第43話 寒中見舞いの葉書

1月中旬、母のアパートに呼ばれた。

テーブルの上に、寒中見舞いの葉書があった。

「この空欄に天野太郎、次の空欄に漢数字の十一。

次は五と一。その下は”孫 小川可奈”これを53枚書いて」

「これが挨拶状? 嫌だ。名前を書きたくない」

「もう宛名を印刷したし、切手も貼ってあるからお願い」


”先日はご丁寧な年頭のご挨拶を頂戴し誠にありがとうございました

(   )は昨年( )月に他界いたしました

ご通知が遅れましたことをお詫び申し上げますとともに故人との生前のご交誼に

心より御礼申し上げます

酷寒の折 何卒お身体を大切に穏やかに新春をお過ごし下さい

  令和  年 月   (      )    "



「こんな葉書、私の名前で出さないで。心がない」

「これで、何もかも終わらせる事ができるから書いて」

「書かない」

「書け!」

母に、左頬を叩かれた。恐ろしい顔、祖父と同じ顔だった。

泣きながら53枚書いた。

「これを見て。教え子から、写真のやつ。品が無い。大嫌い」

「斉藤家の昔の年賀状は、和くんと良子ちゃんの写真付きで可愛かった。じいさんのことは、まだ知らせないの?」

「奈津って、なんて馬鹿なの?」

母が、大声で笑った。隣りの人に聞こえたかも知れない。

「死んだじいさんに12月誕生日プレゼント、死んだじいさんに年賀状。おかしくてたまらない」

母は、なんて酷い人なんだ。

私は、あんなにいい子の良子にもう会うことが出来ない。

祖母、叔母と義叔父は、私のことを良子のお姉さんと言ってくれたのに。

淋しい気持ちが押し寄せてきた。


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