていないから仕方ないですよね。あのね、君の父上は本当にナジーバ最強の大魔導士だよ。あの人は他の魔導士とは全く次元が違うんだ。」
アベルはベルクと顔を見合わせて大賢者の言葉に半信半疑で答える。
「・・・んーやっぱり想像できないや。」
ダリアスがアベルの頭を撫でながら笑いながら
「あやつの魔法を見てびっくりせんようにな。ああ、夜ももう遅いからのう。わしゃ眠いわ。この後のことを決めてそろそろ解散じゃな。」
そういうと亜空間からテーブルに剣王の手記と清められた銀剣と
剣王からギルメサイア宛の手紙を出した。
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