第7話 見つけた呪い
そんな不安を抱えながら、花川くんに抱かれていた時だった。今日はゴムを切らしていて、図らずもナマ。初めてナマを味わう花川くんは、いつもより切なそうな声を上げていた。しかし、ある一点を境に動きを止める。
「どした? 花川くん……?」
「……見つけました」
「ん? 何を?」
「呪いです。すごく小さくて微弱で、僕自身に触れたら弾けました」
「そ、それって私の石化と関係あるの?」
「解りません……でも礼田さんの体内にあったんだから、関係無いとは言い切れないんじゃ? しかし凄いな、かなり敏感になった陰部、しかも0.01ミリのゴム越しだと判らないくらいの弱さと悪意……この一つで石化を開始させたとは思えない。絶対に複数存在してる……」
花川くんは挿入したまま、私に向かって超能力を放った。手のひらをアチコチに向け、全身を通す感じで。
「……こんな簡単に呪いを解除出来るとは思えませんが、一応」
「ありがとう!」
「……!? また一粒弾いた!?」
私は喜んだのだが、花川くんは厳しい表情を浮かべている。
「やはり先ほどの簡単な術では呪いの粒を消せないんだ。つまり呪いの粒が――礼田さんに外部から通せる、超能力の限界値より硬いのか……なるほど」
花川くんはわなわなと震えていた。私は逆に原因が特定された事に喜ぶ。これで私の石化が治るかもしれないのだから。そう花川くんに言うと、かなり難しそうな顔が返ってきた。
「……この呪いを解除するには、超能力者が直接触れないと無理そうです。例えば開腹したとして……あと幾つあるか判らない呪いを、礼田さんの臓器にダメージを与えず退治、なんて器用な真似が出来るでしょうか?」
「そりゃあ厳しいな……」
「ただまぁ、試したいことは存在します。僕の魂を礼田さんの中に入れて、内部から身体中の呪いを弾く。これしかない」
「その間、花川くんの身体はどうなるの?」
「仮死状態ではあると思います。大丈夫、すぐに戻りますよ!」
そうは言ってもかなり難しいのだろう、花川くんの陰部はしおしおに萎えていた。
「よし! 時間に猶予が無いかもしれないので、今すぐ行きます!」
花川くんは有無を言わせず私の隣で横になる。
「ちょっ、花川く――」
私が声だけで引き留めても遅い。花川くんはスッと生気を失った。人が亡くなるというのは、こういう事なのかもしれない。私の呪いのせいで一生魂が戻らなかったらと思えばゾッとする。こうなった以上、私に出来るのは祈る事のみだ。
(特に信仰していないけれど神様仏様、どうか花川くんを元気な姿にしてください。私の事は二の次で結構です……!)
私は心の中で、そう唱え、花川くんをじっと見つめた。ぴくりとも動かない花川くんを見ていると、怖くて怖くて仕方ない。見ていられなくて目を閉じたら、私の身体の中から「力を抜いてください」という花川くんの声が聞こえてきた。
「花川くん!?」
『きっと上手く行きますから、ゆったりして、出来れば眠ってください』
「無理でしょ!?」
『礼田さん、意地悪を言わないでください』
そういう花川くんの声は明るい。だったら私も最善を尽くさねば。
「頑張って寝る!」
『約束ですよ……では、作業に集中します……』
それっきり花川くんが静かになった。何か考えたら花川くんに聞こえてしまいそうなので、なるべく頭を空っぽに――そう考えたところで、私の記憶はスッと途絶えた。
次に私が目覚めた時、視界には健康そのものの花川くんが映っていた。すうすう眠っているけれど、魂はどうなったんだろうか。さっそく首尾を聞きたかったが、それも悪い気がしてどうしたもんだか。
でも花川くんが無事かどうか確認したくて、結局は起こした。
「ふぁ~、おはようございます礼田さん……」
「大丈夫!? 何ともないの!?」
「ええっと……僕も礼田さんも大丈夫ですよ。呪いの粒は全部消したし、僕も戻ってこられたしで万々歳です」
花川くんは魂にも超能力が宿っていて、すり抜けていく小さな呪いをプチプチと潰してくれたらしい。花川くんは、しつこい位に私の体内を巡回し、呪いを見掛けなくなって数時間してから私の身体を抜けたとか。
「そしたらですね、礼田さんが可愛らしい顔で眠ってたので、お相伴に預かりました、はい」
「やだ~、そんなの起こしてよ~!!」
「あはは、ごめんなさい……まぁとにかく、これで礼田さんの身体から呪いは消えました。石になった部分が戻るかどうか判りませんが、これ以上の進行は無いんじゃないかと」
「そ、そうなんだ……!」
私は安心し切ったらしく、ぼたぼたっと両目から涙が零れてくる。花川くんは言葉にならないという感じで私に抱きついた。
「はぁ……嬉しい。礼田さん、大好きです……!」
「おー、六十二回目! ありがとねー、花川くん!」
「で、その、早速なんですが……」
花川くんが圧し掛かってくる。割と強めに抱かれるんだろうなと思っていたら、それ以上。しかもお互い常時ぼろぼろ泣いており、ティッシュが涙を拭うのと鼻をかむ事に大量消費されるという、珍妙な抱かれ方。でも今までで一番幸せだった。
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