第39話 納骨

10月の末、母と私は四国に行った。

「奈津に電話したけど斉藤家からは誰も来ないって、じいさんに言ったら激怒していた。『あいつらは、そこまで酷い奴らなのか』と怒ってた。

じいさんに、四国まで行くのははしんどくて無理よ、となんとか説得した。あの人と四国に行くのは絶対に嫌。

お膳は、じいさんが手配してくれた。

従兄は、3人来てくれる。適当に話を合わせてね」

「はい、わかりました」と、私は母に言ったけれど不安だった。


天野家のお墓を初めて見た。小川の2倍位大きくて立派だ。墓標もある。

お寺には、お爺さんが3人いた。祖母の姉の息子と、祖母の兄の息子2人だそうだ。貴金属店の母の従兄はすぐに分かった。愛想がいい人だ。


「父は高齢で仕方ないのですが、奈津の家族は誰も来ないんです」

母が、泣きながら言った。

「奈津は来ないのか。薄情な奴だなあ」

貴金属店の人と、弟が呆れていた。

「奈津は、そんな子じゃないよ」

目の鋭いお爺さんが、他のお爺さんに言った。


お寺の住職が来られた。冊子を配り「一緒に唱えて下さい」と、仰った。

焼香は、母、私、目の鋭い人、貴金属店の人、弟の順だった。


法要が終わり、昼食となった。お寺の食事ができる部屋に、移動した。

お膳が届き、母が、キャリーケースから日本酒の小瓶3本とペットボトルのお茶5本を出して並べた。コップはお寺が用意してくれた。

母が日本酒を注ごうとしたら、お爺さん達が『いいよ』と、言った。

お膳は、豪華でお吸いものもあった。私は、お椀に入れて5人の席に配った。


「静子叔母さんは、綺麗な人だったな。奈津の子どもが可愛い。叔母さんのDNAを受け継いたんだな。叔母さんが、自慢していた。

いつだったか、奈津の家族が、天野家のお墓参りと、ウチの墓参りをしてくれた後、店に寄ってくれた。前の日は、山口のお墓参りをしたそうだ。

こっちの温泉に一泊。岡山空港の無料駐車場に車を置いてハワイに行くと言ってた。無茶苦茶やなあと言ったら4人が笑っていた。奈津の一家は面白い家族やなあ」

貴金属店のお爺さんが、懐かしそうに話した。

「奈津の結婚式で見たけど、斉藤さんは友達がたくさんいて、ええ感じの人やったな」

兄弟が喋った。


「奈津達が来ないというけど、お兄ちゃんはどうした」

目の鋭いお爺さんが、私に聞いた。

「九州は、遠いから」と、母が答えた。

「九州の何処? 九州は遠くないやろ」と、貴金属店のお爺さんと弟が笑った。

「急用が出来たのよ」と、母が言った。

「仕出し屋が持ってきたのは、お膳が5個だ。お兄ちゃんのは?」

目の鋭いお爺さんが、また私に聞いた。

「お寺の人にあげた」と、母が慌てていた。祖父のようには騙せない。

「おっかしいなあ。お寺に聞いてこようか?」

目の鋭いお爺さんと母の会話は、嫌な感じだった。

「従兄さん、もうやめよう」と、貴金属店のお爺さんが止めた。

父の話は出なかった。母と離婚したことを知っているのだろうか。


「奈津は、俺のお袋によくしてくれた。お袋が死んだ時には香典だけじゃなく、嫁に手紙をくれた。優しい手紙だと嫁が喜んでいた。奈津からの年賀状で腰の骨折を知った。嫁は看護師だから、奈津は相当痛かったと思う、後遺症もあって可哀想だと言っていた」

「従兄さん、今日は叔母さんの話をしよう。叔母さんは、末っ子で苦労したな」

貴金属店のお爺さんが、祖母の話を始めた。


「今日は、お忙しいところ有難うございました」

食事が終わって、母が挨拶した。

「ちょっと聞きたいことがある。静子叔母さんから分骨を頼まれていた。天野家も承知の筈なんだが」

貴金属店のお爺さんが、母に言った。

「父が、分骨を断りました」と、母がすぐに答えた。

「その話、天野の義叔父さんから聞きたかったな」

「すみません」と、母が謝るのを、目の鋭いお爺さんがじっと見ていた。

「元気でな」と、3人のお爺さんが丁寧に頭を下げた。

「有難うございました」と、母と私も頭を下げた。


「あの目の鋭いお爺さんが怖かった」

「警察官をしていた人よ。もう会うことはない」

母が予約したビジネスホテルに向かう電車の中で少し話した。

夕食は、簡単に済ませようとコンビニでカップうどんを買ってホテルの部屋で食べた。


翌日、東京へ向かった。母は無言だった。

「しばらくは連絡しないで」

東京駅に着く直前に、母に言った。

「おつきあいしている人がいるのね。どんな人? 会わせて。家柄は? どこ卒業?」

「そんなんじゃない」

母が、変な顔をしたがそのまま別れた。


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