第143話 ナデルに報告

聖世紀1211年夏 ユミルバ ジルード邸応接室


会議の終わった夜更けにイベルマとガナルとラーシャとアベルと黒龍は

ルマンドの宿に戻って予定どおりユミルバに帰ることとなった。


パブロフとダリアスはそのまま王都のガナル邸に留まりギルメサイアから

いろんな情報を聞きながらギルメサイアと王国を取り戻した後の国の運営について

話し合いをすることとなった。


ベルクはギルメサイアに勉強を教えながら警護と言う名のお相手をしていた。

イベルマからギルメサイアにお姫様ですから好きになってはいけませんよ。と言われて

逆効果で余計にお互い意識し始めて初恋の初々しい雰囲気が漂っていた。


会議の翌朝になるとナジーバ新聞の一面には


「アルバニ王国ギルメサイア第一王姫 剣王様に続き闘病虚しく死去 悲しみに打ちひしがれるアレシア王妃と妹のシルビア姫」


と大きく報道されていた。

その報道にアルバニの国民は悲しみに包まれて王宮に合わせて街も

一週間の間は喪に服すこととなった。


記事によると

「大きな悲しみを乗り越えて、剣王様の志を胸に残された国民と共に新たな国づくりに進んでいこう。」とアレシアは語った。

そして喪の明けた一週間後にシルビアを新たな女王とする戴冠式を行うとあった。


アベルたちのルマンドからの帰り道は途中なんのトラブルもなくユミルバに到着した。

イベルマがアベルがいるのに何もありませんでしたね。と笑っていた。

アベルは心外だと1人で拗ねていたが、その様子が可愛くてみんなが笑っていた。


ジルード邸に到着してガナルとラーシャに再会したナデルは

アベルが今まで見たことのないような笑顔で楽しそうだった。


まず応接室に集まってアベルがナデルにプルソンとバエルの紹介をして

その後にイベルマからナデルに聖教会との話、王との謁見の話、バーク領主の話、

アルバニ王国の話を順を追って説明をしてから、ドラゴニュートたちを紹介した。


ナデルは腕を組んで目を瞑ってじっと聞いていたが

途中から目を開けてアベルの方をじっと見つめながら話を聞いていた。

逆にアベルがナデルに見られているのに耐えきれず目を瞑っていた。


続けてこの旅での一連の記録魔石をイベルマがナデルに渡して

ナデルが真剣に見ている。

アベルはソワソワしている。

全てを見たナデルは大きくため息をついてアベルに言う。


「アベルよ。言いたいことが沢山ありすぎて私はまだ全てを受け止められんよ。嬲り殺そうとしたカナルのバカ息子王はこっちでそれなりの仕返しはするとして、イベルマをそしてバークの民を守ってくれてありがとう。でも、アベル。絶対に忘れてはいけないのは、たとえどんなに悪人であっても命は我々と同じ大切な命だ。アベル自身は誰1人殺してないかも知れないが、聖教会の件はアルベルト様がやったこととはいえ、何人もの人の命を奪う重さをその歳であってもちゃんと理解しなさい。強い力を使うだけならその辺の悪党と同じだと知りなさい。まぁ今は難しいことは置いといてオロチやヴァンパイア相手によく頑張ったな。黒龍殿もここまでアベルを育ててくれてありがとう。」


黒龍は黙って軽くナデルに会釈する。

アベルは褒められるとは思ってなかったのでキョトンとしてナデルに答える。


「はい。父上。」


ナデルが大きく頷いている。

ナデルは続けて机の上のバエルとプルソンに感謝を伝える。


「バエル殿、ブルソンくん。アベルやイベルマを守ってくれて本当にありがとう。

これからも多分、多くの事件ばかり起こすアベルをよろしくお願いします。」


そういうとナデルは大きく頭を下げた。

それを見たバエルがナデルに答える。


「ナデル殿、俺やプルソンはアベルの親友だからなんの問題もない。今のままで十分楽しいしな。それよりもあんたも・・・相当ヤバいな。大賢者やアルベルトと同じ雰囲気がするぜ。あんたとイベルマから異常なアベルが生まれたのは今理解できたぜ。」


続けてプルソンがナデルに話しかける。


「お初にお目にかかります。私はプルソンと申します。ピアスの中でずっとアベル君の近くにおります悪魔です。私もアベル君と一緒にいると楽しいのでなんの問題もありません。今後ともよろしくおねがいします。」


