リスナーのおすすめと藤岡美咲
「今日は同時視聴枠で見るものを決めたいので、募集したおすすめに何が届いているか、見ていこうと思いま〜す」
主に百合ASMR配信をしているあたしこと百合坂ゆりこだけど、マンネリ防止のために色々している。同時視聴もその一つだ。
マンネリというと、百合ASMR楽しくないの?! とかあらぬ疑いをかけられそうだけども、そういうことではない。とっても楽しいし、やりたい台本もいくつかあるし、あたしのモチベーションはすこぶる高いのだけど、如何せんニッチというか、初見さんが入りやすい内容ではないことは確かだ。
配信に人を呼ぶためにも、『百合坂ゆりこ』という配信者に対する信頼度を上げていこう、というのが、今のあたしの裏テーマなのだ。
ちなみに配信に人を呼びたい、チャンネルを伸ばしたい、みたいなことを口にすると、『収益化して儲けたいんですか?』『現状が不満なんですか?』といった趣旨のコメントがつくことが、まれにあるけれども、そういうことでもない。ただ配信に来てくれている人が、楽しんでくれたら嬉しいし、あたしが好きなものはたくさんの人と分かち合えたらもっと楽しいなと思うだけ。
高校生から配信を始め、活動休止を挟んだものの、チャンネル登録者さんはありがたいことに増えてきている。収益化に必要な登録者数も、正直頑張れば狙えるラインにはいると思うけど、それを目標にしたいわけではない。それよりも配信に来てくれる人が増えてくれる方がもっと嬉しい。
「やっぱり女性同士の恋愛映画のおすすめが多いですね〜。このキャラとこのキャラの関係性がいい! みたいなおすすめ助かります。『金髪ミステリアス年上美女としっかり者の年下女子の恋愛』この説明、気になりますね〜。あ、あとアニメのおすすめもありがとうございます! 『メイドさん同士のわちゃわちゃが尊い』あ〜なるほど」
匿名で意見を募集できるツールを使って、リスナーさんのおすすめを見ていく。
洋画のシリアスな恋愛ものと、女の子しか出てこないアニメのおすすめが多いかな? こういう系統が好きなリスナーさんが多いということだろうか。二次創作に詳しくないタイプなので、カップリング固定でおすすめされるとちょっと見づらいなぁ。いざ視聴してみてあんまり萌えないカップリングだったらどうしよう、というか、二次創作的な楽しみかたをして原作が好きな人から怒られないだろうか。
「あ、ミッチーさん、こんばんは。『百合坂さんはどういう百合がお好きですか?』う〜ん、難しいですね。でもいい質問! 配信を見ている方はご存知だと思うんですけど、あたしかっこいい女の子が大好きなんですよ。わかります?」
わかる、といったコメントに加えて、ちらほら『こういう子?』とキャラ名を出してくれる人もいる。一口にかっこいい女の子と言っても帰ってくるリアクションは十人十色だなぁ。ちなみにあたしは……
「ふじっこさんコメントありがとうございます。『ゆりこさんのカッコイイ女子、かっこいいけどあくまで女の子らしくて可愛いところが好きです。ちょっとあざといところも沼』キャー嬉しい! 意識してたところなので嬉しいです〜! あの、男装の麗人はまた別枠で好きなんですけど、あたしは女の子っぽい女の子の中のイケメンなところが大好きなんですよ!」
好きが共有できるって嬉しいな。
※※※
「美咲、おはよ〜」
「あ、まゆり、珍しいね、この時間に会うの」
あたしと美咲は学科が違うので、授業ではあまり一緒にならない。ランチかおやつのどっちかは二人で食べるようにしているけれど、朝は待ち合わせをすることはない。実はあたし、朝が弱いのだ。朝のひっくいテンションで美咲に会いたくない。でも今朝は美咲に会いたかったところなのでちょうど良かった。
「昨日の配信、見てくれた?」
「う、うん、まあね」
「美咲にあたしのカッコイイ女子が刺さってて本望だよ」
「……なんでバレてるの。いいけどさ」
「それでさ、美咲はどんな映画とかアニメが好きなの?」
「えっ、私!? 私は……」
美咲は困ったような顔をする。
「そういえば、美咲の好きなものの話、そんなに聞けてないなって」
「そんなこともないと思うけど……」
「あるよぉ。だってあたしの話ばっかりじゃん」
「そうかな。私はまゆりの話聞いてるの楽しいからいいんだけどな」
美咲は恥ずかしそうな顔で笑っている。あたしの彼女かわいいな。全世界に自慢したい気分と、独り占めしたい気分は半分ずつ。
「無理にとは言わないけど、美咲の好きなものも知れたら、もっと楽しいと思うんだよね」
だって好きが共有できるのは嬉しいことだから。
「ん〜、じゃあ、見たい映画があるんだけど、一緒に見に行かない?」
そう言って美咲が見せて来たのは、マイナーな洋画のポスターの写真だった。
「意外! 洋画好きなの?」
「うん。洋画の中でも、アクションとかサスペンスより、日常を描いたものが好きかな」
「へー。教えてくれてありがとう! じゃあ今度も週末は映画館デートだね!」
「う、うん」
美咲からデートに誘われたのも嬉しかったし、後日見に行った美咲のおすすめ映画はすごく面白かった。でも美咲のこともっと知りたいし、もっと二人で思い出を作っていきたい。そんなことも思った。あたしってけっこう欲張りなのだ。
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