第4話 さよなら
聖世紀206年 ユミルバ冬 帰らずの森 ラジアス邸前 アルベルト・ラジアス25歳
アルベルトは、そう言うと
イタズラ子っぽく笑いながら。両手を広げて自分の前の地面に小さな魔法陣を3つ浮かび上がらせる。
『闇魔法罠・奈落発動』
「これで良し。私に敵意を持ってこの魔法陣を踏むと私にもどこかわからない闇の中に身体が消えていく罠を発動したから聖教会の奴らのびっくりする顔が楽しみだな。フフフ。」
アルベルトは笑いながらふと我に帰り思いつく。
「あっそうだ、やっぱりこの世からいなくなることを王様にも手紙を送っておいた方がいいな。」
そういうアルベルトの目の前に紙と羽ペンが現れてスラスラと自動で手紙を書き始める。
「思えば短い人生だったけど、王様にはいろいろ世話になったな。王様はいい奴だから僕がいなくなると悲しむだろうな。」
手紙が書き上がると何処からか封筒が出てきて
手紙が空中で封筒に収められて蝋で封がされる。
アルベルトは小さくため息をしながら
「まぁでもしかし、いざこの世から居なくなるといろいろと準備が忙しいもんなんだな。嗚呼、イビルにもうちょっと手伝ってもらったらよかったなぁ。」
そしてアルベルトは微笑みながら従魔を召喚する。
『ハン』
アルベルトがシャドーウルフのハンを呼び出すと
アルベルトの影の中から二メートルほどの一匹の漆黒の狼がのそっと現れた。
『ガウ』
アルベルトは漆黒の狼を優しく撫ぜながら王様宛の手紙託した。
「ハン、今までいろいろ有り難う。次に会えるのは何百年か先だ。また僕の魔力をどこかで感じたら探し出して僕に会いに来てまた僕の従魔になってくれよな。この手紙を国王様に渡し終わったらこの森で自由にしていなさいまたねハン」
『クウウウン』
別れを理解して、悲しそうに吠えるハンが手紙を自分の亜空間にしまうと
アルベルトが指差す王都の方へ向かって勢いよく走っていった。
「あいつにも・・・賢者のパブロフにも手紙と頼まれていたホムンクルスを送っとくか。」
そういうアルベルトの目の前に紙と羽ペンが現れてスラスラと自動で手紙を書き始める。
アルベルトは亜空間から1人のハイエルフの老人ホムンクルスを取り出と地面に座らせる。
アルベルトは従魔の八咫烏を呼び出す。
『オールド』
すると赤い目をした一羽の3本足の鴉が
アルベルトの影の中から飛び出してアルベルトの肩に止まった。
「オールド、これが最後の仕事だ。今までありがとう。私が転生したらまた私に仕えてくれると嬉しいよ。」
オールドの頭を撫でながら先ほど書いた手紙と赤い石の指環と老人ホムンクルスを
オールドの亜空間に入れる。
「この手紙と賢者の石の指輪と頼まれていたホムンクルスを王都の賢者パブロフに渡してくれ。そしてこの仕事が終わったら賢者のところで私が帰ってくるまでお世話になりなさい。」
オールドがじっとアルベルトを見つめる。
アルベルトは優しくオールドを撫でる。
『クカーー』
オールドは大きく一鳴きしてから羽ばたいて
アルベルトの上空で一回輪を描いてから王都を目指して飛んで行った。
オールドが飛んでいくのを見届けるとアルベルト・ラジアスは
ポケットから出した拳ほどの大きさの賢者の石に新しく完成した転生魔法陣を注入した。
この世界の賢者の石とは、魔力を帯びた赤い希少な石のことだった。
この石は錬金術を志す者の全ての人間が欲しがったが簡単には手に入らない代物だった。
このアルベルトの持つ異常な大きさの賢者の石は手に入れたのではなく
実はアルベルト自身が錬金術で作り出した石だった。
文献によれば「硫黄」「水銀」「塩」があれば作れると
錬金術師の間で噂はされていたが、誰も作れず天才アルベルトだけが
作り出すことに成功していたものだった。
この賢者の石は命の源の「命の水」を生み出すことができると言われており
実際に伝説通り何の対価もなく卑金属を純金に変える力を持っていた。
また、噂では体に取り込めばその人の寿命を延ばすとは言われていたが
賢者の石を持ってる人間が誰もいないので実際に試した人間が
いなかったので嘘か本当か誰もわからなかった。
アルベルトも試す気がなかった。
実はアルベルトの作ったメイドのスワニーの体にも賢者に贈った
ホムンクルスにも使用されておりこの賢者の石の作る命の水の力で
スムーズに可動することができていた。
この賢者の石が流通すれば命に対する倫理観が崩れるのはアルベルトは理解していた。
それこそ立派な理由で聖教会の異端審問官に粛清されても当たり前と思われただろう。
しかし、アルベルトが賢者の石を持っていることは賢者以外は誰も知らないので
とやかく言われること無いとアルベルトは考えていた。
アルベルトが今から行う実験とは
自分の生命活動が終わると賢者の石の力で自動的に転生魔法が発令される
壮大な転生システムの一度限りの人体実験であった。
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