悪魔たちの挨拶が終わるとアベルが思い出したようにナデルに

龍の宝物庫からアンブラを出して見せる。

ナデルは驚いて声を上げる。


「おいおい、これは国宝アンブラじゃないか! アベルこの魔導銃どうしたんだ?」


アベルが申し訳なさそうにナデルに小さな声で答える。


「・・・ガナル様に・・・もらいました。」


ナデルがガナルの顔を何をしてるんだこの親父はと言う目でじっと見ている。

萎縮するアベルに続けてガナルが助け舟を出す。


「何か問題あるか? ワシが独断でアベルにあげたんじゃ。」


ナデルがなお驚きを隠せないでいる。

ナデルがガナルに注意する。


「おいおいガナル。ワシがあげたんじゃじゃないだろ。何笑ってるんだよ。ガナルもラーシャもあまりアベルを甘やかさないでくださいね。国宝だるこの銃は!!! 」


ナデルの勢いにガナルが驚いて平然と答える。


「ワシはなにもアベルを甘やかしておらんよ。こんな誰もまともに使えん武器を作った本人に1000年ぶりにつき返しただけじゃ。」


ナデルが小さく溜息をついてアベルに向かって諭すように言う。


「アベル。これだけはしっかり言っておくが、あの訳のわからん魔法と同じで強い力を使うと言うことは大きな責任が生じることを忘れるなよ。それにその銃はナジーバの国宝だからな。」


アベルは元気よく答える。


「はい、僕はこの魔導銃が国宝とは知りませんでした。でも強い力のことは夢の中でアルベルトさんにも同じこと言われましたので理解しているつもりです。」


ナデルはそれを聞いて目を瞑って腕を組んでらアベルに答える。


「夢の中・・・アルベルト様もか・・・わかっているならいいが・・・」


アベルは話を変えたくてナデルに質問する。


「それより、つかぬ事を聞きますが、父上は、本当にあのヴァンパイアを1人で倒せるのですか? 僕が戦闘になった時、綺麗に真っ二つにしても復活されてプルソンやバエルやハンやオールドがいないと僕は完全に死んでました。」


ナデルはアベルの言葉に優しく答える。


「アベル。私は自分の強さを自慢するのは好きじゃ無いんだけれども、私が今のアベルより弱いと思うのかい? 人を見た目で判断してはいけないよ。まぁいずれわかると思うが、アベルよ。これはみんなに技を見せ合うための格闘競技じゃないんだから、相手が何も出来ないまま数秒で終わらせるよ。」


アベルが正直にナデルに答える。


「はい、わかりました。僕は別に父上が弱いとは思っていませんが、ラルクもロメロもハンナも父上が漆黒の旅団で1番強いと日頃から言っているので知っているつもりですが、僕はいつも机に座っている父上しか見た事がなくて・・・」


ガナルが豪快に笑いながらナデルに言う。


「ガハハハ、そらそうなるわな。ナデルはもうちょっと子供に自分の姿をちゃんと見せた方が良いのう。」


ナデルはジト目でガナルを見つめて冷たく答える。


「立派なバカ王を育てあげたガナルには子育て論は言われたくない。」


ううっとガナルが言葉に詰まる。

その空気を読んで良妻のラーシャが話を変える。


「ところで一週間後のアルバニの戴冠式には誰が行くのですか?」


ガナルがラーシャに続けて話す。


「ワシとラーシャは正式にギルメサイアの後継人としてぎるメサイアを連れて無理矢理に参加するつもりじゃ。ナデルはヴァンパイア・クイーンとヴァンパイアどもの相手をする為に参加じゃ。あいつらに勝てるのはナデルしかおらんでな。」


ラーシャがイベルマに質問する。


「姉様はどうされますの?」


イベルマは少し考えてから答える。


「私は行っても何も役に立たないからアベルと一緒にここで留守番をしていますわ。」


それを聞いた行く気に満々に勝手になっていたアベルが慌ててイベルマに不平を言う。


「えええっ、僕は行きたいんですけど・・・」


イベルマはアベルにキッパリと答える。


「ダメです。子供の遊びでは無いんですよ。」


ガナルがアベルの顔を見てからイベルマに提案する。


「まぁ、今後の勉強の為、関わったんだからベルクとアベルは連れて行って最後まで見せた方がいいんじゃないか? イベルマ。」


イベルマは一理あると考えて、アベルだけでなくベルクも行くならと

渋々納得してガナルに答える。


「私にはなんのこれが勉強になるのかはわかりませんが、子供達が行くなら私も行きますわ。」


ガナルはイベルマに諭すように言う。


「子供たちはほっといても自分たちでいろんなものを見てそれぞれ学ぶ。そして成長する。そんなもんじゃ。イベルマ。」


イベルマは冷たい態度でガナルに答える。


「子供を平気で殺そうとした立派なバカ王を育てたガナルからは子育て論は聞きたくありませんわ。」


ガナルはラーシャに救い求めながら答える。


「夫婦揃って厳しいのう。」


応接室は束の間の笑顔で包まれた。

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