第87話 ギルド本部へ

聖世紀1211年夏 王都 冒険者ギルド アベル5歳


朝食を終えると玄関にガナルの馬車がスタンバイしていた。


今回はガナルとアベルの2人で出かける為

黒龍、ドラゴム兄妹は御留守番だった。

なぜかバエルは当たり前のようにアベルの肩に乗っていた。


出発時に玄関まで見送りにきたイベルマがアベルに


「ワクワクして出かけるのはいいけど、2人ともくれぐれも街で問題を起こさないでね。」


ガナルがイベルマに顔を顰めて答える。


「イベルマ、なぜワシも問題を起こす側に入っているのかね。」


アベルがニヤニヤしながら


「大丈夫だよ。母上。あのね黒龍先生もドラゴム兄妹も問題起こしちゃダメだよ。大人しくお留守番していなさいね。」


アベルがいつも自分がイベルマから言われていることをイタズラっぽく言う。

その様子にみんなが笑っている。


そしてガナルとアベルが馬車に乗り込むと馬車は颯爽と走り出した。


ガナルの馬車は普通の馬車でジルードの馬車のように目立たないの 

誰もふり向かいのがアベルにはとても新鮮だった。


ガナル邸のある貴族街から20分ほど走ると王都の商業区に入る。

メイン通りの起点となる中央広場の一角に大きく立派な建物があった。

ガナルの馬車はその1番 大きな建物の前で停車した。


ガナルとアベルが馬車から降りると建物の中から

可愛い猫獣人族の女性ギルド職員がガナルを迎えに外まで来ていた。


猫獣人のギルド職員はガナルに丁寧に挨拶をしてから

アベルの頭を優しく撫でて何故か当たり前のようにアベルと手を繋いだ。


そしてアベルの肩に乗る仔猫のバエルがとても気になるようでチラチラ見ている。

猫獣人のギルド職員に手を引かれたままのアベルとその後ろを堂々と歩くガナルが

開けたままの大きな鉄扉を通って大きな建物の中に入ると中には

まだ午前中なので依頼を探しに来た冒険者たちで混雑していた。


ギルドはカフェを併設しているので、そのカフェの各テーブルで

それぞれのバーティーが談笑したり、作戦会議をしたり、口喧嘩したり

報酬を分け合ったりしていた。


すれ違う冒険者たちはガナルを見ると一礼して道を開ける。

ガナルは道を開けた冒険者たちに照れくさそうに言う


「おいおい、わしは引退したただのジジイじゃ。そんな畏まらんでくれよ。」


猫獣人ギルドが振り向いてすかさず答える。


「ガナル様、そうはいきませんよ。元SSランクの冒険者で元国王様なんですからね。」


ガナルも笑いながら答える。


「全部元じゃよ。昔の話しだ。今は普通のジジイだ。」


アベルはギルド職員に手をひかれながら

初めて見る冒険者ギルドにキラキラした目で鼻息が荒い。

その様子を見たガナルがアベルに


「アベル。ここが冒険者ギルドだ。わしやお前の父さんや母さんが若い頃にお世話になった場所だ。どうだ活気があるだろ。びっくりしたか?」


アベルは興奮しながら答える。


「はい、びっくりしました。」


猫獣人のギルド職員が振り返りガナルに伝える。


「2階でギルド統括マスターがお待ちですのでそのまま私について来てくださいね。」


そう言いながら奥の階段に2人を丁寧に案内した。

階段を登ると2階に豪華なドアがあり、その前で一旦止まってノックした。


『コンコン』「失礼します。マスターお連れしました。」


猫獣人のギルド職員がドアの前で言うとドアの奥から男の声で


「ご苦労様、入ってくれたまえ。」


猫獣人のギルド職員がドアを開くとそこには綺麗に整えられた書斎があった。

部屋は少し古い作りの家具ばかりだがどれも重厚で綺麗に掃除されていた。

その書斎机に口髭を蓄えた筋肉隆々の眼光鋭い白髪の老人が座っていた。


「ラルク・・・」


アベルは思わず声を上げた。


その老人があまりにもラルクに似ていたから。

開襟の白いシャツにスリムな黒いパンツ腰にはレイピアを装備している。

どう見ても金持ちの貴族になったラルクにしか見えない。

ガナルが驚くアベルを見て笑いながら


「アベル、彼はラルクの兄だよ。」


アベルは驚いた顔のまま固まっている。

ドアで立っていた猫獣人のギルド職員にギルドマスターが指示する。


「ありがとう。君は仕事に戻りたまえ」


ドアが閉まり三人だけになるとギルドマスターが

ガナルとアベルをソファーへ座るように促す。

それまで鋭い眼光だったギルドマスターが満面の笑みで


「久しぶりだな。ガナル。少し見ぬ間に孫が出来ておったか?」


ガナルも満面の笑みで答える。


「この子が本当の孫なら嬉しいが、残念ながらこの子はナデルとイベルマの子だよ。」


ガナルがアベルの頭を優しく撫でながら答える。

アベルがちゃんと立ち上がってギルドマスターに綺麗に一礼して


「初めまして、ユミルバ領主ナデル・ジルード公爵家次男アベル・ジルードです。いつも弟のラルクさんにお世話になってます。」


ギルドマスターはアベルの丁寧な挨拶にびっくりして


「その歳でちゃんと挨拶できるのか、さすが光の聖女様の息子だな。そして、いつもうちの変わり者の弟と遊んでくれてありがとうな。君がアベル君か・・・弟が君に暗黒騎士を相伝したいといつも言ってるよ。」


アベルが嬉しそうにギルドマスターに言う。


「マスターあのね。ラルクは僕の憧れなんです。」


ギルドマスターがわざとらしくびっくりして


「あんな奴に憧れちゃダメだぞ。アベル。」


というとガナルとギルドマスターが大笑いしている。

笑い終わるとギルドマスターが自己紹介する。


「私は全冒険者ギルド統括マスターのラキログだ。君のよく知ってるラルクの実兄だよ。漆黒の旅団のメンバーとは昔からの友達だ。」


ガナルが付け足すように


「ラキログは我々のライバルパーティーだった赤い牙のリーダーだったんだ。」


ラキログがやめてくれと言わんぱかりに


「おいおい、ライバルなんて言うなよ。私たちはお前らみたいにクレイジーなパーテイーではなかったからな。」


ガナルがアベルに向かっておどけて首をすくめている。

ラキログが真剣な顔になってガナルに質問する。


「それで、ガナルよ。今日は子連れで何の用事だ?」


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