第75話 猫まっしぐら
聖世紀1211年夏 港町バーク 宿屋の玄関 アベル5歳
昨晩はなかなか食べることのできない海の幸をみんなで堪能した。
もちろんはバエルも満足するまでニャアニャァ言いながら魚を食べていた。
アベルも魔力が戻ったみたいで初めて見る魚介類に目を輝かせながら
しっかりと満腹になるまで食べていた。
特にタコが気に入ったみたいでずっと吸盤を触りながら観察していた。
翌朝、アベルとイベルマとダリアスが少し早めの朝食を済ませると
玄関には出発の準備を終えた黒龍とドラゴム兄妹が既にスタンバイしていた。
みんなで朝の挨拶を済ませて馬車に乗り込む時にアベルがイベルマにお願いしている。
「母上、ハンが運動不足なので、王都の手前までハンに乗って走ってもいいですか? 」
イベルマが少し考えてからアベルに
「良いけど、王都の手前までよ。そしてトラブルは絶対に無しよ。」
アベルはまさか許可が出るとは思わなかったので嬉しそうに
「はい、母上。目立たないようにします。」
アベルが嬉しそうにハンを呼ぶ
「ハン」
呼ぶと話を聞いていたのか嬉しそうに尻尾を振って登場する。
『ガウ』
「バエル」呼ぶと面倒くさそうに黒い煙と共に登場。
そして相変わらずしゃがれた声でアベルに文句を言う。
「朝早過ぎ・・・俺まだ眠い。」
目が半分空いていないバエルが欠伸している。
アベルがバエルのそんな状態を見て
「いや、バエルにしか出来ないことをお願いしようと思ったんだけどなぁ。眠いなら寝ててもいいよ。おやすみなさい、バエル。起こしてごめんね。」
バエルを指輪に戻そうとすると
「待て待て、慌てるなアベル。確か俺にしか出来ないことをお願いしたいんだよな?」
バエルが慌ててアベルの肩に駆け上がってくる。
アベルは少し悲しそうに
「そうだったんだけど・・・でもバエルが無理ならもういいよ。」
バエルがアベルの肩から飛び降りてアベルの正面に凛として座る。
「だから焦るなよ、アベル君。君は今、吾輩を猛烈に必要としているわけだよな。ウオッフォン、失礼。アベル君と吾輩は友達だからな仕方ないな。・・・よし、今回は特別にアベル君のお願いをこの吾輩が聞いてやろうではないか。」
バエルのツンデレ
アベルは少し大袈裟にお礼を言う。
「ありがとうございます。バベル様。」
いい気になって完全に顎が上がっているバエル。
「構わんよ。構わんよ。アベル君、友達じゃないか吾輩達は。ハハハ。」
アベルの独り言「お願い一つするだけなのに悪魔はとても面倒くさいな。」
「アベル君、今何か言いましたか?」
「いいえ。バエル様の心遣いに1人で感動していたところです。」
まだ顎の上がっているバエル
アベルの肩に駆け上がってくる。
「結構、大いに結構。吾輩に感謝したまえよアベル君、ところで吾輩にお願いってなにかね?」
アベルがとても困っている感じでバエルに説明する。
「僕が馬車の前をハンに乗って走るからバエルも僕の肩に乗ってハンと僕の姿を消して欲しいんだ。」
そんな簡単なことかと気が抜けるバエル
「なんだそんなことかよ。アベル君、吾輩にかかれば簡単なことだ。いつでもいいぜ。」
「ありがとう。バエル様。」
少し大袈裟に感謝するアベル。
またバエルがアベルの言葉に気持ちよくなって偉そうに
「いいんだよ。アベル君、こんなことぐらい。なんせ吾輩たちは友達だからな。」
肩に乗ったバエルが尻尾でバシバシとアベルを叩いている。
アベルの独り言「悪魔って本当に面倒くさい・・・」
ハンは上機嫌。バエルは何故か上機嫌。
馬車には、御者を黒龍、イベルマとダリアスと今日はドラゴム兄妹が乗り込んだ。
アベルはハンに跨っている。アベルの肩には上機嫌のバエルがいた。
「では、王都に向けて出発!!!」
アベルが言う前にしゃがれた声でバエルが言う。
そして三日目の朝が始まる。
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