最終話 5億あげないわよ

「良子ちゃんに会いたくても会えない。

良子ちゃんは私が一番だったのに、今は、和くんのお嫁さんと仲良くしている。

私は、お兄ちゃんのあの女を義姉と認めない。私には、”あね”がいない。”いもうと”もいない」

悲しくて淋しくて涙がでた。

「うるさいわねえ。それじゃあ、1千万円あげるって言ったら? すぐ来るわよ」

「良子ちゃんは、そんな子じゃない。1億円って言っても来てくれない」

「うるさい。あなたに5億円あげないわよ」

母は、急に何を言いだしたんだろう。


「5億円あげないって何? どういうこと?」

「茂男が亡くなったら20億。私に10億、法律で決まっている。秀くんとあなたは5億ずつでしょう? 私の10億の半分をあなたにあげようと思っているの」

母が、イライラしている。

「えっ? お母さんはだいぶ前から、お父さんが亡くなったら可奈ちゃんが10億円だから、その半分の5億円頂戴ねって言ってたよね。

離婚したと言って、おじいちゃんにマンションの一部170万円出してもらったよね。お兄ちゃんと私にサインさせたでしょう? それなのに、離婚届を出してないの?」

「出す訳ない。秀くんに10億なら、あの女が喜ぶだけよ。あの女を喜ばせたくない。それに、小川の家で私は家政婦だった。あの家に来る客に『おうちの人を呼んで下さい』と言われた。私は、跡継ぎを産んであげたんだから、貰えるお金は貰う。

あのね、可奈ちゃん、もっと楽しいことを考えましょうよ。

コロナ開けたら、どっか行こうよ」


私は、何も喋りたくなくなった。

私は、どこで間違ったのだろうか。


「奈津は、じいさんが死んだことを、いつ知るのかなあ。裁判でもやってくれないかなあ。こっちが完全勝利よ」

母は、とても楽しそうに笑った。

叔母達を傷つけてきたのに、まだ足りない。

私も母と一緒になって叔母達を傷つけてきたんだ。

私は、兄や従弟妹に祖父の遺産をかすめ取ったと、ずっと言われるのだろう。

私は、十字架を背負わされたんだ。


母は、父が死ぬのを待っている。

離婚届を見つけて役所に出そうと思った。


「可奈ちゃん、何食べに行く?」

「パスタ」

寒中見舞いの葉書を掴んで、母が玄関を出た。

部屋を見渡し、離婚届はあの辺りだと見当をつけた。


小川の財産は渡さない!

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猛毒母と私 @sa6ku8ra

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