第84話 賢者のピアス
聖世紀1211年夏 王都 カナル邸 アベル5歳
ガナルが改めてみんなに言う。
「これはな、賢者のピアスと言って男は右耳につけて女は左耳につけて魔力を流すと状態異常の完全回避と相手の言葉の真偽と質問に対しての正解の答えを耳元で囁くという珍しい魔道具と言われているものなんだが、今まで誰も発動させた事はないんじゃ。物は試しだ。アベルよ、つけてみろ。いいよなイベルマ。」
イベルマはガナルに頷いて
「はい、この魔道具が動けば謁見でもアベルを守ってくれると思います。本当にありがとうね、ガナル。」
イベルマがガナルからピアスを受け取る。
イベルマがアベルに優しく今からすることを説明する。
「アベル、これはピアスなので耳たぶに小さな穴を開けて装着するものなの。少しチクっと痛いですよ。我慢できますか?」
アベルは一瞬緊張するがにこやかに答える。
「はい、母上。僕は男ですよ。我慢できますよ。」
ラーシャがアベルの隣に来て、優しくアベルの手を握っている。
なぜかバエルがアベルの肩に乗って尻尾でアベルの頬をバシバシしている。
「アベルちゃん。私がちゃんと手を握っててあげますからね。」
ドラゴム兄妹のクリシアが優しくアベルの頭を支える。
イベルマがアベルの右耳に細いニードルを当てヒールを唱えながら
ニードルを右耳たぶに貫通させる。
一瞬、ピクっとしたアベルだったが痛みはなかったみたいだった。
イベルマは耳たぶの開けた穴にピアスを装着させた。
「はい、アベル終わりましたよ。」
イベルマがアベルの頭をポンと叩く
「皆さん、ありがとうございます。」
アベルが周りな小さく頭を下げる。
ガナルがアベルに優しく言う。
「早速だがそのピアスに魔力を流してごらん。」
アベルが少し緊張して答える。
「はい、やってみます。」
アベルが目を瞑ってゆっくりと魔力を流し始める。
すると小さなピアスの赤い魔石がゆっくりと輝きはじめる。
バエルがその様子を見て
「あれ? この雰囲気・・・俺の知ってる奴か・・・このピアスに賢者じゃなくて俺の知ってる奴がいるみたいだぞ。」
「と言うことは高位の悪魔がピアスに宿っているってことなの?」
イベルマが心配そうにバエルに質問する。
「まだわからない・・・賢者ではないことは確かだぜ。」
そしてピアスの魔石が大きく光ってからまた元の光を失った魔石に戻る。
アベルが恐る恐るピアスに話しかける。
みんながアベルのピアスに注目している。
アベルが少し緊張しながらピアスに話しかける。
「あの・・・賢者様ですか? 僕はアベル・ジルードと言います。五歳です。」
しばらくすると美しい男性の声で返事が聞こえてくる。
「アベルとやら、残念ながら私は賢者ではない。私の名前はプルソンという悪魔だ。」
バエルがしゃがれた声で少し興奮して
「おいおいなんだよ。プルソンかよ。久しぶりだな俺だよバエルだ。」
ピアスの声は落ち着いて大きくため息をついて
「はぁ・・・久しぶりに目覚めてあまり聞きたくない声ですね。アベルとやら、私は500年もの間このピアスに封印されている悪魔です。波長の合う魔力をもらうとこうやって喋ることができるんです。それと魔力を大量にもらうと体も復活できるがそんなのこと出来るやつはこの世にはまだいないんですよ。で、なぜ? バエル様みたいな変わり者の悪魔の王がここにいるんですか?」
バエルがなぜかわからないが、プルソンに誇らしげに言う。
「プルソンよ。私がこのピアスの持ち主のアベルと親友だからだよ。」
プルソンが不思議そうに聞き返す。
「従魔じゃなくて親友?」
バエルは、ますます誇らしげにプルソンに言う。
「そう、アベルも五歳のくせに変わったやつでな、グリモワールから俺の封印を解きやがって親友になったんだよ。お前もアベルに封印解いてもらって声だけでも復活できたんだからアベルの友達になってやれよ。」
