第73話 最後の授業
聖世紀1211年夏 港町バーク アベル5歳
あれから数時間後、アベルたちの馬車は夕方に港町バークに着いた。
町は漁師町で街の入り口から入って真っ直ぐ行くと広場があり
広場には数軒の宿屋と冒険者ギルドと商業ギルドと大きな漁業ギルドがあった。
広場を過ぎてそのまま真っ直ぐ行くと突き当たりが港になっている小さな町だった。
港のほとんどが漁船で、大きな客船は入港できないみたいで一隻も無かったが
観光用の小さな遊覧船は数隻あった。
港の近くには市場があり、朝市が有名らしいが夕方なのにまだ人で賑わっていた。
イベルマはまたこの町の治療院に直行した。
自分だけ遊ぶわけにもいかないと星の聖女ダリアスもイベルマに同行した。
黒龍、アベル、バエル、ドラゴニュート兄妹は今日の宿へと向かった。
バエルは先ほど馬車の中で目覚めたがもう少し休みたいらしく
アベルの記章の指輪に帰っていった。
アベルがまだ眠っているので黒龍がアベルを抱えて宿の部屋のベッドに寝かせた。
黒龍はニヘルとクリシアに詳しく話を聞くために
ドラゴニュート兄妹の部屋を訪れて話し込んでいるようだ。
その時、アベルは不思議な夢を見ていた。
その夢の中でアルベルトがアベルに優しく話しかけていたのだった。
「アベル君、今日はお疲れだったね。」
「アルベルトさんですか?」
「そうだよ。私はアルベルトの記憶だよ。ちょっとアベル君に伝えたいことがあってね、夢の中に出てきました。何度もすいません。」
「いえいえ、アルベルトさんが僕に伝えたいことってなんですか?」
『これは私からの最初で最後の授業です。アベル君、今日私が使った魔法を見てどう思いましたか?』
『はい、とても強力ですがとても残酷な魔法だと思いました。』
『そうです。あんな魔法使わなくても黒龍さんが全員倒せました。それに私も違う方法で聖教会を倒せました。でも私はアベル君に強い魔法を見せたかったのです。』
『強い魔法を僕に?』
『はい、アベル君。強い魔法を使うと言うことは、ああやって敵対するもの全て消し去ることができます。でも敵を全て綺麗に消し去るだけで実は問題を何も解決しておりません。』
『でも、あそこにいたみんなの命は助かったよね。』
『はい、みんな助かりましが、聖教会騎士団と大司教の30人の命が失われてこの世からいなくなって、みんなが助かっただけと言うことだけなんです。聖教会の人種主義の考え方が変わらない限りドラゴニュートはこれからも聖教会に殺され続けるでしょう。そして立場の弱い女性や子供は聖教会の権力者の餌食になり続けるでしょう。』
『そうだね。あの兄妹も違う聖教会の人たちに会えばまた狙われるよね。』
『アベル君。この世の中強い力を使うだけでは全てが解決しないことが沢山あると言うことです。』
『はい、良くわかりました。アルベルト先生。』
『アベル君は知っているかわからないけど私は天才とか言われていたけど単なる引きこもりだったんだよ。私がね引きこもっていたのは、誰にも会わなければ人間関係で問題が起きることを最小限に防げるからです。でも、アベル君は貴族社会で暮らしたり、学校に行ったり、冒険者になったりとこれから先、人に会うことばかりです。その時に相手と意見が違うからと言ってずっと強い力でねじ伏せ続けても根本的には何も変わりません。ただの乱暴者というレッテルを貼られるだけです。』
『ではどうすれば良いのですか?』
『まず、自分から争わないことです。そして強さばかりを追い求めないことです。強さと同じぐらいの人を想う優しい心を持ってください。相手に絶対に勝つと言う狭い視野ではなく、どんな相手にも負けない力を自分で考えて身につけてください。』
『うーん、今はわかんない。でも僕、そのことを考えながら修行します。』
『はい、頑張ってください。強い力や魔法は使った後に大きな責任が生じます。相手に怪我をさせたり殺したりすることだけが解決策じゃありません。そしてアベル君が強い力や魔法が使えると知られれば必ずアベル君を悪用しようとする奴が生まれます。かといって人に全く会わない僕みたいに引きこもるのはよくなかったと私は前世を反省しているので引きこもりはアベル君にはオススメしませんよ(笑)』
『ハイ(笑)』
『長くなりましたね。5歳のアベル君には難しいかもしれませんが、1人で解決しようとせずに子供のうちはもっと周りを頼りなさい。ではでは、もうこう言う形でアベル君と会うことはありませんが、アベル君自身でもある私アルベルト・ラジアスからの授業はここでおしまいです。』
『アルベルトさんありがとうございました。』
「10歳になったら僕の記憶と知識を全て君に捧げるよ。本当に楽しみだよ。さよならアベル。さよなら生まれ変わった僕、今度は上手くやれよ。」
そして、声が消えるとアベルはお腹が空いて目を覚ました。
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