第139話 記録魔石鑑賞会2
聖世紀1211年夏 王都 ガナル邸客間
ガナルが地下牢の異変に気がつく。
「今度はなんだ。見ろよ。地下牢の石畳の血がシルビアの足下に全部吸い寄せられていくぞ。」
その床の血を全て吸い上げたシルビアはヴァンパイア本来の姿となる。
シルビアがシルビアの変わり果てた姿に驚いている。
「あら、あの子あんな姿になっちゃったわね。」
ガナルも初めてみるヴァンパイアの姿に驚いている。
「あれがヴァンパイアの本当の姿なのか・・・」
ラーシャもガナルと同じように驚いている。
「私も文献以外では初めて見ましたわ。」
イベルマがギルメサイヤの肩を抱きながら優しく言う。
「大丈夫よ。でもやはり、あなたの義妹さんヴァンパイアだったのね。残念ね。」
イベルマはガナルに言葉を続ける。
「昔の物語では、人間からヴァンパイアになった者はあんな変身できないって言われているけど、あんな姿になれるってことは生まれた時からのヴァンパイアなのね。」
ラーシャがアベルを心配そうに見ている。
「攻撃が素早いわね。」
ガナルが嬉しそうに感心している。
「アベルもよくあんな攻撃を全部かわしておるな。普通の五歳児なら死んでおるぞ。」
ベルクも驚きを隠せずに
「あんな動き大人の冒険者でも無理ですよ。」
イベルマがじっと記録画像を見つめながら答える。
「アベルの初動が早いわね。あれは多分、プルソンが攻撃を予知してアベルに教えているんじゃないかしらね。」
ラーシャがまだアベルを心配そうに見ている。
「あのヴァンパイアかなり強いわね。今度はアベルちゃんの魔法を簡単に相殺してるわ。」
ガナルがアベルの動きに気がつく。
「うむ・・・アベルは戦いながら初めて戦闘するヴァンパイアを観察しておるな。」
ベルクが不思議そうにガナルに聞く。
「ガナル様、アベルが観察しているとなぜ分かるのですか?」
ガナルはベルクに優しく教えるように説明する。
「ほら、アベルはまた同じ魔法攻撃をするぞ。アベルは同じ攻撃をしてヴァンパイアがどうやってアベルの攻撃を感じているのか耳なのか目なのかそれともまた別の感覚なのかを確認していおるな。そしてアンブラで確実に仕留める段取りをしておるわ。」
イベルマもガナルの話に感心している。
「さすがガナルね。昔から戦闘の流れを読むのは得意だったからね。そうなのね。それでアベルは防がれるのをわかりながら同じ魔法で2回も攻撃したのね。」
ガナルが頷いている。
そして話を続ける。
「ほほう、バエルもプルソンもアベルもヴァンパイアがあの赤い3つの目で攻撃を確認していると気付きおったわ。」
ラーシャはハンカチを握りしめながらまだアベルを心配そうに見て声をあげる。
「バエルちゃんがアベルちゃんの前に立ったわ。」
イベルマがアベルの動きに気がつく。
「アベルがハンとオールドを自分の横に配置したみたいね。何を仕掛けるのかしら。」
ベルクももちろん何が起こるかは予測できないので
戦闘にはあまり関係の無い自分のわかることだけを口走る。
「アベルがハンから記録魔石を受け取って今はアベルが記録しているね。」
イベルマも心配そうに見つめながら呟く。
「アベル・・・何をするのかしら。」
その時、アベルの前にいたバエルが魔法を放つ。
するとあたり一面が真っ白になる。
イベルマはバエルの魔法を分析して解説する。
「バエル得意の悪魔魔法・雷ね。かなり威力を抑えていると言うことはダメージより目眩しね。」
ラーシャが手に汗握りながら興奮して喋っている。
「オールドちゃんとハンちゃんが、ヴァンパイア前まで走って目の前をクロスして横切りながら攻撃して逃げるわね。これも攻撃ではなくて目眩しなのね。」
ガナルが嬉しそうに言う。
「そうだ。アベルがヴァンパイアに向かって、アンブラを同時に4発撃ちよったわ。」
ラーシャが感心している。
「アベルちゃんは二段の目眩しで銀の聖水弾を確実に当てたかったみたいね。凄いわ、まだお子ちゃまなのにね。」
ベルクもあっけに取られている。
「アベルは・・・凄いね。」
ガナルが首を横に振りながら
「アベルの奴・・・まだまだ修行が足りんわ。1発後ろの壁に外しよったわ。」
イベルマはガナルを軽く睨みながら言う。
「アベルは上出来ですよ。」
ベルクが再生できないシルビアを見て叫ぶ。
「ほら見て、シルビアって子がスライムみたいになって元の形に再生出来ずにもがいているよ。」
ラーシャがイベルマに抱きついて言う。
「銀の弾丸と聖なる水ってヴァンパイアに効果があるのが分かったわね。」
イベルマもラーシャに答える。
「倒せなかったけど、アベルはうまく逃げたわね。」
ずっと力の入っていたベルクも脱力して床に座り込みイベルマに言う。
「よかったー。アベルはあの状況を本当にうまく切り抜けましたね。」
イベルマもほっとして笑みを浮かべながら
「ええそうね。ほとんどはプルソンやバエルのおかげだけど、王宮に突入する前に大賢者様や星の聖女様あたりからヴァンパイアの情報を少し入れていたかもしれないわね。」
ラーシャもやっとリラックスして笑顔に戻った。
「アベルちゃん。よく頑張ったと抱きしめてあげないとね。」
ガナルが真剣な顔で考えながら話し始める。
「どっちにしろ、しばらく原型に戻れないシルビアと呪返しで具合が悪いはずのヴァンパイア・クィーンの第二王妃アレシアがいつ戴冠式を行うかがポイントだな。ワシらはそれまでにヴァンパイアに完全に勝つ算段を考えないとな。」
イベルマも少し考えてからギルメサイアの頭を優しく撫でて
ゆっくりと話し始める。
「戴冠式前日まで、ギルメサイアはここで長い間の呪いによる体の損傷を休めながらベルクと一緒に生活しなさい。身の回りのことはメイドたちがやってくれるから心配はしなくていいわよ。そして勉強と魔法に関してはここにいるベルクに教えてもらいなさい。少しでも自衛できるように教えてもらいなさい。でもベルクは天才だけど剣術だけはからっきしダメだからね。」
ベルクは事実を言われて少し拗ねながらイベルマに答える。
「お言葉を返す様ですが、お母様。騎士団の息子や冒険者を目指す子供以外剣術なんて今の時代誰も訓練なんてしませんよ。今は学校の体育の時間に少し習うぐらいですよ。ユミルバの母上の学校みたいに6年間もみっちり最低限のスキルを授かるまで子供にやらす都市なんて今の時代どこにもございませんからね。」
みんなベルクの言葉に笑っている。
ギルメサイアはベルクの顔を見つめて感謝の言葉を告げる。
「ありがとうございます。ベルク様、何も出来ない私をよろしくお願いします。」
ギルメサイアに見つめられたベルクは顔を真っ赤にして答える。
ベルクはまともにギルメサイアの顔を見れていない。
「いえいえ、姫様。ベルク様はやめてください。お姫様が地方貴族の息子に様は入りません。」
2人の恋の予感にイベルマとラーシャがニコニコしている。
やはりガナルは何もわかっていない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます