オープンキャンパスと藤岡美咲

 オープンキャンパス当日、あたしは美咲と一緒に大学キャンパスに足を踏み入れた。朝から賑やかな雰囲気が漂っていて、うちの大学に進学を考えている高校生や保護者たちがキャンパスを歩き回っている様子が目に飛び込んできた。


「まゆり、見てよ。たくさんの人が来てるね!」


 美咲はワクワクしているようだった。確かに、どの方向を見ても多くの人々が集まり、イベントブースや展示物を楽しんでいる様子が伺える。


「そうだね、すごく賑やかだね」


 美咲につられて、あたしも笑顔で答えた。あたしもオープンキャンパスの雰囲気に心が躍っていた。懐かしいな。変な感じ。高校の友達を連れ立って来たのは、つい昨日のことみたいなのに、はるか昔だったような気もする。


 パンフレットやポスターを手に取る来場者たちの姿を見ながら、美咲は終始笑顔だった。冊子の手伝いをしただけだけど、イベントの一部になれたと思うとあたしまでなんだか誇らしい。


「まゆり、ちょっとこれをくばってくれるかな?」


 実行委員のポロシャツに着替えた美咲が手渡してきたものは、例の部活紹介の冊子だった。


「わかった、任せて」


 あたしもポロシャツを借りて、通路を歩きながら来場者たちに冊子を手渡していく。多くの人が興味津々で冊子を受け取り、その表情から、キャンパスライフを彩るサークル活動に興味を持っていることが伝わってきた。


「こんにちは、各サークルの活動を冊子で紹介しています。ぜひお手にとってください!」


 高校生たちに笑顔で声をかけ、パンフレットを手渡す。大声には自信がある。冊子はすぐになくなった。


 オープンキャンパスの賑わいは、進路相談コーナーにも広がっていた。美咲はこのコーナーも担当している。仕事がなくなったあたしは、高校生たちが進路について話を聞いている様子を見つめていた。


 カラフルなポスターが並べられたブースの前には、多くの高校生たちが集まっていた。彼らは興味津々の表情でブースの案内を読み、先輩たちに質問をしている。


「美咲、このコーナー、すごく賑わってるね」


 いったん休憩をとった美咲に声をかけると、美咲は頷いた。


「そうだね、高校生たちがたくさん来てるみたい。自分の進路を決めるって大事なことだから、きっと真剣に考えてるんだろうね」


 美咲の言葉に、自分の受験の時のことを思い出した。高校生たちの姿を見て、自分たちも大学生として成長していく中での大切な選択を改めて感じていた。


「藤岡、戻ってきて!」


 進路相談コーナーにいた美咲の先輩が、手招きをしてきた。美咲はこちらに向かって笑顔で頷いて、その方向に歩いていった。


「こんにちは、何かお手伝いできることがあれば、遠慮なく聞いてくださいね」


 美咲は高校生たちに対して笑顔で挨拶し、自己紹介をしている。進路相談にやってきた高校生の目には、未来への希望や不安、そして興味が宿っているように見えた。


「えっと、実は…私、演劇に興味があるんです。でも、プロじゃないし、続けられるか自信がなくて。どうしたらいいんでしょうか?」


 小柄な高校生が緊張した表情で尋ねている。思わず聞き耳を立ててしまった。美咲はその目を見つめ、温かな声で答えた。


「演劇って素敵な趣味だね。進路選びは自分の興味や得意なことを考えるのが大切だよ。演劇を続けながら、それを学べる環境を探すのも一つの方法かもしれないし、他の分野にも挑戦することもできるよ」


 美咲の言葉に、高校生の表情が少しずつほぐれていくのがわかった。美咲との会話を通じて、ちょっとずつ将来の輪郭がはっきりしていく高校生の姿に、知らず知らず過去のあたしの姿を重ねていた。


「ありがとうございました。すごく助かりました」


 高校生が微笑みながら頭を下げると、美咲もニコニコと手を振った。


「どういたしまして。ぜひ、自分の興味を追求して、楽しい大学生活を送ってほしいな」


 あたしはそんな彼女の姿を見て、改めてその頑張りに感銘を受けていた。


「まゆり、お疲れ様!」


 美咲が声をかけてきた。あたしは微笑みながら近づいて、その手を握った。


「あたしは何にも。お疲れ様、美咲。オープンキャンパス、大成功だね」


 あたしは周りを見渡しながら言った。美咲も同意するように頷いた。


「そうだね、みんなが楽しんでくれてるのを見ると、頑張った甲斐があるって思えるよ」


 美咲はそう言いながら、あたしの手を握り返した。


「私ができることなんだろうなって、悩みながら関わったイベントだったけど、本当にやって良かったよ。まゆりみたいに何か打ち込めることがあったらかっこいいなって安直な理由だったんだけどね」

「そうだったの?」

「うん。楽しいね、こういうの」


 あたしはただ自分の好きなことをやりたかっただけ。でも……さっきの高校生の姿が頭をよぎった。あの時のあたしがやりたかったことに、ひたすら打ち込んでここまできた。今のあたしがやりたいことはなんだろう。もちろん演劇も、活動も好き。それは変わらないけれど………。


 オープンキャンパスの一日が過ぎていく。新たな出会いや楽しいひとときが、あたしたちの大学生活をより豊かなものにしていた。

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