第72話 謝罪と神託

聖世紀1211年夏 バーク近く 海の見える草原 アベル5歳


黒龍が倒れたアベルをそのまま抱えて草原の上にそっと寝かした。

アベルはすやすや寝息を立てて眠っている。


そこにバエルも疲れがピークなのか倒れ込んでくる。


「一応、俺とアベルに結界は張ったけどよぅ。ありゃダメだ。あれは使っちゃいけねえ魔法だな。それと誰かあとで俺にアルベルトとアベルのこともうちょっと詳しく教えてくれよな。でも今は少し休ませてくれ。」


と言ってアベルの近くで大の字になる。


ドラゴニュートの兄妹がアベルを見守る一行の後ろから

申し訳なさそうに声をかける。


「あのー私たちがここに聖教会を連れてきてしまったのてこんなことになって、本当にすいません。」


兄のニヘルが頭を下げる。


「本当に申し訳ありませんでした。」


妹のクリシアも頭を下げる。

星の聖女ダリアスは2人を見て優しく声をかける。


「構わんよ。これも星の導きじゃでな。ところでお前さんたちは何処の誰なんだい?」


ニヘル改めて挨拶を始める。


「申し遅れました。私はアルバニ王国デビ砂漠に住むドラゴニュートの・・・」


被せて黒龍が2人の名前を言う。


「ニヘルだよな。そして君がその妹のクリシアだよな。」


その瞬間、ドラゴニュへートの2人が、素早く後ろに跳躍し黒龍に武器を構える。

黒龍は落ち着いて兄妹を見て


「オイオイ、俺とやるのか? しまわんかそんな物騒なもの。」


ニヘルとクリシアは黒龍に対して武器を構えたまま


「なぜ我ら兄妹の名前を知っておるんだ。貴様何者だ!! 」


やれやれと言う感じで黒龍が笑う。


「まずは武器を仕舞ったらどうだね。俺のことさっきリトルドラゴンが名前を呼んだから薄々気がついたくせにそんなににいきがることもあるまい。コミュニケーション能力が低くすぎるぞ。そんなんじゃ友達もできないぞとリトルドラゴンにに言われるぞ。」


二人は黒龍と周りの様子を見ながら武器をしまう。


「では貴方様は本当に龍王様のご子息の黒龍様ですか?」


ニへルが聞くとクリシアが続けて


「では、貴方が黒龍様で。やはりあの子供の額の紋章は彼がリトルドラゴンなのですね。これは大変失礼いたしました。」


ドラゴニュート兄妹は黒龍の前で土下座をする。

黒龍は笑顔で答える。


「さすがドラゴニュートだな。アベルの紋章が見えたか。そうだ。両方正解だ。」


と黒龍が答えた瞬間、ニヘルは涙ぐんで、クリシアは泣き出した。

黒龍が2人の態度に少し動揺しながらクリシアの頭を優しく撫でる。

そして黒龍か゜優しく話し始める。


「実は親父から聞いていたんだ。いつになるかわからんが、生まれてからずっと聖教会の虐殺から逃げてばかりで、家族を殺され仲間を殺されて、生きることに疲れておったドラゴニュートの兄妹を不憫に思って黒龍と一緒にリトルドラゴンの護衛とお世話をするように神託を授けたとね。リトルドラゴンのいる国の名前だけ教えてあとは自分たちで探せとまぁ大雑把な神託に対して真面目に本当によく探せたね。」


この話を聞いていた星の聖女ダリアスが祈りながらドラゴニュート兄妹に告げる。


「私は星の聖女じゃ。ここでアベルと御主らが巡り会えたのも全て星の導きじゃ。」


イベルマも兄妹に尋ねる。


「貴方たちアベルの護衛をするためにわざわざアルバニ王国デビ砂漠なんて遠い場所から来てくださったのですか?」


ニヘルとクリシアが頷く

クリシアがイベルマに質問する。


「失礼ですか、あなた様は?」


「申し遅れました。私はイベルマ・ジルードと申します。アベルの母です。」


ニヘルは驚いて謝罪する。


「これはこれは光の聖女様、リトルドラゴンの母上様でもありましたか。」


黒龍が最後に紹介する。


「そしてそこで大の字に寝ているのが高位悪魔のバエル。アベルの友達です。」


星の聖女ダリアスが一旦落ち着いて


「さて、こんなとこでアベルをいつまでも寝かせるわけにはいかんのでバークの町に向かうぞ、お前さんたち兄妹もこの後ずっとアベルに付いてくるんじゃろ?」


ニヘルが答える。


「はい、ご迷惑でなければ龍王様の神託を守りたいと思います。」


兄妹2人が一礼する。

イベルマがその一礼に答える。


「ええ、良いわよ。お二人ともアベルをよろしくね。」


決断の早い光の聖女様、ナデルに承諾は貰わなくて良いのか?と黒龍は思った。


「はい」


さっきまで泣いていた2人が笑顔になって返事をする。


そして黒龍はアベルを抱えて馬車に寝かせてから御者席へ

イベルマは仔猫のバエルを丁寧に抱えてアベルの隣に寝かせる。

星の聖女も馬車に乗り込む。

ドラゴニュートの兄弟は馬車の後方の外側に護衛として立って乗っている。


馬車はみんなを乗せて港町バークに向かった。

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