バエルの言葉にアベルが慌ててプルソンにお願いする。
「プルソンさん、僕はまだ子供ですがよろしくお願いします。」
プルソンは少し考えてから小さく咳払いをして
「そうですね。それもいいかもしれませんね。じゃあ私も得体の知れない悪魔のままはでいるのは嫌なので、自己紹介しておくとしましよう。名前はプルソン。私の特技は、失くしたものを発見したり隠されたものの在処を知り財宝なんかを発見する力も持つ者である。」
周りのみんなが口々に感心している声が聞こえる。
「それだけではありません。この世界の過去や現在や未来に関しての正しい知識を伝えることが出来ます。。さらにこの世の地上の隠された秘密や神学や創生について正しい答えを召喚主であるアベル君に助言として与えることができます。バエル様もアベル君に知識を与えることが出来るけど私の知識はバエル様には失礼ですがそれ以上の知識を与えることができます。だから賢者のピアスと呼ばれていましたが、本当は悪魔のピアスなんですよね。フフフ。まぁこんな私だけどアベル君は私を友達にしてくれるかね?」
アベル満面の笑みで
「はい、友達ですね。喜んでよろしくお願いします。」
バエルが先輩ヅラしてプルソンに言う。
「プルソンよ。後で教えてやるが、アベルは普通じゃねえから退屈しねえぜ。」
プルソンも笑いながら
「それは楽しみですね。バエル様。」
アベルの周りの大人たちは2人のやりとりを驚いて目を丸くしたまま
言葉が出なかった。結果的に良かったのでみんながほっとした。
バエルがその場にいるみんなに言う。
「プルソンの能力は賢者以上だから結果的に良かったな。10歳でアベルの魔力がちゃんと戻ったらプルソンを完全復活してやってくれアベル。」
プルソンもバエルに続いて喜んで
「よろしくお願いします。アベル君。」
急にバエルがしゃがれた声で顔をしかめながらアベルに
「でもな・・・こいつの容姿は本当にやばいからな・・・まず俺みたいに可愛くないから街中じゃ無理だぜ。」
プルソンもバエルに続けて
「バエル様みたいに何種類か容姿を変えられる悪魔は楽でいいですよね。」
誰も悪魔の姿など想像できないので首を傾げていると
バエルがみんなにプルソンの容姿を説明し始めた。
「あのなプルソンの姿は、この世界の獣人族みたいに獅子の頭にたくましい男の体を持っているんだ。そこまではいいんだ。そこまではな。やばいのは、その手にデカくて気持ち悪い毒青蛇をつかんでいて、凶暴な大きな熊にまたがっていつもニコニコ笑ってやがるんだ。そしてこいつが現れた時の変なラッパの音がうるさくてうるさくて近くにいると頭がおかしくなりそうなんだ。だからアベルよ、くれぐれもプルソンの封印を解くときは要注意だぞ。街中はダメだ。夜もダメだ。というか面倒だからやはりピアスのままにしとくか?アベル。」
プルソンがすかさずバエルに
「私も500年ぶりに美味しいものを食べたいですよ。」
そんなプルソンにアベルは笑顔で答える。
「あと5年待ってね。10歳になったら何とかするからね。ブルソンさん。」
ブルソンも少し笑いながらアベルに答える。
「プルソンでいいですよ。もうアベル君とは友達なんでね。まぁ私は今まで500年も眠ってたんですよ。5年なんて一瞬ですよ。」
プルソンが少し雰囲気を変えてアベルに質問する。
「これは重要な話なのですか、なぜ私を復活させたんですか?」
アベルが答える。
「僕は明日ね、王様に謁見するので僕を守るために役立つ魔道具として元国王様のガナル様からも賢者のピアスをいただきました。」
少し黙って考え込んだプルソンは、未来を全て見てきたようにアベルに忠告する。
『アベルよ、明日のその謁見は、かなりやばい景色しか見えない未来です。』
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