百合坂ゆりこと私のオタ活

「藤ちゃ〜ん、次の授業ってレポートあったよね」

「うん。提出先webだよ」

「ありがと〜」


 講義前に、友達とお喋りをしている。


 先ほど私にレポートについてきいてきたのは、高木梨花、通称タカちゃん。大学に入ってからできた講義を一緒に受ける仲間であり、ランチ友達でもある。なぜか友達を名字の漢字一文字にちゃんづけで呼ぶので、自身も高木の高でタカちゃんと呼ばれている。


「あ、ねぇねぇ。この前さ、藤ちゃんのおすすめしてくれた配信者見たんだけど」

「ホント? どうだった?」

「藤ちゃんウチの好み知りすぎじゃない? シリーズものの実況で時間が溶けちゃって大変よ」

「でしょ〜?」


 化粧っけのない顔、地味めのアニメキャラの絵がついたTシャツ、うなじで一つにくくった髪。私のタカちゃんの第一印象は、話しやすそう、だった。それはタカちゃんも同じだったようで、何回か同じ授業を受けるうちに、意気投合したのだ。


 タカちゃんはオタク友達である。ゲーム実況以外の配信者も好きだと言っていたけれど、なんとなくゆりこのことはオススメできてない。別に百合コンテンツだからとかそういうことじゃなくて、まゆりが私の彼女だから身内贔屓みたいで……。ちなみに付き合っている人がいることもタカちゃんに話したことはない。隠してるわけじゃないけど、恋バナを特にしないから言う機会がないのである。


 ちなみにタカちゃんはサークル仲間でもある。私が所属しているのは映画研究会。いわゆるオタサーである。うちの大学にはオタサーがいくつかあり、映画研究会は女子が多めで居心地が良かったので入ることにした。オタクもいろいろなので、漫画やイラスト、動画など創作してコミケに出るなど、オタサーの中でも『ガチ勢』のサークルはちょっと空気感が違う。


 二次創作とかコスプレとか、オタクの中でも能動的な趣味を持ってる人が集まるサークルは、見学には行ったけどなんとなく馴染めなかった。オタクと言ってもいろいろいる。


「てかさ〜。藤ちゃんって幅広オタクだよね」

「そうかな?」

「アニメも配信者も見るし、この前なんか難しそうな洋画見たって言ってたし」

「別に難しい洋画じゃないよ、あれは。でも確かになんでも見るかもしれない」


 イケボが好きじゃないとか好みはあるけれど、けっこう食わず嫌いせずなんでも見る方かもしれない。女オタクが通りがちな界隈は一通りかじってるかも。


 なんというか、オタクのくせに特化してないというか、ライトオタクというか。私はまゆりみたいに、自分のやりたいことがはっきりしてない。まゆりほどキラキラしていなくても、という言い方は失礼だけど、自分のやりたいことを貫いている人はかっこいいな、と思うし、比べて自分は……とも思う。無キャっていうのかな。そこまでネガティブになってるわけではないけど、なんとなくコンプレックスみたいなものは持ってるのかもしれない。


「逆に何は見ないの、藤ちゃんは」

「う〜ん。歌い手グループとか? あとVtuberもあんまり見ないかも」

「え〜意外。ディープな配信者よく知ってるからそのあたりの界隈詳しいのかと思った」


 ちょっとドキっとした。私が登録者の少なめの配信者を見るようになったのは、確実にゆりこの影響だ。たまたま見たゆりこの配信がすごく良かったから、配信者って登録者数じゃないな、なんて月並みな学びを得た。オタクあるあるだと思うけど、こんなすごい人が見つかってないなんて! と思うと周りに布教したくなるので、タカちゃんには必然的に『ディープ』な配信者ばかりオススメしているのかもしれない。


 布教するにあたって


「こんな人知らなかった」

「すごいね、詳しいね」

「マイナーなものも知っているんだね」


 なんて言葉をかけてもらいたがるのは、オタクのくだらない見栄なのかな。マイナーなものしってますマウントほどみっともないものはないから、気をつけよう……。


「どした? 藤ちゃん、黙っちゃってさ」

「……いやぁ、マイナー推しがアイデンティティになったらまずいな、と」


 タカちゃんはもともと丸めの目をもっと丸くした。タカちゃんは特別美人と言うわけではないけど、表情が豊かでかわいい。……浮気じゃないよ? そう言う意味ではない。


「藤ちゃんはセンスいいし、幅広オタクだからこそちょっと興味あるかも、くらいのジャンルにハマらせる才能あるんだから、そこ誇りなよ。別に専門家の話が聞きたくてお喋りしてるわけじゃないんだからさ」

「タカちゃんいいこというね。励まされちゃった」

「でしょ? 生協でアイス奢って」

「え〜。高いのはダメね」

「うそうそ! 冗談だって」


 タカちゃんに励まされてしまった。やっぱり友達は大事だ。


「あ、そうだ。藤ちゃん、今日の午後空いてる?」

「今日?」

「バイトまで時間余ったからカラオケ行かない?」

「お、行く!」

「決まりね!」


 講義が終わると、私たちは急いで荷物をまとめて立ち上がった。生協の食堂はすぐ席が埋まってしまうのだ。バタバタとランチをして、カラオケに行って、たまにはこういう日も悪くない。


 キラキラはしてないけど、こういうオタクがいたっていいんじゃないかな。

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