第83話 謁見準備

聖世紀1211年夏 王都 カナル邸 アベル5歳


ガナルが話題を変えるように喋り出す。


「今回の謁見はアベルの神託の儀報告に合わせた強い力を持つジルード家を貶めるために、かなり以前から仕込まれたものらしい。そのジルード攻撃の入り口として魔なしのアベルを多くの貴族の前で嘲笑いジルード家の時代はもう終わったとしたい愚かな息子国王カリムとその母ワシの第一夫人のドリスのあまりにも醜い計画だな。アベルよ。どうする? ここまできて何だがこの謁見を断ることもできるぞ。」


アベルはガナルに笑顔で


「大丈夫です。父上がよく「くだらない事を考えてそのくだらない事を実行する奴は、結局くだらない人生しか送れない。」と言っていますのでその大人たちのくだらない考えをしっかりと自分の目で見てきます。」


ラーシャも心配してアベルに


「アベルちゃん。貴族っていう人たちはいろいろ難癖をつけて、アベルちゃんが殺されちゃうかも知れないのよ?」


アベルはラーシャに天使のような笑顔で答える。


「ラーシャ様。僕が殺されるんですか?大丈夫です。それは絶対にありません。僕には黒龍、バエル、ハンがいます。逆にガナル様には悪いけど王様を含めてその場にいるジルードに敵対する貴族や騎士団の全員を返り討ちしてナジーバと言う国が無くなってしまうかもしれません。そうなったら本当にすいません。」


イベルマが小さくため息をついて


「そうね、そうなることも最悪のシナリオとしてあるわね。アベルは、できるだけ穏便にね。でもね、相手が教育が必要だとか言って騎士団長との決闘なんて持ち込んできたら関係なくぶっ飛ばしてもいいけどね。でも、あの魔法はまだダメよ。」


アベルも笑顔で


「わかっております。僕は魔なしで知られているのに魔法がバレるとややこしくて大変ですから。わからなく龍魔法を使います。」


ガナルがポンと膝を叩いて


「よし、それじゃあ謁見の練習をするぞ。あいつらはアベルに謁見の作法を教えずにいきなりたくさんの貴族の前に出して笑い物にする予定だろうからな。完璧にやってびっくりさせてやれ。」


アベルがペコリと頭をガナルに下げる。


「はい、おねかいします。」


アベルとガナルが謁見の作法を訓練している。

その横でバエルとドラゴム兄妹もアベルの真似をしている。


ラーシャはアベルのちょっとした動きに微笑んでずっと拍手している。

黒龍とイベルマは静かに紅茶を飲んでいる。


突然イベルマが黒龍に


「何だか私、とても腹が立ってきましたわ。」


黒龍がイベルマに聞き返す。


「イベルマ様どうなさいました?」


イベルマが怒りに満ちた顔で


「本来、王都に来たのはアベル5歳の神託の儀の報告でしょ。それなのになんで反ジルードのバカ息子とバカ第一王妃が王城で多くの反ジルード貴族の前でアベルをなぶりものにして、上手く王国騎士に殺されなくちゃならないのかしらね。あまりにも理不尽だわ。」


黒龍が真顔で答える。


「イベルマ様、いい王様もいればダメな王様もいますよ。ガナル様には悪いですがこの国王はダメですね。大丈夫です。リトルドラゴンは殺させやしませんよ。」


ラーシャも深刻な顔をしてイベルマに


「ええ姉様、最近国がダメになっていく雰囲気を強く感じますわ。だからね私たち近々ユミルバに引っ越そうかと思っているのよ。そういえば大賢者様も星の聖女様もいつかユミルバに引っ越そうかと以前言っておられましたわ。」


