高坂まゆりとショッピングデート

「あ、美咲、おはよ」


 今日もまゆりは美人でかわいい。眩しい……尊い……。


 本日は恐れ多くも、お買い物デートの日である。私にしては新品の服を下ろして、いわゆる『服を買いに行くための服』を着てきたつもりだけど、まゆりを見ると自信なくなっちゃうというか、自信なんてものが毛ほどもあったことが不遜というか、なんというか……。一枚で決まるからワンピース最強! とか思ってる時点でダメなんだろうなぁ……。


 まゆりはいつもオシャレだ。自分に似合う服がわかってるし、着こなしも一貫したスタイルがあって品がある。きれいな金色に染めたショートヘアだって、毎朝ブローしてセットしてるようだし、爪だってネイルサロンに通ってると聞いたことがある。私はと言えば、髪を伸ばしているから頻繁に美容院に行かなくて楽チンなのだけれど、ちょっと毛先がパサパサしてるし、爪は切りすぎて深爪ぎみだ。


「まゆりは今日もオシャレだね」

「えへへー、美咲とのデートだから頑張っちゃった♪」


 こういうセリフがサラッと言えるのは、演技達者なボイス活動者『百合坂ゆりこ』だからなんだろうか。いや、まゆりだからだろうなぁ。


 染めているとは思えない艶々キューティクルの金髪ショートに、オフショルにショートパンツと露出はやや多めながらも、韓流アイドル系のカッコ良さを感じる服装。ギャルっぽいというか、実際ギャルな部分はあるんだろうけど、まゆりは徹底して自分がかわいいと思うものしか身につけない。媚びないカッコ良さというか。まゆりの顔立ちが整っていることは確かだけど、猫のように釣り上げたアイラインや、ピンクのアイシャドウは、それ以上に個性やセンスの良さのあらわれに見えた。


「それじゃ、レッツゴー!」

「おお〜」


 まゆりの提案で一緒に服を買いに行くことになったのだけれど、本音をいうとちょっとだけ不安でもある。まゆりと私は好きなファッションの方向性が全然違う。せっかく見繕ってもらったところで、着れるかなぁ。


 人生初めての恋人とのデートは、楽しいんだけど、たまに気後れしてしまうことがある。こんなにタイプが違うのに、まゆりは私と言って楽しいのだろうか? 本当は気を使ってくれてるんじゃないかな。そんなことを思うと、家でゆりこの配信アーカイブ見てたいなんて、失礼な感想が浮かんでしまう。なんて贅沢でわがままなオタクなんだろうか。


 ちょっとだけ自己嫌悪にかられながら、まゆりの後をついていく。


「美咲〜、こういう服どう?」


 き、きた……。ド派手だったり、露出多かったりしたらどうしよう……。なんて考えていたけれど、まゆりが見せてくれた服はシンプルめのワンピースだった。


「……好き、かも」


 ベージュが基調の裾のプリーツがかわいいワンピースは、とても私好みだった。


「でしょ〜。こういうの好きそうだなって思った。似合うよ、こういう系統」


 ……まゆりには、全部お見通しなのかもしれない。


「試着してみる?」

「うん」


 店員さんに声をかけて、フィッティングルームを借りて着替える。鏡に映るのは、いつもよりちょっとだけかわいくなった私だった。まゆりも似合ってるって言ってくれるかな。ちょっとドキドキする。


「どう……?」


 カーテンを開けて、恐る恐るまゆりの反応をうかがう。この瞬間はちょっと苦手。店員さんや一緒に来た人がフィッティングルームの前にいるとは限らないし、二人で会話が盛り上がってたら気まずいな、なんて考えてしまう。まゆりは待っててくれたようだ。


「あ、やっぱり似合う! ね、このカーディガンも着てみて!」

「あ、はい……」


 そうして、言われるままに何枚か着せ替え人形みたいに服を着せられてしまった。なんだか恥ずかしいような嬉しいような複雑な気分だ。でも、まゆりが楽しそうならいいかな、なんて思ってしまうあたり、だいぶ末期な気がしてきた。


 いや。まゆりが楽しそうだからいいかな、じゃなくて、私が好きそうなもの、私に似合うものをまゆりが考えてくれているのが伝わってきて、すごく嬉しかった。嬉しすぎて、ちょっと恥ずかしかった。


「これ、買おうかな」

「ほんと!?」

「え、えっと、まゆりが選んでくれたから……」


 可愛くてかっこいい、私の恋人は少しだけ驚いた顔をして、それから満面の笑みを浮かべた。


「わー、やったー! じゃあ、あと靴とバッグも買いに行こ!」

「えっ、ちょ、ちょっと」

「いや?」

「まさか!」


 それから二人であーだこーだと言いながら、全身着替えられるくらいアイテムを揃えたし、それ以上にウィンドウショッピングを楽しんだ。


「ふぅ、いっぱい買い物したねー」

「うん。なんかごめんね、荷物持ってもらっちゃった」


 紙袋を持ってもらってしまっていることを申し訳なく思いつつ、私はまゆりの隣を歩く。


「大丈夫だよ。美咲こそ、いっぱい買わせちゃったけど大丈夫? あたしテンション上がってたくさんおすすめしちゃったからさぁ。無理に買わせちゃってない?」

「大丈夫大丈夫! 全然ない!」


 むしろ、いろいろ勉強になった。私が今まで見ていた世界とは全然違う世界を垣間見ることができたというか。こういうの、なんて言うんだろう。新鮮、というのとも違うな。ただ、楽しいというかワクワクするというか、とにかくもっと知りたいという気持ちが強くなった。


「次はどこに行こうか」

「んー、また猫カフェ行かない?」

「いいね」


 今日は本当に楽しかった。こういう日が毎日続いたらいいな。……なんて、私は何をフラグみたいな! それに毎日じゃなくていいかな。だって、


「デート、楽しいね!」


 そう言って笑うまゆりが、本当にかわいくて、尊くて、大好きだから。毎日はちょっと、心臓が持たない。

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