第77話 VS狼の集団

聖世紀1211年夏 港町バーク→王都 アベル5歳


バエルとハンが街道を進むと街道の両サイドの茂みから

左右20匹づつの痩せた大きなオオカミが涎を垂らし唸りながら現れた。


「おっと、待ち伏せだね。大人数でお出ましだぞハン。」


ハンが狼の群れと少し距離をあけて停止してバエルに返事する。


『ガウ』


バエルはハンの上で立ち上がり、目を細めて狼たちをじっと観察する。


「コイツらは・・・シルバーフォレストウルフか、ティムされてる訳でも無いのになんでこんな街道にいるんだよ。」


ハンが知ってるのかそのことに一生懸命バエルに答えている。


『ガウガウガウガウフカブウ』


話しかけてくるハンにびっくりしたバエルは


「すまん、俺はアベルじゃないからハンが何言ってるのかわからんのだ。」


『ガウ〜』


しょぼんと頭を下げるハン。


フォレストウルフの群れが一斉に構えて唸り声を上げる。

バエルはハンから飛び降りハンを後ろに下がらせる。

その姿を見たウルフたちは警戒もせずに気を抜いて仔猫のバエルに近づいてくる。


「40匹か・・・昨日のアベルの魔法見てからウズウズしていたから丁度いいな。」


バエルが後ろにいるハンの方を振り返るとハンが楽しそうに尻尾を振りながら

記録魔石を咥えてスタンバイしていた。


「君もその魔道具持ってるのね。後でアベルに見せるから私1人でよろしくと言うことかな?」


『ガウガウ』


「頑張れと他人事のように言われている気がしたよ。それに魔道具を使えるんだね君は。」


『ガウ』


バエルがフォレスト狼の群れを見つめて呪文をつぶやく。


『mort à un imbécile』


バエルが悪魔魔法の即死を呟く。

目の前に幾何学模様の魔法陣が現れる。


悪魔魔法も龍魔法とは違う異世界の言葉である。

この世界の言葉に訳すと


「愚か者には死を」


と言うことになるらしい。


フォレストウルフ自身の黒い影が徐々に広がって地面が真っ黒になる。

目の前で唸っていたウルフたちが急に眠るように鳴き声も上げずにバタバタと倒れていく。

40匹の狼が全て倒れると地面は元の大地に戻っていく。

その光景を見ていたバエルが首を横に振っている。


「よわっ・・・2、3匹はちゃんとレジストしろよ。腕試しにもならんわ。取り敢えず死体が邪魔なんで回収しておきますかね。」


『ガウ』


バエルが再び詠唱する。


『Ramassez les loups devant vous』


悪魔魔法の回収を唱えると黒くて小さな魔法陣が現れる。

黒い魔法陣の内側が広がり亜空間の穴になる。

吸い込まれるように40匹の狼の死体が亜空間に消える。


この悪魔魔法をこちらの世界の言葉に訳すと普通に


「目の前の狼を回収。」


と言っただけなんだが悪魔魔法はいちいち怪しい雰囲気を醸し出す。

バエルはその悪魔魔法の雰囲気が嫌いではなかった。


バエルが振り向いてハンに向けて笑顔になって


「ハン、アベルのところに戻ろうか。」


と言うとハンは嬉しそうに尻尾を振って


『ガウガウガウガウ』


と返事をする。


「なんて言ってるか分からんが、褒めてくれてるんだね。ありがとうハン。」


そう言ってバエルがハンに飛び乗るとハンが勢いよくアベルの元に駆け出した。

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