私と彼女の仲直り
タカちゃんに相談したその日。私は家でテーブルに向かい、心地よい音楽と薄暗い灯りに包まれながら、深いため息をついた。まゆりにメッセージを送るための精神統一だ。私はマグカップを手に取り、その温かさを感じながら、ゆっくりと口に含んだ。
「元気?」
たったそれだけのメッセージを送るのに、こんなにも勇気がいるなんて。しばらく放っておこうと思っていたのに、なかなか画面から目を離せなくて、そうそうについた既読に、私の心臓がどきりと音を立てた気がした。そうこうしているうちに返信がきた。緊張とほんの少しの期待が交錯する。
「美咲、ごめんね」
私はスマートフォンを置き、ゆっくりとため息を吐き出した。怒ってないみたい。まゆりも仲直りしたいと思っていてくれたみたい。それがわかっただけで、思わず微笑みがこぼれ、心が少しずつ安らぎを取り戻していった。
メッセージのやり取りでは絶対に話がこじれると思ったので、直接会いたいと伝えた。まゆりは快く応じてくれた。
カフェの扉を開けて店内に足を踏み入れると、心地よいコーヒーの香りが鼻腔を満たした。柔らかな灯りが店内を照らし、温かみのある雰囲気が漂っていた。木製のテーブルと椅子が整然と配置され、カウンターではバリスタが器用にコーヒーを淹れる様子が見られる。店内の奥には、ソファ席があり、そこには本を読む人や友達と楽しそうにおしゃべりするグループが座っている。
私はゆっくりと店内を見回し、カウンターの近くにあるテーブルに向かった。まゆりはそこにいた。小さな窓から差し込む光が、綺麗な金髪のショートカットを照らしていた。
「美咲」
まゆりが私に向けた笑顔以上のものを、私はこれまでもこれからも見ないかもしれない。ああ好きだなぁ、なんて月並みなことしか言えないけれど。
「ありがとう。連絡してくれて。あたしから連絡するって言ったのにごめんね」
ちょっと湿っぽいまゆりの声に、高鳴った心臓がきゅっと締め付けられるみたいだ。私の心臓、忙しいな。
私がカフェオレを注文し、しばらくの間、沈黙が広がった。私はその間、ゆりこの目を見つつ、彼女との会話のリズムをつかもうとしていた。
「美咲、その服…」
まゆりがそこで言葉を切る。
「あ、これ?」
私は自分の着ているワンピースを指さす。
それは、私たちが一緒に買い物に行った日に、まゆりが選んでくれたワンピースだった。ベージュが基調の裾のプリーツがかわいいワンピース。あれから何度も着ているけれど、お気に入りなのでちょっと季節外れになっても着ている。まゆりは服選びにアドバイスをしてくれたこと、どのくらい覚えてるんだろう。その時の楽しいひとときは、私には温かな思い出として刻まれているけれど。
「一緒に選んだ服だよ。覚えてる?」
少し頑張って口角を上げて言うと、まゆりはにっこりと頷いた。
「もちろん覚えてるよ。その服、すごい似合ってる」
まゆりは嬉しそうに笑っている。
「ありがとね、まゆり。二人で選んで、本当に良かった」
笑顔で視線が交わる。どちらともなく、また笑う。私たちの関係が、ただの友達以上で、特別な存在であることを再確認した瞬間だった。
「美咲、あの…」
まゆりが小さな声で言葉を続ける。
「あたし、一方的にため込んで、当たり散らして、本当にごめんなさい。いろいろ重なって、すごくショックだったの。でも、その後もずっと、美咲のことを考えてた」
ふと、アドバイスをくれたタカちゃんの顔が浮かんだ。『お互い傷つけたくないって距離おいて、そのせいで近づけなくなってる。ぶつかり合ってやる! って気概もたまには必要なんじゃないの?』彼女の声が耳に響いて、勇気を与えてくれるようだ。これがあなたの心に直接……いや、なんでもない。
「まゆり、私もごめんなさい。あの時、私ももっとまゆりの気持ちを理解しようと努力すべきだったし、無神経なこと言ったと思う。でも、私、考えたゃ」
だ、大事なとこで噛んだ……。まゆりはクスッと笑って、落ち着いて、とジェスチャーしながらブラックコーヒーのカップを手に取り、口に運んだ。それにならって、カフェオレの入ったコーヒーカップを手に取り、一口飲む。ちょっと落ち着いた。
「まゆり、私思うんだけど、私たちはお互いを傷つけたくないから、喧嘩を避けてしまっていた気がするの。それが逆に、まゆりが溜め込む原因になってるのかもしれないし、私たちの関係を複雑にしてしまったのかもしれない」
まゆりはうなずきながら、私の言葉に耳を傾けてくれた。
「私たちはお互いを思いやっていて、それが逆に言い合いにくくしていたんだと思う。これからも大切なことは変わらない。ちょっとカッコつけてもいたい。でも私は、美咲が何でも話してくれる存在でありたいし、長く付き合っていきたいから、喧嘩も愚痴も言い合えるようになれたら嬉しい」
まゆりのラメがのった涙袋を、じんわりと透明な滴が伝っていった。でも、私も喧嘩〜のくだりでそうなってたから、おあいこ。
「そうだね、美咲。これからは、遠慮せずに何でも話し合える関係でいたいし、美咲と一緒に成長していきたい。あたし、ちょっとカッコつけすぎだったんだね。言われてはじめて気づいたよ」
私とまゆりは、お互いの手を取り合った。その瞬間、過去の葛藤や誤解が、新たな一歩に変わっていくのを感じた。
「ほんとに、ありがとう、美咲。一緒にいることが、本当に幸せ」
泣いているんだか笑っているんだかわからないお互いの顔を見ながら、私たちはしばらく、手を握りあっていた。
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