活動の行方

あたしの活動と藤岡美咲

 誰だ、頑張れば収益化できるなんて言ったやつは……。


 美咲に配信機材を自慢して一週間もたたないうちに、あたしはいわゆる『数字病み』に陥っていた。それまでニッチなあたしのチャンネルの登録者数は、じわじわと地道ながら一定のペースで伸びていたのに、それがピタリと止まってしまったのだ。


 あたしは別に配信で生活をしたいわけではない。いわゆるエンジョイ勢なんだと思う。あたしの趣味全開の配信スタイルだし、視聴者の需要があるならなんでもできるタイプではないし、毎日配信とか無理ゲーだし……。でもエンジョイ勢にも見られている嬉しさや、自分の好きを共有できた時のなんともいえない、何にも変えがたい喜びはあって、だからこそ配信をしているのだ。


 数字は数字だし、楽しんでくれている今の視聴者さんが喜んでくれるなら閉じコン上等だとは思ってる。収益化できたところで収入なんて微々たるものだし、それをあてにしてたら活動なんてできやしない。でも、視聴者さんは残念だけど毎日毎秒をあたしの配信に使えるわけじゃないし、飽きたり好みじゃないシチュエーションだったりで離れてしまうこともあって、好きを共有し続けるにはある程度、ご新規さんの流入が必要だ。


 他のプラットフォームは使ったことないから知らないけれど、あたしがいるところは派手な炎上でもしない限り、登録者数が減ることは滅多にないので、あたしは登録者の伸びをご新規さんの獲得数と捉えている。この解釈に則って考えると、あたしの近頃の配信は、ご新規さんには刺さっていないということだ。……へこむなぁ。


 何がまずかったんだろう。アーカイブのサムネイルを見ながらぼんやりと考える。


 あたしの最近の配信タイトルは、『雑談:月初めの活動方針決めと最近見た映画の話』、『ロールプレイASMR:年下カノジョが貴女に耳かきをしたいそうです【百合】』、『朗読:甘い百合小説をささやき声で【睡眠導入】』などなど。


 う〜ん。わかりやすいと思って最近入れ出した【百合】とか【睡眠導入】とかのキーワードが余計だっただろうか。タイトルやサムネは慣れで作ってしまっているけど、今更ながらダサくないかな。あとサムネイルに使っているイラストが偏ってるから、イラストレーターさんに新しいイラストを依頼した方がいいかな? となると、依頼料いくらぐらい必要かなぁ。


 活動資金もそうだけど、配信の雰囲気はどうだろう。ご新規さんお断りの空気感になってないかな。この間、ちょっと気持ち悪いコメントが流れたから注意してしまったけど、注意しないでミュートなりブロックなりで対処した方がいいのかなぁ。注意してる時点で配信に入ってきた人がいたら、いきなりよく知らない人がよく知らない配信者に怒られてるところを見ることになるわけだし。スパムの対処に迷ったことはないけど、自我を感じる視聴者さんからのコメントは、いくら気持ち悪くてもブロックしづらい。大事なコメントだし。


 ASMRのシチュエーションも、偏りがちなのがマンネリに繋がっているかもしれない。でも似たような配信にある炭酸ヘッドとか、オイルマッサージとかは機材的に難しいので、耳かきばっかりになるのはしょうがない……なんて思ってるからダメなのか。あとASMRの配信でありがちなのってなんだろう? ……歯磨き? 別に嫌なわけじゃないけど、百合シチュで歯磨きはなんか幼児退行っぽくてさらにニッチになってしまう気がする……。


 ニッチといえば、あたしにしては一般向けを狙ってやった同時視聴が期待したほど、どころか全くと言っていいほど盛り上がらなかったのも、へこんでいる原因の一つ。あんなにコメントの少ない配信久しぶりだった。一般向けとかふわっとしたこと言ってるから刺さらないんだろうか。でもマンネリは避けたい……。


 ……悩んでも病んでもしょうがないのはわかっているんだけど、モヤモヤしてしまうのは、配信者のサガなんだろうか。そういえば美咲が、コメント欄本名誤爆事件を起こしたのも、あたしが数字どころかコメントがつかないで悩んでいた時期だった。おっちょこちょいで、だけど温かい言葉に、ずいぶん救われたんだっけ。


 カメラロールのお気に入り欄をスクロールすると、当時の美咲のコメントのスクショがあった。コメントした本人と付き合っちゃったもんだから、最近はこのスクショを見返すことも減ったけど、辛くなった時はよく見返していた。


 そう考えると、配信者『百合坂ゆりこ』もチャンネルも、ずいぶんと成長したものだ。あの頃のあたしに、今の悩みを伝えたら、贅沢なこと言うなって怒るだろうな。藤岡美咲さんと付き合ってるよ、なんて言ったら、ぶっ倒れるんじゃないかな。


 ホントに、悩んでも病んでもしょうがないのは、わかりきってることなんだけどね。美咲のコメントを見ながら、センチメンタルになってしまう夜だった。そんな日もあるよ、と自分に言い聞かせる。


 美咲に会いたいなぁ。

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