第78話 どっちもどっち

聖世紀1211年夏 港町バーク→王都 アベル5歳


バエルとハンが戻ってくると同じくして黒龍たちの馬車が

アベルと幌馬車を見つけてアベルの近くに停車した。


黒龍とドラゴム兄妹とイベルマとダリアスが馬車から降りてアベルに近づいてくる。

バエルとハンがイベルマたちより一足先にアベルの前に到着して


「アベル、その馬が怯えていた狼たちは全滅したぜ。」


『ガウガウガウ』


「お疲れ様、怪我はなかったかい?」


「おいおいおい、アベル。俺たちこんな成りしてるがガキじゃないんだぜ。」


『ガウガウガウガウ』


バエルと一緒に抗議を伝えようとしているハンが可愛い。

アベルはハンの頭を優しく撫でている。


「ごめんごめん、バエルもハンもわかったよ。狼の討伐は余裕だったかもしれないけどご苦労様でした。」


アベルはお祖父さんの方に振り返り、笑顔でおじいさんに言葉をかける。


「おじいさん、この先の狼たちもう居なくなりましたよ。」


そしておじいさんの馬にも優しく話しかける。


「おまえの警戒していた狼たちは居なくなったぞ。」


馬はブルルっとアベルに答えた。

おじいさんは、麦わら帽子を脱いで丁寧にアベルに礼をした。


「それはそれは本当にありがとうございます。」


アベルの前でおじいさんが礼をしているところに

イベルマ一向が現れてアベルに声をかける。


「アベル、何かあったのですか?」


アベルがイベルマの方を向いてきちんと話し出す。


「はい、母上。このおじいさんの馬がここで一歩も動かなくなって・・・」


今までの経緯を細かく母上たちに細かく説明する。

おじいさんもイベルマに感謝を伝える。


バエルは上機嫌で狼との戦闘を活劇のように伝えている。

ハンもバエルの横でガウガウ言っているが誰も何を言ってるのかわからない。


「はい、よくわかりましたわ。アベルよくやりましたね。ご褒美はありませんが、貴方の強い力は弱い人たちを助けるためにあるのですよ。これからも忘れないようにね。」


と言ってイベルマは無詠唱で老人と馬にヒールをかける。

ハンがイベルマの近くまで来てイベルマの足に前足を掛ける。


「なんですか?ハン。咥えてるのは記録魔石? ハンの記録魔石ね。見ろってことね。」


イベルマはハンの咥えている魔石を受け取り、

アベルとダリアスと黒龍ドラゴム兄妹と一緒に魔石を覗き込む。


そこには先ほどのバエルの魔法が映し出される。

そこには音もなく死を迎える40匹の狼が映し出される。


見終わった時、みんなが一斉にバエルを見つめる。

イベルマがこめかみを抑えながら代表してバエルに言う。


「はぁ〜あのーバエルさん、高位悪魔とは聞いていましたが、やはり貴方もぶっ壊れ魔法を平気で使うのですね。昨日のアベルの魔法といい、今日の貴方の魔法といい、母は貴方たちの常識を逸脱した魔法になぜかすごく疲れました。」


バエルもアベルの魔法と比べられるのが心外らしく反論する。


「おいおい、ちょっと待ってくれ!!! アベルのあんなやばい魔法と比べるなよ。俺の魔法なんてとてもとても簡単な可愛い魔法じゃねえか? それに俺の悪魔魔法は上級魔術師なら簡単にレジストできるぜ。」


そのバエルの言葉にダリアスが驚いて


「おまえさん、それ本気で言うとるのかね。一匹だけ単体でとてもとても低い確率で即死させる魔法は確かに現代魔法にもある。そんなに難しくはない。しかし一瞬で40匹もの狼を即死させる魔法なんて現代魔法には存在せんわ。悪魔魔法なんてものを簡単に使いおって。」


アベルは目を輝かせている。


「バエルってすごいんだね。悪魔魔法とってもかっこいいよ。でもなんだか怖い魔法だね。」


アベルの肩に飛び乗っていつものしゃがれた声で


「アベル。褒めてくれるのは嬉しいけど、俺はアベルにだけは怖い魔法とか言われたくないんだよな。」


黒龍がぼそっと聞こえないように独り言


「どっちもどっちだ。」


その後、おじいさんから沢山の野菜をアベルが貰ったが

タダでもらうには気が引ける量だったのでアベルの龍の宝物庫から

金貨一枚を出して無理やりおじいさんに握らせた。


幌馬車のおじいさんは渋々受け取りアベルたちと別れて出発した。

アベルたちも王都を目指して出発した。

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