第11話 鉄拳ハンナ

聖世紀1212年 ユミルバ 鍛冶屋 アベル6歳


「オンジ・・・後ろ・・・鉄拳・・・」


アベルがオンジの後ろを指差すがオンジが振り向く前に


「あんた、うるさいあいつに内緒で何をいくらでも作るって?」


その言葉と同時に逃げようとするオンジの両耳を後ろから摘んで捻りあげる。

オンジの妻のハンナが登場。

その光景を見たバエルがニヤニヤしながらアベルに念話で忠告する。


[やっぱハンナは怖いな・・・アベルも結婚する時は慎重になれよ。]


アベルはニコニコしながらバエルに念話で答える。


[そんなのまだまだ先の話だよ。]


プルソンもアベルに念話で言う。


[いえいえ悪魔の私たちにとっては先ではなくて一瞬ですよ。ちゃんと考えておかないと。]


ハンナは整った顔立ちをしている。少し長めのオレンジの髪をポニーテールにしている。

オンジにも負けないぐらいの筋肉で同時に女の魅力も持ち合わせた女ドワーフ。

タンクトップに皮の作業手袋、エプロン姿に皮の作業用ブーツ。


⚫︎ユミルバ冒険者暗黙のルール1 鉄拳ハンナには逆らうな


ハンナがオンジの耳を強く捻りあげる。


「やめろハンナ。アベルも見てるだろ。俺の耳が長くなってエルフになってしまうだろ。やめろ耳とれちまうよ。イテテテ。」


ハンナがオンジの耳をより強く捻りながら言う。


「そんな岩石みたいなえるふなんているわけないだろ。」


アベルが騒ぐオンジを無視して普通にハンナに挨拶をする。


「ハンナ、こんにちは。今日はね。この山鳥を届けにきたんだよ。」


アベルが亜空間から山鳥を二羽出して、ハンナに渡そうとする。

苦痛に歪むオンジがハンナにアベルから聞いたことを伝える。


「イテテ、それとよくわからんが、アベルが黒龍との修行の第一段階を卒業したらしいんだ。」


ハンナ、オンジの両耳から手を離す。

ハンナがアベルから2匹の丸々と太った山鳥を受け取る。


「これまた立派な山鳥だね。こいつもあんたが狩ったのかい?」


アベルが自慢げに答える。


「うん、僕が狩りました。ああそうだ、ハンナお願いがあるんだ。」


ハンナが満面の笑顔でアベルに答える。


「何だい言ってごらんアベル」


アベルが改めて姿勢を正してハンナにお願いする。


「あのね。黒龍先生が明日からハンナとロメロに対人戦闘を習いなさいって」


ハンナはアベルのお願いに笑顔で頷いて


「そうかい、その時期が来たのかい。ちゃんと黒龍から聞いていたよ。アベル、私の修行はは本当に厳しいよ。頑張れるかい。」


そこへ耳のダメージから復活したオンジがアベルにカッコつけて


「おいアベル、ワシもお前さんに俺の必殺技も教えてやるぜ。」


話の腰を折られたハンナが呆れながらオンジに


「あんたのは力任せにハンマーで相手をぶん殴るだけだから技とかじゃないんだよ。」


オンジも笑いながら


「ちげえねえや。」


ハンナとオンジが顔を見合わせて2人で笑っている。

そしてハンナが話を続ける。


「あのね、アベル。私の技はね普通のスキルじゃないんだよ。この平和な時代にはあまり必要とされない素手で人を殺す為だけに何千年も考えられた殺人技なんだよ。100年前に隣の聖カルロタ皇国に召喚された4人の勇者様の1人がこの世界に伝えたという異世界の「ケンポウ」という無手の格闘術なんだよ。単純な動きなんだけど特殊な訓練方法で何年も何年も繰り返し基本型や蹴りや突きを反復練習することによってのみ得られる強いが特殊なスキルなんだよ。そこらの簡単に獲得できるスキルじゃないけどアベルは本当に一生自分自身に何事にも負けない強さを求める修行を頑張れるかい?」


アベルはハンナの話を聞いて少し興奮している。


「ハンナ、僕はね。修行は楽しいから好きなんだよ。昨日出来なかったことが今日できるようになるのも大好きだから。それにハンナみたいに強くなりたいんだ。僕、本当に頑張るよ。」


ハンナがアベルの頭を撫でる。


「よし、明日からアベルは私の弟子だよ。私のことはハンナ師匠と呼びな。」


アベルは姿勢を正して一礼する。


「わかりました。ハンナ師匠。」


仲間はずれ感のあったオンジがハンナの横からアベルに言う。


「俺のことは今まで通りオンジでいいぞ。」


ハンナがオンジの頭を押し除けて


「当たり前だよ。アンタはアベルになにも教えちゃいねえんだから。」


オンジ笑いながら


「ちげえねえや。」


ハンナとオンジが顔を見合わせて2人で笑っている。


「でもアベル、いつも修行帰りに新鮮な獲物をありがとうね。そしていつもこのバカの相手までしていただいて本当にすまないね。」


ハンナがアベルに深々と頭を下げる。


「僕はね。オンジもハンナも大好きだから当たり前のことなんだよ。」

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