第38話 祖父と斉藤家の分断

それから、3週間経った。

「面白いことになるかも知れない。

じいさんの好物の野菜の煮物を持って行ったの。

父の日には、奈津からプレゼントが届いたそうよ。

じいさんが、お礼の電話したら留守電だったって。叩き切ったって。

自慢の電話機、そのうち壊れるかもね。

『ワシは、電話と喋るつもりはない』と凄い剣幕だった」

「へえ、そうなの」私には、何が面白いことになるのかわからない。


「一升瓶が6本も転がっていたから、片付けた。

翌日、遅くなったけどって日本酒をあげたら、『奈津から毎年贈り物があるけど、お前は小学校以来か』と、言われた。それでも、嬉しそうだった」

「へえ、そうなの」

特に関心のある話ではなったので、適当に合わせておいた。


秋になった。

「ポストに奈津からの手紙があった。家族写真が入っていた。それと、商品券が5千円分入っていた。

じいさんが、懸賞に応募して2千円分のQUOカードが当たっていたから、これも勝手に貰ったわ。

じいさんには、チラシと他の郵便物を渡した」

「へえ、そうなの」

母は、何処へ向かっていくのだろう。その家族写真をどうしたのかも、聞きたくなかった。


母が祖父の家に行くのは、祖母が生前の頃と同じように、月に一度になった。

「ひとりでお酒ばかり飲んでいる。12月の誕生日に奈津からプレゼントが届いたけど、また留守電だったから叩ききってやったって。

良子に会いたい、と言うので伝えておくと言っておいた。一応ね」

一応ねという母の笑い声で、ぞっとした。


「叔母さんは、じいさんに電話しないのかなあ」

「トラウマがあるみたい。7~8年前に、じいさんが奈津を1時間も怒鳴り続けたことがあったらしい。。受話器を耳にしっかりつけて聞いたので一時難聴になったと、静子さんから聞いた。馬鹿よね。耳から外せばいいのよ。

じいさんは、怒り出すと手がつけられなくなるでしょう?

奈津は、じいさんとの電話が怖いのよ」

「一時でも難聴になるなんて、よっぽど凄かったのね」

私は、叔母が気の毒に思えた。


「あっ。じいさんが納骨を気にしているから、四国に行くつもり。

可奈ちゃんもお願いね。お寺の住職は、コロナ禍なので日程は気にしないで下さい、って仰ったと聞いているけど、じいさんがうるさいのよ」

「わかりました」と、返事しておいた。


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