イベルマが笑顔でラーシャに


「それはいいわね。みんなすぐにでもユミルバに来なさい。今回の場合によってはユミルバはナジーバからの独立もありえますからね。」


アベルに作法を教えていたガナルが驚いてイベルマに


「おいおいイベルマ。あまりの物騒な話をしないでくれよ。わしらがユミルバでゆっくり過ごしたいのは本当だが、独立国家にするなんてまだ考えとらんぞ。」


ガナルが慌ててイベルマに言うが

イベルマはガナルにイタズラっぽく笑うが半分冗談半分本気なのが見えて怖い。


「じゃあユミルバ゜に帰ったら私があなたたちの素敵な屋敷を見繕って、来月あたりには引っ越せるように準備しておくわね。」


イベルマがそう言うとラーシャが手を叩いて喜んで


「それはありがたいわ。これで毎日アベルちゃんにも会えるわね。」


イベルマがラーシャに諭すように言う。


「ラーシャ、毎日アベルに会うと毎日問題だらけで本当にうんざりしますよ。」


アベルが口を尖らせて


「母上、それは心外です。」


イベルマはそんなアベルを無視して


「そうね、ユミルバにはまだ小さいアベルの弟のマルクもいるからラーシャも寂しくないわね。」


ガナルが改めてイベルマに


「しかし、龍王様の加護に龍のチカラ、賢者の石、アルベルト・ラジアスの生まれ変わり、悪魔の友達・・・まだ五年しか生きとらんのにアベルは本当に波瀾万丈な人生なんだな。まぁでもアベルの本当のことはナデルの言うように国には報告しないほうがええな。必ずアベルの力を悪用しよるからな。アルベルトの知識が戻ったらあのバカ王と王妃は城の地下牢にアベルを監禁して毎日金を作らされたり怪しい薬を作らされたりするかもしれんからな。」


そう言うと少し考えてからガナルがみんなに


「ちよっと大賢者様にも相談しておくか」


と言うとガナルは1枚の紙に羽ペンでサラサラと文章を書き始めてた。

書き上がると紙を器用に折って鳥の形にしていきわ吹きかけると

小さな白い鳩になり窓から外へ飛んで行った。

ナデルも使っていた通信魔法だ。


「そうだ、アベルよここに来る途中で倒した魔物はまだ持っておるか?」


アベルは元気良く答える。


「はい、持っています。」


ガナルがニコニコしながらアベルに


「明日午前中に王都の冒険者ギルド総本部にワシと行って解体してもらって換金するぞ。」


アベルは不思議そうにガナルに


「自分で解体はできますが、解体した方がいいですか?」


ガナルは驚いて


「アベルは解体なんてできるのか?」


アベルが当たり前のように


「ええ、黒龍先生に教えてもらって魔の森のフォレストウルフぐらいまでは、命の尊さを知るために自分でナイフを使って時間をかけて解体しています。大きい魔物は龍の宝物庫の中で解体や加工が全自動でできますから。」


ガナルもラーシャもドラゴム兄妹も驚いている。

ガナルが続ける。


「それはすごいのう。各素材に綺麗に分けておいてくれ。ついでに王都のギルドマスターにアベルを紹介してやろうと思ってな。王への謁見なんてどうせ午後からた。あいつらが朝から働くとは思えんからな、」


ラーシャの膝の上でくつろいでいるバエルがしゃがれた声で


「アベル、俺がお茶会の時に仕留めたキングバッファローとこないだのフォレストウルフも渡すから換金してもらって王都で一番美味いお菓子を買おうぜ。」


アベルが満面ね笑顔で


「それじゃぁ明日の夜はみんなで、キングバファローの肉で大焼肉大会だね。」


ガナルが真剣な顔をしてアベルに


「無事に謁見が終わったらな。」


イベルマも真剣な顔をしてアベルに


「アベルが生きて帰って来れたらね。」


アベルは微笑みながらイベルマに


「大袈裟ですよ。母上。」


イベルマがすこくし怖い顔になりアベルを見つめながら


「いいえ、アベル。謁見とはただ王に会うだけではなくて、貴族は謁見によってその後の人生が大きく変わるんですよ。」


ガナルがボソッと言う。


「大袈裟かもしれないが、なんかこの国の未来への分岐点になるような気がするんだ。」


アベルは苦笑いしながらガナルに


「普通の5歳児の僕にそんな影響力や力はありませんよ。」


ガナルがアベルに


「そう言うところがすでに普通ではないのだがな。」


何か思いついたように手を叩いてガナルがアベルに


「ワシはすでに引退した身で何もアベルにしてやれんが・・・そうだ! アベルにアレをやろう。お前なら何とかできそうだからな。」


部屋の片隅の古い宝石箱を開けてガサゴソしてから

満面の笑みでガナルがアベルに


「コレをアベルにやろう。これがアベルを助けてくれるかもしれんからな。」


ガナルは小さな真っ赤なピアスを一個アベルに見せる。


「これは何ですか?ものすごい何か力を感じますが。」


小さな真っ赤なピアスをみんなに見えるように持ったままガナルが


「これは魔石のイヤリングだ。でも普通の魔道具ではないぞ。」


と言って得意げな顔をアベルにするガナル

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