第3話 いい日旅立ち

聖世紀206年 ユミルバ冬 帰らずの森 ラジアス邸 アルベルト・ラジアス25歳


アルベルトがイビルの言葉に驚いて答える。


「いやいや、そんなに難しい話ではありません。実はこの間完成したばかりの転生魔法を実験したいなぁと思っていたのですよ。だからね、今年の冬の薪の用意は必要ありませんよ。メイドのあなたはこのコーヒーカップを片付けたら地下で静かに眠っておいてください。この屋敷を丸ごと次元隠蔽して、また後の世界でお会いましよう。」


イビルは突拍子もないアルベルトの考えに


「その・・・この間完成したという転生魔法は本当に大丈夫なんでしょうか? また、以前の実験みたいにこの屋敷のほとんどが大炎上するような結果にならないなら良いのですけどね。」


イビルが心配そうにアルベルトを見ている。

アルベルトは苦笑いをして答える。


「今回は理論上は大丈夫なんだよ。まぁ理論上はね。でも細かいことは実際にやってみないとわからないんだ。」


イビルはより心配そうな顔をしている。

ホムンクルスのメイドは何故か1人納得している。


「はい、わかりました。アルベルト様。また絶対に私と再会してくださいね。私はまだ名前さえつけてもらってないのに、突然のお別れなんて辛いです。涙は出ませんがこの胸のなんとも言えない気持ちは悲しいっていう感情でいいのでしょうか?」


アルベルトがニコニコして


「あっ・・・そう言えば名前まだでしたね。貴女のその感情は悲しいで正解ですよ。そうか今度会ったときは涙も流せるように改良しましょうね。」


アルベルトが1ヶ月も前から生活しているホムンクルスのメイドに

まだ名前をつけていない自分自身に驚いて

今、このタイミングで気が付いて名前を考え始める。


アルベルトが窓の外を見ながら腕を組んでしばらく考えている。

そして思いついたようにポンと腕を鳴らして振り返ってメイドを真剣に見つめる。


「そうだったね。一ヶ月も一緒に暮らしてて本当にごめんね。君の名前を決めたよ。君の名前はスワニーだ。何百年後に誰かがここを訪れて、君をスワニーと呼んだらどんな風貌でもこの私だということにしよう。」


スワニーは感動してアルベルトを見つめる。


「スワニー・・・素敵なお名前有り難うございます。ご主人様も良い転生を、それではまた来世で」


スワニーは、アルベルトから笑顔でアルベルトからコーヒーカップを受け取り

培養カプセルのある地下へと移動した。

彼女がドアを閉めてでていった後イビルがアルベルトに


「良い名前ですが、ちょっと今考えて適当に付けた気がしないでも無いですが・・・」


アルベルトが爽やかな笑顔でイビルの肩に手を置いて


「ほらイビル君、窓の外を見てごらん白鳥が湖に向かって飛んでいくよ。彼女はあの白鳥の様に白くて美しい。それに彼女があんなにも喜んでくれたのでそれで良いじゃないか。」


半分、納得していない表情のイビル


「今、窓の外の白鳥を見たから・・・そこからスワニーなんですね・・・はい、まぁ。」


アルベルトがイビルの肩から手を離して


「さて、イビル君今世最後の仕事だよ。僕の錬金術の成果をまとめたこのレポートの全てを兄上に届けてくれるかい。その後、また何百年後かに私に会うまでこの指輪で眠るなり、移りゆく世界を観察するなりして僕が転生するのを待っていてくれないか?」


と言いながら亜空間からレポートと左手中指から悪魔を形取った指輪をイビルに渡す。


「わかりました。アルベルト様。次に会えるのを楽しみにしております。」


アルベルトが思い出してイビルに言う。


「あっ、ちょっと待って、この兄上へのお願いの手紙も一緒にお渡しして」


イビルはきちんとアルベルトに一礼して


「はい、必ず」


預かったレポートと手紙と指輪を大切に亜空間にしまって

イビルもゆっくりとアルベルトに丁寧に一礼して影に溶け込んで

部屋から居なくなった。


これで家にアルベルト以外誰も居なくなった。

アルベルトは軽く両手を叩いて気分を変えて


「さて、私の研究世界を荒らされたくはないので、ここを次元隠蔽して私は外で訪問者を待ちますか。」


住み慣れた部屋と研究室を見回してから玄関に向かった。

どの部屋も廊下も塵一つなく掃除されていることに1人感心しながら

玄関にある彫刻の向きを少し直して満足げにドアから少し寒い外に出た。

アルベルトは屋敷を振り返り


「またね。」


と小さく呟いた。

そして次に魔力を込めて右手を軽く振ると次元隠蔽効果で

目の前からアルベルトの屋敷が消えてただの空き地となった。


「これで魔法を解除しない限りはこの屋敷は誰にも見つけられないだろう。ううっ、しかし、このローブだけじゃちょっと寒かったなぁ。ああ、やっぱりイビルに言って上着出してもらって羽織ってくれば良かったな。」


両手に息をかけたアルベルトだが、突然思いついたように


「あっそうだ。このまま大人しくタダで殺されるのは、少し嫌だなぁ。聖教会か・・・好きじゃ無いんだよなぁ。何かと目の敵にされてきたからな。ここはアイツらも皆殺しにして、未来の錬金術師たちに簡単に手出しできないように少し抵抗しておこうかな。」









▪️あとがき

頭の中にはもっと話があるのだが、表現する難しさに何クソと思う毎日です。

ご都合主義の異世界の物語。ラブコメ要素も無い、現代知識でマウント取らない、可愛い奴隷買わない。異世界好きの人からしたらみんなが好きそうな要素が全て欠落した小説です。

読んでくれてありがとう。

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