甘い日々
猫カフェデートと藤岡美咲
彼女と猫カフェデートに行くため、駅で待ち合わせをしている。この場合の彼女とは"her"ではなく"MY GIRLFRIEND"である。
彼女は真面目だがおっちょこちょいなので、待ち合わせ時間の十五分前に着こうとして五分前になるタイプ、というあたしの予想は当たり、待ち合わせの五分前に慌てた様子でやってきた。
「ごめん待った?!」
「ううん、待ってないよ」
ちなみにあたしは一時間前について近くの本屋さんを物色するタイプである。それよりも気になったのは彼女の格好だ。
彼女こと美咲はファッションに興味があるタイプではなく、普段はダボっとしたパーカーにジーンズ、みたいなカジュアルでラフな格好でいることが多い。似合ってるし、それはそれでかわいいのだけれど、今日はいつもとは様子が違った。
「美咲〜! 超かわいい、今日みたいなガーリーな服も似合うね」
安直すぎてうまく褒められた気がしないけど、美咲はブラウスの上から、後ろにリボンのついたキャミソールワンピを着ていた。袖がふんわりした白のブラウスと、すっきりしたシルエットのブルーグレーのワンピは、美咲の本当はスタイルがいいところとか色白で肌が綺麗なところとかを引き立てていて、よく似合っていた。
「そ、そうかな。まゆりが褒めてくれるなら、もっと着ようかな」
美咲が軽く首を傾げて微笑んだ。本人が気がついているかは知らないけれど、笑った時、右頬に浮かぶ笑窪があたしは好きだ。
美咲がかわいい服を着てくれるのはもちろん嬉しいし、あたしのためにおしゃれしてくれたと思うともっと嬉しい。
女子のかわいいは信用ならないというけれど、あたしの『かわいい』は最大級の賛辞だ。あたしの彼女は世界一かわいい。
「ね、今度一緒に服買いに行こうよ!」
「うん、そうだね」
次のデートの約束もすぐに取り付けることができた。楽しみだ。
猫カフェは、駅から歩いて十分くらいの場所にあった。店の看板には『ミャウンテンカフェ』とあり、ロッジハウスっぽい外観が良い雰囲気だ。
「わあ……! 可愛いねえ」
美咲のテンションが上がっている。店内に入ると、ドアベルがチリンと鳴った。
「いらっしゃいませー」
店員さんが迎えてくれたので、二人で席へ案内してもらう。四人掛けテーブルの窓際の席だった。お店の中は木目調の壁や家具に囲まれていて、床は板張りになっていて落ち着いた空間になっている。
あたしたちは荷物を置き、メニュー表を手に取った。ランチタイムのお得セットやパスタ、オムライスなどの軽食から、コーヒーや紅茶まで幅広いラインナップがあった。ドリンク付きのお得なランチプレートもあったので注文してみることにする。
「あたしはこのパンケーキのサラダセットにしようかな。あとミルクティー」
「あ、じゃあ、私も同じものにする」
メニューを決め終わると、女の人がオーダーを取りに来てくれた。
「猫カフェって、食べるものはそんなに……ってイメージだったけど、ここは食べ物も美味しそうだね」
「ほんとだね〜」
話しながら待っていると、一匹のサバ猫がこちらを伺っていた。あたしがゆっくり近づくと、そろりと足元にすり寄ってきた。
「かわいい〜」
思わず声が出る。美咲の方を見ると目がキラキラしていた。一緒に触りたいのかと思ったら、そうでもないみたい。
「抱っこしてもいいですか?」
店員さんに声をかけると、
「どうぞ」
と言って抱き方を教えてくれた。腕の中にすっぽり収まるサイズ感で、柔らかくて温かい。サバ猫ちゃんは嫌がりもせずじっとしていた。あたしはつい夢中になっていた。
実家の猫が恋しい。実家から大学までは通おうと思えば通える距離だけど、電車で二時間かかるし、録音ブースを気兼ねなく作りたくて一人暮らしを始めた。でも思った以上にホームシックになっている。美咲は実家暮らしでいいなぁ。
電話はよくしてるけど、いつでも会えた今までと違って、今は気軽に会うこともできない。こんな気持ちになるなんて思ってなかったな。
「……まゆり? どうしたの?」
美咲の声ではっと我に返る。いけない、考え事をしていた。
「ごめん、ちょっとボ〜っとしてた」
パッと美咲の方を振り返ると、彼女はスマホを構えていた。パシャ、とシャッター音が鳴る。
「へへ、美女と猫」
美咲が撮った写真を見せてくれる。
「え〜! あたしも撮りたかった〜!」
「ごめんね。ほら、これあげるから許して」
「美咲も猫ちゃん触りなよ」
「う、うん」
あれ、もしかして美咲って猫そんなに好きじゃないんだろうか。だとしたら悪いことしたなぁ。少し心配になったけれど、美咲はおそるおそるといった様子ではあったけど、さっきのサバ猫を撫でている。
「猫飼ったことある?」
「実はずっと憧れてたんだけど、うちお母さんが部屋汚したくない人で、動物飼ったことないんだぁ」
「そっか。たしかに猫は壁紙とか汚すしね」
猫を撫でている間に、あたしたちが注文したパンケーキが運ばれてきた。ふわっとした生地の上に、たっぷりのバタークリームが乗っていてとても美味しそうだ。
「いただきます」
そう言ってパンケーキを頬張る美咲を、今度はあたしが写真に収めた。
「あ、せっかくかわいいプレートなのに写真撮らないで食べちゃった」
「あたしが撮った写真送るよ〜」
初めてのデートは、とっても楽しかった。美咲も楽しんでくれてるといいな。
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