第82話 アベルの未来
聖世紀1211年夏 王都 カナル邸 アベル5歳
ラーシャが立ち上がってイベルマに近づき抱きしめる。
「姉様、お元気なようですね。」
イベルマもラーシャを強く抱きしめながら
「ええ、おかげさまでね。」
ガナルはそんな2人を微笑ましく見ながら
「イベルマ、久しぶりだな。」
イベルマが満面も笑顔で
「ガナル久しぶりね。相変わらずいい趣味の部屋ね。片っ端から片付けたい衝動に駆られるわ。」
ガナルが苦笑いしながら
「イベルマ、それだけはやめてくれ・・・ここはわしの大切な思い出なんだ。」
アベルも母上の言葉に口を尖らせて文句を言う。
「母上、ダメだよ。こんなに素晴らしい部屋を片付けるなんて・・・僕は反対だな。」
バエルもドラゴム兄妹もアベルの言葉に頷いている。
黒龍はアベルの物言いに笑っている。
イベルマも笑いながら
「あら、どうしてアベルがそんなに反対しているの? もしかして、アベルはガナルのこの部屋を見てワクワクしてオレもガナルみたいになるんだ!!! ってまた憧れているんじゃないでしょうね。」
「そそそんなことはありませんよ。母上。」
明らかに誰から見ても図星なアベルの姿にみんなが笑っている。
イベルマがガナルとラーシャに向かって
「ガナル、ラーシャ。アベルが最近ラルクに憧れているのよ。まぁ憧れるだけならまだいいんだけど、行動や言動や考え方がだんだん似てきたのよ。そしてラルクも俺の暗黒騎士はアベルに継承するって毎日うるさいのよ。可愛い私の息子がラルクに似て、そして今度はよりによってガナルにまで似始めたら私はもう耐えられないわ。」
ガナルが心外な顔をしてイベルマに
「おい、イベルマ・・・俺をラルクと同じように扱うなよ。」
ラーシャが思い出したようにイベルマに
「あっそうだわ。今回はアベルちゃんの神託の話よね、お姉様。」
イベルマも思い出して
「そうよ。その話をここでしなくちゃね。アベルがこれからどうしたらいいのか相談したかったのよ。そしてその話の後は、ここに来るまでのアベルの戦いっぷりを記録した魔石があるから後でみんなで観ましょうよ。かなりえぐいわよ。今の時点でナデルを超えてるのよ。」
ガナルが少し緊張した面持ちで
「ナデルもえぐいけどそれ以上か・・・ラルクどころの話じゃないな。」
それから長い時間をかけて龍王様の話、アルベルト・ラジアスの話、星の聖女様の話、アベルの初めての戦いVS大蛇編とVS聖教会騎士団編とおまけでバエルのVSシルバーウルフ編をみんなで鑑賞した。
部屋に言葉がしばらく無くなった。
ガナルがボソッと
「龍王様の加護、アルベルト・ラジアスの生まれ変わり、オロチを倒した時に使った龍魔法。アルベルト・ラジアスの仕業だとしても聖教会を倒した1000年前の禁呪魔法。バエル君が普通に使った悪魔魔法。何か見てはいけないもののフルセットだな。」
ラーシャがアベルを心配そうに見ながら
「ええそうね。戦争のない時代の人にとってはかなりショッキングな魔法よね。」
アベルは満面の笑顔で
「大丈夫ですよ。僕は使いませんから」
ガナルがアベルに注意するように
「当たり前だ。あんなの普通に使うとそれだけで何かと理由をつけて国に捕まるぞ。」
ラーシャがアベルに真面目に質問をする。
「アベルちゃん、あなたはその力でこれからどうしたいの?」
アベルも姿勢を正して理路整然と答える。
「僕はね、漆黒の旅団みたいな冒険者になって黒龍やバエルやドラゴム兄妹と一緒に世界中の綺麗な景色を見たり、美味しいものを食べたり、ユミルバの魔の森を踏破したりするんだよ。そしてその経験を本にして、体が悪くて冒険できない人やまだ小さな子供達に読んでもらって僕の冒険をいろんな人に体験してもらうんだよ。」
いつのまにかラーシャの膝の上に戻ったバエルがしゃがれた声でアベルに
「おう、アベル。俺たちいろんなところへ行こうぜ。」
黒龍もドラゴム兄弟も頷いている。
ガナルも嬉しそうに頷いている。
ラーシャがアベルに近づいてまた強く抱きしめる。
アベル、何故かバエルもおっぱいにやられている。
イベルマは静かに紅茶を飲んでいる。
ラーシャがアベルを抱き締めたまま涙ぐんで
「まだ五歳なのにえらいわね。」
ガナルがアベルに質問する。
「アベルは王様にならないのか?」
アベルははっきりと
「王様なんて面白くない。僕はガナル様と一緒だよ。」
ガナルはアベルの答えに笑いながら
「そうか、そうか。アベルお前はなかなか見どころがあるぞ。」
イベルマがすかさずガナルに釘を刺す。
「まぁ、我が息子になれなんて言わないでくださいよね。アベルを手放すつもりはありませんからね。」
ガナルが残念そうに
「先に言われてしもうたわ。」
ラーシャも残念そうな顔して
「ええ、残念ですわ。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます