第9話 アベル・ジルード


聖世紀1212年春 ユミルバ 正門 アベル6歳


とても天気の良い春の日だった。


美しい街の側にはユミルバ湖という大きな美しい湖があった。

多くの船が湖で漁をしているのが見える。

その水面にはまだ新しい美しい石造りの街が映り込んでいる。


白鳥のような白い鳥たちの群れが湖の上を

同じ軌道で何回も何回も楽しそうに飛んでいる。

湖の水面はキラキラと輝きその奥に見える魔の森さえも美しく見せる。


ユミルバは湖に流れ込む川の一部を天然の堀として上手く利用していた。

そこから都市を取り巻くように外壁の外に人工の水堀を張り巡らし

要塞のような外壕都市をわずか5年でジルード公爵家の指示のもと作り上げた。


外の世界とユミルバを繋ぐ大きな石造りの魔力街灯を完備した橋は美しく

ユミルバの象徴の一つでもあった。


その橋を行き交う商人や冒険者や旅人はとても多い。

街に入るのにいつも長い列ができている。


3人の若い門番兵が貴族の馬車や商人の荷馬車を確認したり

冒険者の冒険証をチェックしたりと忙しなく仕事している。

この街が賑わっているのだと一目でわかる風景である。


その人々や馬車の間を1人の少年が街の中心に向かって走っていく。


彼の名前は、アベル・ジルード 6歳

アルベルト・ラジアスの生まれ変わりの子。


髪は不自然な白髪、瞳は漆黒。誰もが振り向く女の子のような美少年。

上等な白シャツに黒の革のベストに革ズボンにジャングルブーツ。

右耳にはピアスをしており、肩には黒い仔猫が乗っている。


6歳にしては少し大人びてはいたが、天使のような笑顔の少年だった。

いつものようにアベルは急いでいた。

走りながらピアスに封印されている悪魔のプルソンと

仔猫に扮する高位悪魔のバエルに念話で話しかける。

この2人の悪魔との関係はまた物語が過去に遡ってから説明することにする。


[やばいなぁ。今日は門限ギリギリだよ。また怒られるね。これでもこの一年の修行でかなり速く走れてるんだけどなぁ。]


バエルが小さくため息をついてアベルに注意する。


[大体アベルはいつも何してもモタモタしてるからだぞ。そのとばっちりで俺まで一緒に怒られるんだからな。]


プルソンもバエルに同意して


[そうなんですよ。私なんか母上様からブルソンがいながら、なぜアベル君とバエル様の面倒をちゃんと見れてないの? ってこっぴどく怒られるんですよ。]


バエルが反論する。


[おいおい、俺と問題児アベルを一緒にするなよ。]


アベルもほっぺたを膨らましながら反論する。


[僕だってバエルと同じ扱いは嫌だなぁ。]


友達の悪魔達と念話で話しながらアベルは魔の森からユミルバに向けて走っていた。


ユミルバの入り口に掛かる石造りの大きな橋を渡り街の正門を元気に駆け抜けるアベルに

門番兵も仕事の手を止めて笑顔で手を振っている。


3人の門番兵の1人の青年兵が、アベルに声をかける。


「アベル様、早く帰らないとまた父上様に怒られて、またまた外出禁止ですぞ。 」


違う中年の門番兵がアベルに


「いやいや、俺は母上様に怒られるに今夜のエールをかけるぜ」


門番兵隊長が笑いながら


「よーし、俺はご両親からしこたま怒られるにかけるぜ」


中年の門番兵が隊長の言葉を聞いて笑いながら


「おいおい、全員怒られるに賭けてちゃ賭けが成立しねえぞ、ハハハ」


アベルも若い門番兵に天使のような笑顔で


「今日こそは怒られないように僕は頑張りますよ。」


と大きく手を振って街の中に走っていく。


門番兵3人も敬礼しながらアベルの姿を温かく見守る。

そしてまた何事もなかったようにまた忙しく働き始める。


知り合いの商人や冒険者もアベルに軽く手を挙げて通り過ぎる

アベルも軽く挨拶しながら走っていく。


そして大通りの角を曲がると1つ目の目的地である鍛冶屋に到着する。







▪️あとがき

アルベルト転生後のアベルが登場しました。

街の景色はアニメなら美しいのが伝わるとは思いますが、私の表現力では・・・

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