第140話 王宮散策


大賢者パブロフと星の聖女ダリアスは簡単に潜入した王宮の中を

不可視と気配隠蔽でゆっくりと散策していた。


そんなに大きな城ではないが何箇所か

強い結界で普通では入ることができない場所があった。


そのうちのひとつの通路の厳重な結界の前で2人は立ち止まった。

ダリアスがパブロフに質問する。


「パブロフよ。この結界の先がかなり怪しいのう。ワシらの知りたいことはこの先かもしれんのう。」


パブロフは小さく頷いて答える。


「ダリアスよ。こんな結界は稚拙で子供騙しですよ。」


パブロフは唇に左人差し指を当てて結界に向けて軽くフッと息を吹いた。

目の前の結界が一瞬揺れてまた元に戻った。


「さぁ、これでこの結界は見た目だけでもう使い物になりませんよ。」


ダリアスは笑いながらパブロフに言う。


「便利なインチキ魔法じゃな。ククク。」


そしてそのまま結界の先に歩いて入っていくパブロフとダリアス。

しばらく廊下を歩いていると正面に地下に降りる階段が見えてきた。

大賢者は周りの匂いを嗅ぎながらダリアスに言う。


「王宮に入ってからずっと戦場で嗅いだような大量の人の血の匂いがしているのだが。」


ダリアスも頷いてパブロフに答える。


「そうじやな。なにか生々しい血の匂いがするのう。」


すると2人は薄暗いホールのような場所に到着した。

広い空間に水の音がするが暗くてよくわからない。


『照明』


ダリアスが照明魔法を唱えると目の前には素晴らしい大理石の彫刻に囲まれた

大きな風呂場があった。

しかしその浴槽に張られているのはお湯ではなく真っ赤な人間の血だった。


周りを確認して2人は隠蔽解いて呆然と風呂を見つめている。

ダリアスがハンカチで鼻をつまみながらパブロフに言う。


「生臭いのう。お前さんの言うように夏の戦場みたいな匂いがしとるぞ。それにしても悪趣味な風呂じゃのう。こんな風呂だとワシなら落ち着いて入ってられんわ。こんな風呂を作るとなるとやはり第二王妃と第二王姫はヴァンパイアのようじゃのう。」


パブロフは無詠唱で自分にクリーンをかけながらダリアスに答える。


「ええ、そのようですな。本当に・・凄いシステムですね。どこからかわかりませんが、別の場所で殺された死体の血が温められてこの浴槽に自動的に集められるシステムになってますね。」


ダリアスは明らかに嫌悪感を抱きながら言う。


「多分・・・この浴槽の大量の血は前々から噂になっておったこの国で攫われた少女たちの血じゃろう。そう考えると行方不明もヴァンパイアの仕業みたいじゃな。」


パブロフも頷きながら血の浴槽を記録魔石に記録している。

そしてダリアスに答える。


「ええ、逆に人間でこんなことができる者がいるとすればもっと恐ろしいですよ。しかし、大量の血ですね。一体何人殺せばこんなに血を集められるのでしょうか。」


ダリアスはまだハンカチで鼻を抑えながら答える。


「この量だと100人ぐらいでは足りんな。悍ましいのう。ワシは今。この場所を破壊したい衝動に駆られておるわ。」


パブロフはダリアスの言葉に少し驚きながら微笑んで答える。


「私もですが、ダリアスよそんなに熱くならずに、ここは我慢して今はこのままにしておきましょう。ヴァンパイア相手だとちゃんと対策を考えてからでないと勝ち目はありませんからね。」


ダリアスは血の風呂を見つめて黙っている。

パブロフはお構いなく言葉を続ける。


「さぁ、ここの姿は記録しましたので剣王の部屋へ行きましょう。」


考え事をしていたダリアスが正気に戻って答える。


「そうじゃな。」


2人はまた姿を隠蔽して移動し始めた。


途中廊下をバタバタと行き来する警備兵とすれ違ったがバレることはなかった。

長い廊下を歩いて階段を2階に上がるとそこは一階よりも薄暗く

廊下の向こうに豪華な扉が見えた。


階段を上がるとダリアスがパブロフに言う。


「正面のあの部屋じゃな。」


最初にパブロフは不可視なのを忘れてダリアスの言葉に頷いたが気がついて言葉で答える。


「そのようですね。剣王の手記か何かが残っていると良いのですがね。」


ダリアスも不可視なのを忘れて頷いたが慌てて言葉で言い直す。


「剣王もバカじゃ無いからのう。何かしら身の回りの違和感を感じていたはずじゃ。」


ドアの前まで来たパブロフが周りを観察しながらダリアスに答える。


「何か書き残していれば良いのですけどね。」


ドアの前で2人は不可視を解除した。


ダリアスが剣王の寝室のドアノブを触ろうとした時に

大賢者がダリアスの腕を掴んで止める。


「ダリアスよ。ちょっと待って、剣王の寝室の扉が呪いで封印してある。」


パブロフが右人差し指を唇に当てて小さな声で素早く呟く


『浄化』『封印解除』『解錠』『隠蔽工作』


「さあ、ダリアス。これで扉に触っても良いですよ。」


「一家に一台大賢者が欲しいぐらいの便利な奴じゃな。」


と微笑みながらダリアスは扉を開けた。


『ガチャ』


扉を開けると少し埃っぽい匂いはしたが部屋は綺麗に整理されていた。

大きなベットと大きな本棚と小さな書斎机が置いてある飾り気のないシンプルな部屋だった。


部屋を見回してダリアスが呟く。


「なんと質素な部屋じゃ。剣王はいい王だったようじゃな。」


パブロフも部屋の隅々をじっくりと見ながら答える。


「そうみたいですね。」


と言いながらベッド周りと書斎机の周りをダリアスが見ている。

大賢者は扉の前に立って魔道具の片眼鏡に魔力を通して部屋全体を見つめている。

そしてパブロフは本棚に何かを見つける。


「ダリアス、この本棚に仕掛けがありますな。」


と言って1番右の本をグイッと押し込むと

本棚か人1人通れるぐらい右に動いて秘密の入り口が現れる。


秘密の部屋の中には小さな机がありその上に一冊の日記帳が置いてあった


その机の正面には浄化された聖銀の剣が飾ってあり

ギルメサイア宛の手紙も置かれていた。


パブロフが隣にいるダリアスに言う。


「ありましたな。」


ダリアスは手短に答える。


「読むのはあとじゃな。剣と手紙も持っていくぞ。棚は戻しておこう。」


本棚を元の状態にしてから転移場所を定めようとしたダリアスが

嬉しそうにパブロフに言う。


「んん、あやつらもう仕事は終わったのかのう。アベルたちがもう待っておるわ。」


パブロフも嬉しそうに答える。


「アルベルトいや、アベルのやつ子供のくせに我らのことを心配していますな。」


ダリアスも笑顔で応える。


「可愛いやつよのう。500年早いわ。フフフ。」


『転移』


そういうと2人の姿が剣王の寝室から消えていった。

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