第40話 祖父の入院

祖母が亡くなり2年が過ぎた。

エアコン無しで過ごせるようになった頃、

「じいさんが入院した。肝臓がんでもう長くないわ」

母から電話があった。淡々としていた。

祖父は、ひとりで入院の手続きをした。母には病院から連絡があったそうだ。

「お見舞いに行ってあげて」

「行きたくないな」

「1回でいいからどうしても、お願い」

私は、1回だけ行くことにした。


駅で待っていると、母が車で迎えに来た。

病院の駐車場に車を止めた。静かな場所で、建物は白くて綺麗だった。

「ひとりで行ってきて。それから、これを看護師さんに」

お菓子の包みを渡された。

「病院側は、受け取らないんじゃない?」

「生菓子ですって、言ったらいいから」

私は、包みを持って建物に入った。

受付で、身分証をと言われ免許証を出した。体温を測った。バインダーに紙があり、面会者への設問があり書いた。そして、日付けを書いてサインした。

祖父の病棟のナースステーションの前に行った。

「受け取れないんです」

看護師さんに言われたが、生菓子ですのでと、言うと受け取ってくれた。


祖父は、個室に入院していた。

痩せ細って別人だった。

「おじいちゃん、元気?」

「可奈、よく来てくれたなあ」

しばらくの沈黙の後、

「あんたは、刺身や野菜の煮物をよく持ってきてくれたなあ」

呆けている訳でもなさそうなのに、私を可奈と呼んで良子の話をしている。

面倒なので「はい」と返事をした。

話しをすることが無くて困った。

「ポストに郵便物があったら持ってきてくれ」

「はい」

「チラシや旅行会社の案内とかは捨ててくれ。もう、行くことはないからな」

祖父が笑ったので、私も笑った。

「おじいちゃん、またね」


病院を出た。母が、車から出ていた。

「ありがとう。どうだった?」

「私のことをお前ではなくて、可奈って言った。なんか良い子になっているみたい。お母さんは、お見舞いに行かないの?」

「たまに行くだけ。しょっちゅう行ったら有り難みがないからね。あなたのこと、可奈って言ったのね。それでいい」

母は、何か考え事をしていた。

駅まで母が車で送ってくれて別れた。


10月になった。前日のコロナワクチン接種で体がだるかった。

「じいさんに一時帰宅してもらった。大切な事は終わった。もう1回お見舞いに行って。その時に話すね」

「はい」

母からの電話がしんどい。

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