第85話 悪魔の作戦

聖世紀1211年夏 王都 カナル邸 アベル5歳


その言葉に和やかな雰囲気が一変して部屋にいた一同が緊張する。

ガナルがプルソンに質問する。


「私は元国王のガナルだが、プルソン殿、詳しく聴きたいのだが、明日の謁見は何がどのようにヤバいのですか?」


プルソンが落ち着いてわかりやすく説明する。


「元国王ってことは貴方は現国王の親父さんってことですね。あのね少し言いにくいんだけど、あなたのバカ息子は、明日の謁見でアベルに魔なしだと難癖をつけて教育ということで、筋肉バカの騎士団長と戦わせて大勢の貴族の前で痛めつけて上手く殺すつもりですよ。」


ガナルが驚いてイベルマに謝る。


「そんな事を考えていたのかあのバカは・・・イベルマ、本当に申し訳ない。」


プルソンが言葉を続ける。


「あと、この作戦考えたの第一王妃な。そしてその時に謁見の間にいる貴族は全員がジルード家を逆恨みしているからジルード家にとっては完全に敵地な訳です。」


イベルマが怒っている。


「何だか私久しぶりに本当に腹が立ってきましたわ。至急ナデルに連絡しますわ。そして私は今から王城に大魔法でもぶち込もうかしらね。」


イベルマの右掌から光の鳩が生まれてそのまま窓の外に飛んでいった。

ラーシャは怒っているイベルマに軽く注意する。


「あら、お姉様。そんなことしたらジルード家は国家反逆罪で国王の思う壺ですわ。」


今まで黙っていた黒龍が提案する。


「それなら黒龍の私がドラゴン引き連れて王都を破壊しますか?ジルード家には迷惑かけませんし。」


ドラゴム兄妹もここぞとばかりに


「いやいや、黒龍様の手を煩わせるわけにはいきません。我らドラゴム兄妹が命に変えましてもアベル様を守ります。そして今から王城に向かい近衛兵を皆殺しにしてドラゴニュートの力を見せつけてやりますよ。」


みんなの意見を聞いていたバエルが咳払いをしてからしゃがれた声で言う。


「お前らじゃ時間かかってしょうがねえな。そんなの簡単だ。この街ごと城も貴族街も全部無くしたら良いんだろ。俺がアベル程じゃねえが特大の悪魔魔法でここを更地にしてやるぜ。」


黙って顎髭を触っていたガナルが咳払いをしてからみんなに言う。


「いや、ワシがカリムの首を獲ろう。こうなったのもワシにも責任がある。」


なぜか全員がまた口々に王都を破壊する事を話し出す。

アベルは黙って考えているが考えがまとまらない。

口々に話している大人たちにプルソンが注意する。


「おいそこの大人の皆さん。とにかく皆さん落ち着きなさい。こんなこと俺とバエル様がいればどんな最悪な状況でもアベル君が死ぬ訳ありませんよ。とにかく落ち着いてください。」


イベルマがプルソンに質問する。


「それは何かいい案があるってことなの?」


プルソンが落ち着いて喋り始める。


「大丈夫。1人も殺さずに切り抜けられます。でもそれには、バエル様の特殊な悪魔魔法が必要なんです。私の作戦通りにすれば誰も殺さず殺されずに終わりますよ。」


イベルマがアベルの肩にいるバエルに真剣な表情でお願いする。


「バエルさんお願いするわ。」


ラーシャもバレルに笑顔で


「バエルちゃんお願いね。」


イベルマとラー者に頼まれたバエルが完全にドヤ顔モードに入る。

そしてわざとらしく大きく咳払いをしてからわざとらしくプルソンに質問する。


「プルソン君、アベル君を助けるために私の絶大な力が必要なのかね?」


バエルの顎がかなり上がっている。ドヤ顔が見ていられないほど酷い。

でも小さな黒猫だから何しても可愛い。

プルソンはそんなバエルにお構いなしにいつものトーンで答える。


「はい、バエル様がこの作戦の中心であります。あなた無しでは私たちは何もできません。」


バエルの扱いを熟知しているプルソンが本当に怖い。

それに完全に乗せられているバエルがチョロいのか?

気分の乗っているバエルがアベルの肩で尻尾をバシバシとアベルの顔に当てている。


「そうかいそうかい。よし、アベル君は友達、いや親友だからな。この私が働こうではないか。」


プルソンがバエルに大袈裟に言う。


「ありがとうございます。バエル様。」


上機嫌のバエルが答える。


「まぁ、プルソン君の500年ぶりの復活の祝儀としてこの僕が特別に力を貸すよ。まぁそれに同じアベル君の友達だからねぇ。おっと僕は君と違ってアベル君とは友達のもう一段階上の親友という関係だけどね。」


アベルはバエルを可愛いけど相変わらずめんどくさいと思った。

そして出会って二日で、いつから親友になったのかも疑問だった。


プルソンがアベルにだけ聞こえる魔力念話で


[そうだよ、アベル君。悪魔ってとってもめんどくさいんだよ。フフフ。]


[これは念話?]


[そうだ、アベルと俺は今魔力で繋がっているからな。これからはいつでも誰にもわからずに助言してやるぜ。それとアベルの感情も考えてる事もリンクしているから説明もいらないからな。]


[よろしくお願いします。]


[おまかせください。]


ガナルが心配そうにプルソンに聞く


「で、プルソン殿、そのバエル殿しかできない作戦とはどんなものなんですか?」


「それはな、まずはアベルが・・・」


作戦の全貌を事細かに話すプルソン

そして話はそのままアベルの神託とアルベルト・ラジアスの話となる。


もちろんアベルの禁呪魔法の記録魔石を見たプルソンは絶叫していた。

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