第10話 鍛治師オンジ
聖世紀1212年春 ユミルバ 鍛冶屋 アベル6歳
アベルの最初の目的地の鍛冶屋の前に到着した時に
仕事終わりの鍛治職人オンジがあくびをしながら店の前を箒で掃除している。
オンジの工房はそんなに大きくはなく、妻のハンナと2人で経営していた。
他の鍛冶屋に比べて古い鍛冶場と小さなカウンターだけのシンプルで小綺麗な店だった。
2階が2人の生活の場となっているこの世界によくある平均的な建物だった。
その店の前でオンジはさっきからやる気無く箒で同じ地面を何回も撫でている。
その姿をみたバエルはアベルに笑いながら念話で言う。
[おい見ろよアベル。オンジがまたハンナに怒られて掃除をさせられてるぜ]
オンジは、ドワーフにしては背が高く体もでかい
綺麗に揃えられた髭に濃い茶髪の髪を後ろで三つ編みにしている。
小綺麗だが岩石のようで一見で頑丈なのがわかる。
額と身体中に大きな傷があり、若い頃に猛者であったことがわかる。
プルソンもアベルに念話で言う。
[あんなイカつい親父がしょんぼりと店の前を掃除している姿は可愛いですね。]
そのタンクトップから見える馬鹿でかい筋肉に包まれた岩石のようなオンジが
アベルに気がつくと満面の笑顔で掃除の手を止めて小さく可愛く手を振っている。
そして野太い声で優しくアベルに話しかける。
「おい、アベルよ。今日も魔の森で修行していたのかよ?」
アベルも笑顔で答える。
「そうだよオンジ、えっとね、今日の獲物はねぇ・・・なんとホワイトウルフ3匹と山鳥5羽も狩ったんだよ。」
自慢げなアベルを微笑んで見ているオンジ。
「どんどん狩の腕が上がってるな。最初の頃は一匹も狩れないだの魔獣が怖いだの言ってビービー泣いていたのにな。」
オンジが我が子の成長のように嬉しそうにしている。
「あのね、オンジ。僕も毎日成長しているんだよ。いつまでもそんな小っちゃい子供じゃ無いんだからね。それにね黒龍先生が今日で初級龍魔法を卒業だって言ってくれたんだよ。」
アベルが得意げにオンジに自慢する。
「何が卒業かワシにはよくわからんが、アベルは頑張ったんだな。えらいぞ。まぁでもまだまだガキはガキだ。」
アベルが褒められて照れている。
「オンジ、褒めてくれてありがとう。」
オンジが何も武器を持っていないアベルに質問する。
「で、今日はどんな武器でその獲物らを仕留めたんだ?」
アベルは当たり前のように答える。
「龍魔法と素手だよ。」
オンジが驚いてアベルに言う。
「おいおい、狩に弓とか剣とか武器は使わなかったのかよ。よくそんなんで狩りができるな?ワシには想像も出来んよ。大したもんだぜ。」
オンジはゴツゴツした大きな手でアベルの頬を優しく撫でた。
「へへへ、くすぐったいよ。」
アベルは職人オンジの岩のようにゴツゴツした手が嫌いではなかった。
「でもよ。前からいってるけどな、アベルがワシに作ってと言ってくれれば狩用の剣や弓なんかはな内緒でいくらでも作ってやるからな。別に魔剣とかでもアベルならいくらでも作ってやるからよう。でもなこれだけは気をつけろよ、絶対にあいつとお前のかーちゃんには見つかるなよ。内緒で俺に注文するんだぞ。」
オンジが子供のような顔をしてウインクする。
「アベルはどんな武器がいいんだ? 剣か?短剣か?弓か?魔導銃ってのもあるぜ。」
バエルが半ば呆れながらアベルに念話で話す。
[おいおい、この親父相当やばいな。せっかくだから勇者様みたいな妖刀作ってもらえよ。街中で人斬りまくれるぜ。]
プルソンがバエルに念話で注意する。
[バエル様、アベル君を単なる殺人鬼にしたいのですか? どうせヤルならカルロタ皇国の聖教会を皆殺しにしましょうよ。あいつら許せないのでね。]
アベルは2人の悪魔の会話にうんざりしている。
[あのね、僕は人も斬りまくらないし、皆殺しもしません。]
悪魔の念話を聞いていないオンジが目をキラキラさせながらアベルに聞いてくる。
その後ろに恐怖が聞き耳を立てて足音も無く近づいて来ているのも知らずに
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