第129話 呪い返し

聖世紀1211年夏 アルバニ王国 王宮謁見の間


まだ王宮の謁見の間は明るく第二王姫シルビアと第二王妃アレシアがイライラしながら

ギルメサイヤ死去の吉報をドラゴニュートたちが持って帰ってくるのを待っていた。


遅すぎるドラゴニュートにシルビアが玉座を叩きながらイライラしている。


「ああああ、まだかしら、あのドラゴニュートどもは本当に使えないわね。地下牢の人質がどうなってもいいのかしらね。まぁどっちにしてもギルメサイヤさえ死んだらあのトカゲどもを全員犯人にして処刑すればいいだけよね。」


「ぎゃああああああ!!!!!」


その時、アレシアが急に叫び声を鵜上げて喉を掻きむしり白目になり床に倒れた。

そして左手で喉を押さえながらゆっくりと四つん這いの体勢になったが

その場で大量の黒い血を吐いた。びっくりしたシルビアがアレシアに駆け寄る。


「ああああ、お母様どうなされました!!!」


アレシアは白眼で天井を睨みながら黒い血の滴る口から弱々しく言葉を発した。


「おのれ・・・誰かが小娘の呪いを解除して呪い返しなんてことをしてきやがったよ。こここっこ・・・こんな事をできるのは大賢者か星の聖女ダリアスか・・・ゲホッ」


そう言いながらもまた大量の黒い血を床に吐いた。

シルビアが涙目で必死にアレシアの背中をさすりながらアレシアに声をかける。


「お母様しっかりしてください。」


息を荒くしながらアレシアが言う。


「シルビアよ。私は大丈夫だよ。少し静かにしてればこんな呪い返しはなんてことはない。それより、あのドラゴニュートたちが私たちを裏切って地下牢にいる人質を取り返しにくるかもしれないからちゃんと警戒するんだよ。」


シルビアが目に涙を溜めながらアレシアに力強く言う。


「はいお母様、私も最強のヴァンパイア・クィーンの娘ですから私自ら地下牢で待ち構えて、裏切ったあのトカゲどもを皆殺しにしてやりますわ。」


ゆっくりと立ち上がったアレシアが、シルビアに心配させまいと作った笑顔で

玉座に向かって歩きながら言う。


「そうかい、悪いが私は呪い返しでしばらく動けないから少しの間ここで静かにしているよ。・・・んんんっ嗚呼、国境の兵士の護符が外されたみたいだね。一体何が起きているんだい今夜は。」


アレシアはなんとか玉座に座り、何もなかったように険しい顔で大きな声で衛兵を呼んだ。


「衛兵!!」


1人の身体の大きな近衛隊長がいつの間にか玉座の前にひざまづいていた。


「ネロか・・・国境の警備兵の魅了が解かれたみたいだ。何人か連れて国境砦の様子を見にきてくれないか。お前はヴァンパイアだが油断はするなよ。何があるかわからんから最大限に警戒しながらな。」


シルビアが心配そうにアレシアを見つめている。ネロは短く返事をする。


「はっ、ご命令通りに」


するとネロは明らかに人ではない素早い動きで謁見の間から走り去った。

その様子を見ていたシルビアが険しい顔のアレシアに声をかける。


「では、お母様はあまり無理をなさらぬようにここでお静かにしていらしてください。私は地下牢でトカゲを待ち伏せしていますわ。」


先ほどの険しい顔とは一変してシルビアには優しい笑顔で言う。


「気をつけるんだよ。大賢者や星の聖女なら今は戦わずにすぐ逃げてくるのだよ。」


シルビアもキリッとして答える。


「わかりました。お母様。私は剣王の血と偉大なるお母様の血を引き継いだ高位のヴァンパイア剣士ですわよ。どんな賊でも私のこのブラッドソードで跡形もなく切り刻んでやりますわ。」


アレシアは玉座であまりの呪いの苦しさに目を閉じながらシルビアに答える。


「頼もしい女王だわ。頼みましたよ。私もしばらくすれば動けますからね。」


シルビアは心配そうに玉座に座るアレシアを振り返りながら地下牢へと

ゆっくり歩いて向かった。

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